2話、魔人さん
~魔人さん視点~
「これ美味っ!」
先日ハンクさんから貰った鯛のような魚を捌き刺身にして一口、まさに天に昇るかのような美味さであった。
村を開拓した時に大豆の生産もお願いしてあるので、その大豆を魔法で加工した醤油もなかなかの味だ。
「しかしあの村が出来てもう……何年だ?」
最初に人間を見つけた時は本当に驚いた。
人間……というか知的生命体と出会うのが数十年、下手をすれば100年ぶりだったからだ。
僕は人間が亜人領と呼ぶ地域にある魔人族の里で生まれた魔人族だ。
生まれてからすぐに前世の記憶を思い出した転生者でもある。
僕がまだ生まれて間もない頃、両親の顔を初めて見た時には死ぬかと思った。
なんせ目の前に居るのは人ではない者……
青黒い肌に蝙蝠のような翼、頭には立派な角が生えていたのだ、これはチビって当然だと思う。
幸いすぐに自分も同じ姿なのだと理解することが出来たので恐怖は無くなったのだが……
それから成長するにつれて、自分の異常さに気が付いた。
そもそも前世の記憶持ちの時点で大概異常ではあるのだが、身体能力、魔力量共に魔人族の平均を逸脱していたのだ。
どれくらいかというと、8歳の時点で里で僕に勝てる存在は居なくなった。
魔人族というのは、20歳くらいまでは人間と同じように成長する。
20歳を過ぎる頃に成長が止まり、それから数千年は生きられるそうだ。
肉体の老化が始まれば寿命が近いらしい。
なんだか前世ラノベで読んだエルフみたいだなーと思っていたが、こことは違う場所にエルフの里も存在すると聞いた時にはテンション上がったね。
話が逸れたが、8歳にして魔人族の里最強となってしまった俺は調子に乗った。
それはもう乗りに乗った。
僕が15歳になった頃、僕を族長にという声も大きくなっていた。
まずは族長、それから各種族を纏めて魔王となり人間に戦争を仕掛ける……
今思えばふざけた話だが、当時の僕は有頂天になっていたためそれも面白いと思ってしまった。
「ふはは!」などと笑いながら話を聞き、いざ実行! となる直前に正気に戻った。
ちなみに当時の僕の一人称は「我」である。
あの時は震えたね。
ナチュラルに人間滅ぼそうぜ! ってなってたもの。
いくら僕が人間じゃなくなったからと行言って人間の敵になってどうするよ……
それに気が付いた僕は、調子に乗ってごめんなさいして里から逃げ出した。
魔人族の里にも人間は居たのだ。
なのに人間を滅ぼそうぜって……
いや待て、今思い返してみると、魔人族の里に住んでいた人間も、人間を滅ぼそうぜって一緒になって言ってたような……
まぁそれはいいか。
里から逃げ出した僕は、とりあえず数十年掛けて人間が亜人領とよぶ地域にある各種族の里を見て回った。
そこで色んな種族の生活様式や文化に触れ、その種族に伝わる魔法や武術を教わった。
所謂暇つぶしである。
全ての里を回った僕は、人間の国に興味を持ち始めた。
しかし、人間の国に行った亜人種は捕まり売られて奴隷にされてしまうらしい。なにそれこわい。
それを聞いたら怖くて行く気にはなれなかった。
戦えば国を相手にしても負ける気はしないが、既に「ふはは!」は卒業している。
今更人間と敵対する意思は持っていなかった。
「数百年時間を開ければ国も変わるかな?」
それに気付いた僕は引きこもることを決意した。
別に魔人族の里、実家に戻っても良かったのだが、今更どの面下げてというのもあるし、戻ったら戻ったで色々と仕事を押し付けられそうなので断念した。
引きこもることを決意した僕に仕事はちょっと……
決意を固めた僕は、引きこもる場所を求めて旅に出た。
山を超え、谷を渡り、川の流れに身を任せ辿り着いたは大陸の西端。
亜人領と人間の国の間に広がる大森林の端だった。
ここなら人間も亜人も来ないだろう、そう思った僕は手頃な洞窟を発見、そこを住処にしていた森のクマさんを瞬殺、洞窟を相続した。
魔法で中を綺麗にし、形を整え住みやすくしていく。
月に1度1人狩猟祭を開催することを決定してあとはひたすらダラダラして過ごした。
それからしばらく、森の外、人間の国側に気配を感じたので様子を伺うと、数十人規模の人間の集団が生活を始めていた。
とはいえ着いたばかりなのか、家は適当に組んだあばら家だったし、畑も何も無い。
この人数でここを開墾するつもりなの?
疑問と興味を持った僕は時に上空から、時に木の影から観察を続けた。
人間たちはトライアンドエラーを繰り返し、中々作業が進まない。
見ていてもどかしいのでそろそろこちらから声をかけようかと迷っているうちに、逆に人間たちに見つかってしまった。
男たちは武器になりそうなものを手に持ち女子供を下がらせるが、見るからに青い顔をしていて足も震えている。
それはそうだろう。僕の見た目は人間から見ると恐ろしいのだから。その気持ち、よく分かるよ。
僕は敵意が無いことを示すために両手を上げながら声をかけてみた。
「お困りですか?」
久しぶりに会話をした気がする。
それから僕は人間たちに手を貸すようになり、交流の日々が始まった。




