或叛逆者之記録
今から60年程前のこと。平民兵による銀河帝国第五王朝二十三世皇帝カリグラ陛下暗殺未遂事件があった。帝国の恥である事件の事は隠蔽され、その詳細を知る者は現在では両手で数えられる程になっている。この空前絶後の事件の詳細を後世に伝える為、私自身が危険に遭う可能性を覚悟の上で私はこの文書を残す。もしあなたが生半可な覚悟でこれを読もうというのならば、今直ぐにこの文書を忘れて欲しい。知は時に、自らを滅ぼす。特に、権力に覆い隠された物事は。
この文書は幾つかの文字資料と当時皇帝の侍従だった私の見聞きした物事を纏めたものだ。当時の資料には手を加えていない。危険思想が多く含まれているが、あくまで叛逆者のもので或ることを念頭に読み進めるよう強く忠告する。
資料①:皇帝付護衛武官の報告書(337年)
大逆罪に係る報告書
ユピテルス朝歴参佰参拾漆年壱月弐拾肆日、御新皇帝カリグラ陛下に於かれては御勅領へと赴かれることとなられた。然し乍ら惑星ウルカヌスに於ける空港より代官邸への御行程の中途、領内の農奴の作業車が泥を跳ねさせ、陛下の御車に泥を付けた。我々護衛武官の協議の末陛下の御御心に従い、作業車を操りし農奴壱名及びその眷族伍名を大逆罪として銃殺刑に処すこととした。尚、皇帝陛下に於かれては無事代官邸へと到着なされた。
ユピテルス朝歴参佰参拾漆年壱月弐拾伍日
皇帝付護衛武官隊長ウィプサニウス・アグリッパ大将
資料②:農奴ノイ・ロアーンの日記
(解読不能な殴り書きされた文字の羅列)
(ページが赤黒く汚れ、しわになっている)
1月25日
少し自分が落ち着いた気がするから、将来何が起きたか忘れないためにこれを書こうと思う。正直まだ混乱している。なぜ俺の家族は殺されたのか。
昨日俺は、町に税を納めに行ったあとだらだらと市場を見て回り、日が暮れかけたころ家に戻ってきた。農奴の俺達には電気も高級品なので、普段夜中は明かりがついていない。それなのにその日、家に電気がついていた。家の中をのぞくと、隣家のおじさんがいた。
「どうしたんだ?おじさん」
「…ノアーンか?お前さんの家族は大逆罪で処刑された。早く逃げろ。巻き込まれたくないだろ?」
「待ってくれ、一体どういう…」
「今日、皇帝陛下が一本道を通られて、その時にお前さんの親父の作業車が飛ばした泥が陛下の車を汚したんだ。俺はさっき死体の後片付けを命じられて、聞いたばかりだが…そんな雲の上の方に目を付けられたんだ、いつ殺されてもおかしくない。逃げろ!」
俺は混乱していた。家族が殺された?どうして?そうしておじさんが止めるのも聞かず家に入った。俺の視界に飛び込んできたのは、額に大きな穴をあけられ血まみれになった家族だった。父さん、母さん、兄さん、妹、爺ちゃん。その表情は、彼らの死の瞬間の恐怖と困惑を留めていた。俺は奇声を上げておじさんに飛び掛かり、辺りのものをぶちまけた。そんなことをしても意味はない、おじさんは特に善意だったのだから俺は感謝すべきだった、でも俺にはそんなことを思う余裕もなかった。おじさんは「まあ、そうもなるよな」といったことを言って帰り、俺は一人取り残された。いや、おじさんは帰っていなかったかもしれない。そう、そうだ。おじさんは俺を落ち着かせようとしてくれて、俺は一通り暴れた後日記帳やら財布やらを持って家を発った。町の宿に部屋をとると、俺は疲労で倒れ伏し、起きて今こうしている。もう夕方だがとりあえず状況を見に行こうと思う。
町に行ってきた。何でも俺みたいな田舎者は知らないことが多いらしい。恐る恐る憲兵番所の前を通っても呼び止められることは無かった。別に憲兵は逃がした大逆犯の家族を殺し尽くせる程暇ではないそうだ。とはいえ村には戻らない方がいいだろう。この町で仕事を見つけよう。
