7話、エルフ族の里で1泊
~魔人さん視点~
森の家、村の跡地を飛び立ってはや数日、思った以上に順調に進んでいる。
最初は恐る恐るだった女性たちも空の旅に慣れてきたし、子供たちも思った以上に騒がない。
中での様子を聞いてみると、ほぼ無言で2人並んでずっと窓から外を見ているそうだ。
たまに「すごいね」や「とりさん!」などと声を出すようだが、グレンくんもルーシェちゃんも基本静かで大人しいそうだ。
休憩中、僕の姿が見えていると騒ぐしはしゃぐし僕の近くを走り回っている。
かなり印象が違うな。
「きっと、魔人さんの姿が見えると安心するんだと思います」
「そういうものなのかな……」
「そういうものです。私たちも人間の騎士様なんかより、魔人さんと一緒に居る方が安心できますし……」
今話している女性、アーシャさんと言うらしいが、頬を赤らめながらそう言った。
人間同士ならドキドキシチュエーション、フラグキタ! と喜ぶ場面だが、残念なことに僕は魔人族、人間の美醜はイマイチ分からない。
ほら、外国人が日本人の顔の区別が付かないというでしょ? そんな感じ。
「まぁ僕と一緒に居たら安心だって言うのなら……」
それでいい。
人間に襲われたのだから人間より魔人の方が信頼できるってことなんだろうけど、それはそれで歪だよなぁ。
「こればかりは……」
「まぁ、理解は出来るよ。話は戻るけど、僕の姿が見えれば安心ってことなら……」
ちょっとゆりかごを改造しようかな?
箱の中からでも僕のことが見えるように天井部分を少し開けて……
強度的には問題無いかな? これなら見上げれば僕の姿が見えるだろうし、安心かな?
僕の思いつき改造は好評で、今までずっと外を見ていたグレンくんとルーシェちゃんはゆりかごの中のシートに座りずっと僕を見つめていた。たまに目が合うとその小さな手を振ってくれる。
中ではしゃぐことはしないが、それでも会話というか、口数は増えたそうなので成功と言ってもいいだろう。
「魔人さーん、ここどこー?」
「ここはね、エルフ族の里の近くだよ。エルフ族は木の上に家を作って生活してるんだよ」
「おおー!」
上空からでは確認出来ないが、既に大森林の亜人族の生活する辺りまで飛んできている。
エルフ族は大森林の中心部辺りに住んでいる。
どうせこのまま飛んでも今日中に大森林を超えることは出来ないだろうし、今日はここでお世話になろうかな?
エルフ族の里にも人間は住んでいるはずだし、その人間と面識は無いがエルフ族は魔人族と同じ長命種、何人かは知り合いが残っているだろう。
「今日はエルフ族の里にお泊まりしようか、木の上の家、ツリーハウスを見てみよう」
「「はーい!」」
うん。子供たちは今日も元気だ。
女性たちも、子供たちにの元気に釣られるように笑顔が増えてきている。
いい事だと思う。
エルフ族の里の中心にある広場に着陸、近くを歩いていたエルフに声を掛けて族長を呼んでもらう。
「こんにちは、僕は魔人族のアザトゥースと言います。族長さんに取り次ぎ願いたいのですが……」
「魔人族のアザトゥースさんですね、お噂はかねがね……すぐに呼んできますね」
エルフさんはどうやら僕の事を知っているようだ。すぐに族長を呼びに行ってくれた。
「魔人さんのおなまえー?」
「そうだよ。アザトゥースって言うんだ。よろしくね」
そういえば村の人に名乗ったことって無かったな……
最初からずっと「魔人さん」と呼ばれていた。
当然あの辺に魔人は僕しか居なかったので問題は無かったが、これから魔人族の里で生活してもらうためにも名前は覚えておいて貰わないとな。
魔人族の里で「魔人さん」って呼んだらみんな反応しちゃうからな。
「やぁ、アザトゥースさん、お久しぶりですね」
「族長さんご無沙汰しています。実は……」
簡単に事のあらましを族長さんに説明すると、族長さんは悲しそうな顔をして僕の連れてきた村の生き残りたちに向き直った。
「それはお辛い経験をされましたな……見ての通り何も無い里ですが、ごゆるりとおくつろぎください。我らエルフの住処は木の上、そこまで登るのも大変でしょうし、里の人間が経営している宿がありますので、そちらをお使いください」
「族長さん、ありがとうございます」
「いえいえ、もちろん料金もこちらでお支払いしますので……」
「そんな……それは悪いですよ」
「アザトゥースさんとそのお連れの方からお金を取るなんて出来ませんよ」
むぅ……そこまで言われてこれ以上固辞するのは逆に失礼か?
「ではお言葉に甘えさせて頂きます。このお礼は、きっといつか」
「これ自体がお礼なのですが……」
族長さんがここまで僕に良くしてくれるのには当然理由がある。
以前ここを訪れた際、エルフ族の頭を悩ませていた魔物の討伐を行ったのが僕だからだ。
あの頃はまだヒャッハーしていた時期で、「我の配下となるのであれば里を救ってやろう!」などと言いながら調子に乗って魔物を殲滅した黒歴史だ。
さっさと忘れて欲しいのだが、当時生きていたエルフの大半はまだ生きてるからな、これがあるから引きこもりたいのだ。
その日はエルフ族のみなさんの好意に甘えて1泊させてもらった。
宿を経営していた人間もアルベイン王国には恨みがあるようで僕たちを歓迎してくれた。
「人間から見れば亜人族は恐ろしく映りますけど、接してみると人間なんかより余程気のいい連中ばかりです。皆さんの心の傷が癒されることを願っています」
僕たちを泊めてくれた宿の店主の言葉だ。
店主は元冒険者で、エルフ族の里の付近まで採取依頼で来て魔物に襲われ大怪我をした時にエルフ族に助けられたらしい。
そのまま里に居着いて生活しているようだ。
「国には親兄弟が残っていますが……戻る気はありません」
出発前、店主は悲しそうな笑顔で僕たちにそう言ってお弁当を用意してくれた。
「ありがとうございます」
「お気になさらず、料金は族長様から頂きましたので」
僕たちは店主や族長さんに別れを告げて再び空へと舞い上がった。
ここからなら今日中には魔人族の里に到着出来そうだ。




