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最強の魔人に育てられた少年は英雄へと至る  作者: 愛飢男
序章……幼年期、魔人さん編
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4話、激情

 ~魔人さん視点~


「……ん?」


 深夜、何かの気配で目が覚めた。


 草木も眠る丑三つ時、こんな時間に森の中が騒がしい。


「何事?」


 体を起こして気配を探る。

 見つけたのは、複数の動物が何かを囲んでいる気配だ。


「これは……気配の大きさ的に狼かな? なんで狼が……」


 もしかしたら村で何かが起こったのかもしれない。

 森に逃げてきた村人が狼に襲われているとしたら……


「まずいね」


 立ち上がり、駆け出す。


 場所は村とこの家の丁度中間地点、急がなければ。


 僕が全力で走れば数分とかからない、到着した現場で目にしたのは血まみれで蹲るハンクさんの姿、そしてハンクさんを囲うように展開している狼。


「ハンクさん!」


 慌てて地面に魔力を流し込み土棘を発動、全ての狼を貫き殺す。


「ハンクさん! どうしたんですか!? 一体何が!?」


 ハンクさんの背中には、数本の矢が突き刺さっていた。


 おそらくそこから流れ出る血の匂いに誘われた狼に襲われたのだろう。


「魔人……さん……」

「ハンクさん!」


 慌てて駆け寄り様子を見てみると、ハンクさんはその腕に2人の子供を抱き抱えていた。


 1人はハンクさんの息子のグレンくん、もう1人は……確かハンクさんの兄、マルクスさんの娘のルーシェちゃんだ。


「魔人……さん……」

「ハンクさん、何があったんです?」


 これはただ事ではない。


「この……子たちを……2人を……たすけ……」

「ハンクさん!!」


 すぐにでもハンクさんを助けたい。

 しかし、魔人族である僕には……治癒魔法は使えない。


 なにが最強だ。

 亜人領最強、人間の国を相手取っても勝てる力はあるくせにこんな時友達1人助けられない。


 少しでもハンクさんの痛みを和らげるために闇属性魔法、麻痺をハンクさんに向けて唱えた。


「少し……楽になりました」

「ハンクさん、一体何があったんですか?」

「貴族が……アルベイン王国の貴族が襲ってきました」


 アルベイン王国の貴族……詳しくは知らないけど、噂では聞いたことがある。

 なんでも貴族至上主義の国だとか……


「なんで貴族が……」

「分かりません。ですがもう……村は……みんなは……」


 ハンクさんの目から涙が溢れた。

 そんな……


「魔人さん、お願いします……どうか、どうかこの子たちだけは……」


 ハンクさんは縋るように俺の手を握ってくる。

 その手を、俺は強く握り返した。


「……分かりました。任せてください。この子たちは、僕が責任を持って育ててみせます」

「魔人さん……ありがとう……」


 ハンクさんは少しだけ、ほんの少しだけ口角を上げて……動かなくなった。


「ハンクさん……」


 少しずつ、僕の手を握るハンクさんの手の温もりが消えていく。


「貴族……」


 その手が冷たくならぬよう握り返すが、ハンクさんはなんの反応も示さない。


「人間……」


 ハンクさんから、何かが抜けていく。

 命が、抜け落ちていく。


「ニンゲン風情がぁぁぁああああ!!」


 轟と黒い風が巻き起こる。

 僕の魔力が、荒れ狂う。


 ニンゲンが、殺した。

 俺の友達を、殺した。

 俺の友達の村を、壊した……


「ああああああああ!!」


 殺意が吹き出す。

 黒い衝動が僕を飲み込んでいく。


 コロス。

 キゾク、ニンゲン、コロシテヤル……


「おとうさん……」


 全てを蹂躙するために踏み出した足が、止まった。

 マグマのように吹き出していた怒りが鎮まっていく。


 そうだ、僕は託されたんだ。


 振り返ると、そこには2人の小さな子供。

 ハンクさんの遺体にすがりついて泣いている、2人の子供。


 僕は……こんな子供を置いて何をしようとしていた?