1月28日
あれから少し日が経ち、気持ちの整理が少しついてきたように感じる。未だに無職なので少し財布が厳しくなってきた。とりあえず安い相部屋に移ろう。
1月30日
隣のベッドとその隣のベッドのむさくるしい男たちが殴り合いの末に双方倒れ、相部屋の生存者でくじを引いた末に俺がそいつらを憲兵詰め所に連れていくことになった。恐る恐る警察に行ったが、特に何も咎められることなく生きて帰ることが出来た。そもそも彼らは俺のことを忘れているのかもしれない、そう思うと元気が出てきた。
2月1日
やっとこの町でまともな求人を見つけられた。憲兵って公募するんだな…農奴であり続ける将来しか思い浮かばなかった今までなら決してそのことに気づかなかったろう。
3月6日
久しぶりに日記帳を書ける。長い試験合宿から解放され、憲兵としての就職が決まった。これで食うには困らない。
3月7日
困ったことが起きた。憲兵隊は自由民しか採用できない法だというのだ。農奴の俺は無職、それどころか牢屋行きになるかもしれない
3月10日
アレク教官が俺の後見人になってくださるそうだ。これで定職に就ける。
4月2日
皇帝の閲兵式があった。同僚たちが歓声を上げていたが、どうにもそんな気分にはなれなかった。あの男が、あの黄色いトガの男が俺の家族を惨殺した男だと思うと。俺のすぐそばを歩いていく皇帝を殺してやりたいという気持ちを抑えるのでやっとだった。そんなことをしていたら警護の兵に一瞬で殺されていただろう。だが、皇帝のことを思い出して、復讐をしたいという心持が甦り始めている。
4月3日
図書館で一日皇帝の殺害方法を思案していた。読んだ本から叛意を悟られないよう「近衛兵を目指す新人憲兵」という体で本を調べた。ただの憲兵が皇帝と近くに対面する方法は二つある。軍隊のエリートである近衛兵からさらに最精鋭のみを集めた部隊である皇帝付護衛武官になるという道と、月に一度だけ行われる謁見式で帝国全土から皇帝に直訴するために帝都を訪れる数万の民から選ばれるという道だ。皇帝付護衛武官になるにはどれほど有能な兵士でも15年はかかるそうだ。皇帝は今25歳だから間に合うかもしれないが、一方で皇帝というものは全方位から常に命を狙われているから15年後も生きている保証はないし、皇帝付護衛武官になる前に叛意がないか厳しく確認されるだろう。それを乗り越えられる自信はない。運よく警備の手薄な皇帝の行幸に出会えるという幸運を期待するのは無駄だろう。とすれば、謁見者選定官に賄賂を渡して皇帝に謁見しそこで暗殺するのが唯一の道という事になるだろう。
4月13日
憲兵の同期に親が謁見者選定官をしているという奴がいた。それとなく探りを入れよう。
4月16日
例の選定官の子、ルシアスにやっと話を聞けた。謁見するためには実質的に選定官への賄賂が不可欠となっているらしい。相場は300アウレウス、俺の年収の約6倍だ。どんなに切り詰めても15年、その間に出世できても10年はかかる。
4月18日
俺が金を工面しようと奔走しているとどこで聞きつけたのか、先輩が『良い副業』を持ち掛けてきた。違法営業をしている店を見逃す代わりにかなり多額の金が懐に入るそうだ。上司に見逃させるための賄賂や元締めへの上納金を差し引いても年間で70アウレウス、年収の1,4倍が手に入るそうだ。喧伝に誇張はあるだろうが、巧くいけば5年程度で目標額に到達できるかもしれない。この国はどうしようもなく腐っているけれども、それが俺の復讐の助けとなっている。皮肉なものだ。少し悪事に手を染めることに躊躇いは覚えたが、皇帝への復讐を達するための必要悪だ、そう思えばなんともなかったしむしろ叛逆への第一歩になると思うとやる気になった。
4月17日
随分簡単に大金が手に入るものだな、と思った。今自分は奪う側にいるからいいが、奪われる側に回ることがあれば大変そうだと感じた。今日思ったが、この日記が発見されたら俺は確実に処刑される。とりあえずこれは隠しておこう。
この日記帳を開くのは、実に9年ぶりだ。明日、347年1月24日、俺の家族が殺されてから丁度10年目のその日に俺は皇帝に謁見する。結局謁見だけでなく持ち物検査の免除や謁見時間の指定といった追加要素で賄賂は膨れ上がり、この3年はほとんど休む間もなく働いてきた。皇帝暗殺の成否に関わらず俺は確実に処刑される。そんなことは分かっている。けれども、平民や農奴を虫けらの如く見下し殺す皇帝に、俺たちの気持ちを解ってほしい。今日は早く寝よう。裏市場で買った最新型の銃は完璧に手入れした。
この日記はノイ・ロアーンの家から発見されたものであり、その中身には手を加えていない。
資料③:カリグラ陛下とノイ・ロアーンの会話記録
この記録は、記録用カメラが捉えた皇帝陛下と叛逆者の会話記録を文字に起こしたものである。この内容に関しては第一部外秘とする。
帝国皇統記録管理部第漆拾肆代長官セクレート・ノンエースト
皇帝陛下(以下C)「今日の謁見者は…ほう、憲兵か。どうした?余に給料を上げるようにでも頼みに来たのか?」
叛逆者(以下R)「まず、最初に人払いをお願いいたします」
C「よかろう。皆の者、下がれ」
護衛武官、側仕えなどが退室する。
R「お初にお目にかかります、惑星ウルカヌスの憲兵ノイ・ロアーンと申します。失礼ですが、陛下は今から丁度10年前、惑星ウルカヌスへ訪問されていらしますよね?」
皇帝陛下が記録をお調べになる。
C「確かに、余は今から丁度10年前、ウルカヌスの代官邸を訪ねた。それがどうした?あそこはいい星だ。半年に1度は様子を確かめに行く」
R「陛下はその時、お車に泥をかけた農奴を処刑なさっておられますよね?」
C「そんなこともあったかもしれんな。何を言いたい?」
R「その程度のことで人命を奪われたことをどう思われているのですか?」
C「なかなか難しい質問だな。だが、余の答えは既に定まっておる。いかに小さかろうともその意図を持っていなかろうとも叛逆を見過ごせば皇帝の権威は平和な時代では簡単に失われる。皇帝というものは強大な力により民草から畏れられるべき存在だ。お前もそうして余を恨んだ者の一人なのだろう」
R「謝罪は、なさらないのですね」
C「強大な皇帝たるものの宿命だ。この帝国がもしもう少し優しければな」
叛逆者がポケットから無造作に銃を取り出し卑しくも皇帝陛下へとその銃を向ける。
C「ほう…あれほど高給を得ているはずの高官ですら賄賂を受け取り所持品検査すらせぬとは、この国の腐敗は余が思っていたよりも激しいようだな」
R「何故、護衛武官を呼ばれないのですか?」
C「いやなに、お前と少し話をしてからでも遅くはないかと思ったからな。お前の正体はなんだ?」
R「私はもともと、ウルカヌスの農奴の子でした。今から丁度十年前の今日、陛下は私の家族が担当する畑の脇を通られ、その際私の父が運転する作業車が泥を跳ねさせ、お車を汚しました。私の父には陛下がいらっしゃるという事など全く知らされておらず、叛逆の意図など微塵もありませんでした。偶々街へ出ていた私以外、家族の全員が殺されたのです。私は陛下に復讐をするために、悪事にも手を染めました」
C「ふむ。それで、お前は私を銃撃でもするのか?弑すのか?」