 踏み出していた足を戻して、2人を抱きしめる。


「ごめんね……」


 僕がもっと早く気付いていれば……

 村長の誘いを受け入れて、村で一緒に暮らしていれば……


 後悔は尽きない。


 泣きじゃくる2人に睡眠の魔法をかけて眠らせる。


 ハンクさんの遺体から矢を引き抜き、水魔法を使って綺麗にしてから丁寧に異空間魔法に収納する。


「まずは……」


 何をするにしても、この2人の安全が最優先だ。


 2人を連れて家に戻り、俺のベッドに寝かせる。


 外へ出て幾重にも結界を展開して何が襲ってきても大丈夫なように備える。


 これだけ結界を重ねておけば僕でも全部壊すのにかなりの時間がかかる、人間には絶対に壊せないだろう。


「急がないと……」


 結界を貼り終えた僕は、背中の翼を広げて飛翔魔法を使って浮かび上がり、村の方へと急ぐ。


 途中、他に森に逃げ込んだ村人が居ないか注意深く気配を探ってみたが、森の中に人の気配は存在しなかった。


 村の上空に到着した僕が目にしたのは、燃える村。


 真っ赤な炎が村を包み込んでいる。


「……」


 湧き上がってくる怒りを必死で抑え込み、大量の魔力を使って雨雲を呼び寄せる。


 集中豪雨。僕の降らせた雨は村を包む炎を消していく。


 炎が消えた村には、かつて村であった残骸と、死体だけが転がっていた。


 全力で気配を探ってみるが、生き残りはいない。


「なんで……こんな惨いことが出来るんだ……」


 魔人族である僕が引き起こした惨劇というのならまだ分かる。

 しかしこれは、同じ人間同士で行われた殺戮だ。


「犯人は……」


 再び上空へと昇り、この村を襲った人間を探す。


 ……見つけた。


 村の東側を囲うように聳える山の麓に、そいつらは居た。

 どうやら休息を取っているらしい。


 すぐにそちらへ移動して、そいつらの中心へと降り立った。


「な……!」

「魔人!?」

「どうして魔人がここに!?」

「構うか! 相手は魔人1人、殺せ!」


 大きな焚き火を囲うように休息を取っていた兵士たちが立ち上がり、各々武器を構える。

 中には弓を引くものも居るが、その程度で僕を殺せると思うなよ?


 元来、魔力に優れる魔人族の得意とする魔法属性は【闇】である。


 僕は闇を恐怖へと変換して僕を囲む兵士たちに叩きつける。


「ひっ……」


 ある者は立ちすくみ、ある者は腰を抜かす。

 中には失禁している者も居るようだ。


「魂すら凍りつく恐怖に抱かれて……死ね」


 限界を超えた恐怖は生き物を殺す。


 僕がほんの少し魔力を流しただけで、僕を囲んでいた数百の兵士たちは一瞬にして絶命した。


「あとは……」


 天幕の外に居た兵士は全滅させた。

 残りは天幕で休んでいる者たちだけ。


 風魔法を使い音と気配を消しながら1つずつ天幕を潰していく。


「ん?」


 残り数個、サクサク行こうとして天幕の入口を開くと、中には兵士ではなく数人の女性が居た。

 どこか見覚えがある。というか僕がここ数年、数十年で見た人間の女性って村の人しか居ないわけだけども。


「んー!」


 猿轡を噛まされているようで、上手く喋れていない。

 しかし僕の顔を見て絶望の中でから希望を見つけた、といった表情の変化があったのでやはりあの村の住人だろう。


「プハッ!」


 近付き、猿轡を外してやる。

 俺か近付いても恐れる雰囲気は無かったので、村人確定だね。


「大丈夫?」

「魔人さん、ありがとうございます」


 話を聞いてみると、ここに捕まっているのはお貴族様に献上するための女性とのことだ。


 人間に人間を献上とか……気持ち悪い。


「分かったよ。とりあえず他の兵士たちも殲滅してくるから少し待ってて。一応結界を張っておくね」


 結界を張り、女性たちと別れて殲滅作業を開始する。


 今までは恐怖を与えながら殺すことに重点を置いていたが、助けるべき人が居る今は効率を最優先に殺害していく。


 すぐに作業を終えて女性たちのもとへ、かなり薄着だったので僕の収納魔法に入っていた服を着せてから女性たちを護衛して森の中の家まで戻ってきた。

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