R「…はい」
叛逆者が皇帝陛下に発砲する。その軌道は正確であったが、玉座の前のシールドによって防がれる。鳴り響きかける警報音を陛下がお止めになる。
C「わかったか?お前には余を殺す事は出来ない」
R「あの選定官…謁見の間のことを洗いざらい話すよう言ったのに…」
C「何、彼はただの腐った輩だ。このシールドのことを知っているのは余の腹心せいぜい10人程度だ。余を殺して、お前はどうするつもりだった?」
R「私も死ぬつもりでした。ただ、皇帝の暴虐を国中に知らしめたかった。身分差に苦しめられている人々に希望を示したかった」
C「余を殺したところでお前の目標に届くことは無い。余も、帝国という巨大な機械の歯車に過ぎない。広報官は余を病死と発表するだろうし、皇族の誰かが新たな皇帝となるだろう。お前のような叛逆者への対策として連座の徹底や汚職の規制といった政策が行われるかも知れぬが、皇帝の車を汚したものは変わらず処刑されるだろう。世界はそう簡単に変わらない」
R「…じゃあ、俺のしてきたことは無駄だった、という事なのか…」
C「そう嘆くな。余は謁見の間にまで乗り込んできた愚か者のことを生涯記憶するだろう。農奴の子には十分すぎる栄誉であろう」
R「…あなたは、その地位に溺れて、人の心というものを忘れてしまわれたのですか?」
C「先にも言ったろう。皇帝という歯車は、冷酷で、なければならない。威厳を持っていなければならない。その為には、畏れられるためには、血を流さなければならないのだ」
R「本当に、血を流さなければならないのですか?」
C「残念だが、そうだ。我がユピテルス王朝のひとつ前の王朝は、玉帝朝といった。今から400年も前の話だ。彼らは慈悲による政を行った。民からの支持は篤かったが、次第に皇帝という地位の不可侵性は薄れ、帝命が蔑ろにされることも増えた。また、国家の保護を当てにして労働を疎かにする民も増えた。結果として経済は低迷し、逆上した民により旧帝国は滅ぼされた。この反省から我がユピテルス朝は権威を重視した政策を続け、300年以上にわたる安定した繁栄を築いた。安定した国家のためには罰が必要だというのが人類の最新の結論だ」
R「それでも、罰するのは叛意があった時だけでいいのではないですか?」
C「その判断をどうやってする?思想解析技術を欺くことは簡単だ。それならいっそのこと事故を含め処刑した方が遥かに正確だ。余は慈悲深い皇帝であっては、ならない。畏怖される皇帝でなければ、ならないのだ」
R「そう…ですか」
C「ああ」
皇帝陛下が御手を上げられ、その合図に応え護衛武官が入室する。20の銃口を向けられた叛逆者は、そのこめかみに銃口を押し当てた。
R「地獄で、お待ち申し上げています。皇帝陛下」
護衛武官が止めようとしたが間に合わず叛逆者が自殺する。
護衛武官「な…何者ですか?」
C「余を暗殺しようとした馬鹿者だ。さらし首にしておけ」
皇帝陛下が退室なさる。
資料④:叛逆事件連座一覧(参佰肆拾漆年弐月壱拾捌日第壱次調査完了)
本年壱月弐拾肆日、皇帝陛下の暗殺未遂事件が発生した。この資料は犯行に関与した者の一覧である。
ノイ・ロアーン 大逆罪により処刑された家族の仇を討つという妄想に取りつかれた末に皇帝陛下を暗殺しようとした。
罪状 叛逆罪 銃器不法所持罪 銃器不法購入罪 贈賄罪 収賄罪 身分偽証罪 危険思想所持罪 農耕放棄罪 大逆罪連座 住居放棄罪 他余罪数件
犯人自殺により処罰不能
サーフ・サーバス 大逆犯であるノイ・ロアーンの逃走を唆したことで事件の遠因を作った。
罪状 大逆犯隠避罪
連座として配偶者共々弐月玖日に処刑済み
アレク・インストラ 本来農奴であるノイ・ロアーンの後見となり憲兵とならせたことで叛逆者に情報と資金の源を与え事件の遠因を作った
罪状 身分偽装補助罪 準大逆罪
憲兵隊教官を懲戒解雇、眷族共々農奴とする
ルシアス・エリジェンス ノイ・ロアーンに謁見関連の情報を提供した
罪状 守秘義務違反 準大逆罪
ウルカヌス憲兵第弐百漆拾参小隊長を懲戒解雇
ランテリアス・エリジェンス 謁見者選定官とういう要職に在りながら賄賂によって謁見者を選定し、賄賂に目を眩ませて所持品検査や思想検査を怠り事件の直因を作った
罪状 収賄罪 職務放棄罪 準大逆罪
配偶者、子参名、孫壱名、その他眷族弐拾参名共々弐月拾漆日に処刑済み
プライミア・クラーピド 憲兵でありながら賄賂を受け取って犯罪を見逃していた。また、ノイ・ロアーンを協力させたことで事件の遠因を作った。尚、その他の収賄者を明らかにすることとはならず汚職の追求が求められる。
罪状 収賄罪 職務放棄罪 準大逆罪
終身懲役及び強制労働刑が確定
以上が現時点で判明している今回の事件の連座犯である。追加で判明した場合は更新する。尚、この内容については第二部外秘とする。
この後の更新はない。
資料⑤:編者の見聞録
ここからは私ウェッレイウス・コメンタリウスが当時の見聞をまとめたものだ。
はじめは、いつも通りの謁見だと思った。ノイ・ロアーンが人払いを頼んだ時も不思議に思いはしたが20回に一度程度の頻度でそう頼まれることもあったのでそう強い違和感は感じなかった。が、謁見の間からの警報が一瞬鳴った後すぐに保留となった事で待合室には緊張が走った。護衛武官たちと謁見の前に駆け付けると、合図があるまでの入室を禁じるという連絡が全員の個人デバイスに届いた。それが“書かされた”ものではないことは記録用カメラの映像から明らかであったため、合図があればすぐに駆け付けることが出来るよう私たちは扉前で待機していた。記録用カメラの映像は各自のデバイスに届いており、陛下が合図された後すぐに私たちは謁見の間に突入した。私とノイ・ロアーンは一瞬目が合ったように感じる。彼の眼には、失望が色濃く見えた。が、彼は、正気な者の眼をしていた。
彼の家から発見された日記により動機や初期の協力者は容易にわかった。然し日記に記されていたのは最初の数か月のみであり、その後の約十年間の彼の動向については最終的に殆ど掴むことが出来なかった。共和主義系地下組織などとの関連も疑われたものの全く記録などが残っておらず何も突き止めることが出来なかった。それは大きな反省点だ。
また、ランテリアス・エリジェンスは賄賂の為に所持品検査を怠ってはいなかったという事も記しておくべきだろう。彼は当時皇帝陛下と対立関係にあった元老院に近しい下級貴族であり、皇帝暗殺に協力することで元老院の後ろ盾の下出世できるのでないか、という公算で彼は故意に暗殺を防ごうとしなかった。結果として彼はその賭けに敗れ、一族もろとも処刑された。皇帝側はこれを理由に元老院への影響力を強めることに成功した。
この事件が国政に与えた影響は他にも存在する。これを境に皇帝陛下の政策が少し民に配慮する方向性に変化した。小さな変化ではあったが、1つの命が失われたことと引き換えにいくらかの命が救われたかもしれない。
カリグラ皇帝陛下はしかし今から50年前、わずか43歳で政敵の放った刺客により崩御された。私が残したこの記録が、これを読んだあなたの記憶に留まり、遠い未来に私たちの生きた時代のことが伝われば、この時代を生きた者としてそれ以上の光栄はない。
ユピテルス朝歴405年2月18日
ウェッレイス・コメンタリウス