27話、狩り
「そろそろ肉の在庫が無くなる。明日は狩りにいくぞ」
「か……り……」
ゼェゼェと大の字に倒れ息を整えている俺にガイナスが告げた。
「ああ、お前に狩ってもらうつもりだ」
俺が?
「でも……剣……」
「魔法で狩れ魔法で。属性強化は習得したし、戦闘中に治癒魔法を使うことにも慣れてきた。なら次は攻撃だろ?」
「それもっ……そう……ですね」
ようやく少し息が整ってきた。
ここでの訓練はすぐにバテるし、体力の回復にも時間がかかるような気がする。
それだけキツいからだろうか?
ようやく体を起こせる程度に回復してきたのでなんとか体を起こして座る。
全身が痛い、小さな傷もたくさん残っている。
魔力が残り少ないので、今治癒魔法を使えば肉体的拾うと魔力枯渇で気絶してしまうだろう。
「一応明日は鎧も着けてもらう。着け方は覚えてるか?」
「なんとなくは……」
ここに来ておよそ2ヶ月、一度も鎧を身につけていないのでうろ覚えもいいところだ。
訓練には痛みが必要だとか言って鎧の着用を禁止されてるからね……
「あ、でも明日もガゼフさんの畑に水をやりに行かないと」
「ああ、狩りはその後だな」
俺は今、ひとつの仕事を任されていた。
ガイナスの家のお隣さん(距離500メートル)のガゼフさんがやっている趣味の家庭菜園の水やりだ。
家庭菜園と言っても、畑は相当に広くてあれだけの畑を維持している人は魔人族の里には居なかった。
ただ、竜人族の里は水場からかなり距離がある。
竜人族は数日に一度コップ一杯の水を飲めば生きていけるという謎生態なのでそれで成り立っているのだ。
ガゼフさんも、水場の近くで畑を作ればいいものを、何故か自宅前に畑を切り開いてしまったので日々の水やりに困っていたそうだ。
ガゼフさんは水魔法が使えない。
というより、竜人族はみんな戦士タイプなのか、身体強化は扱えるが放出系の魔法を使える人はほとんど居ないそうだ。
そこで白羽の矢が立ったのが俺。
竜人族は野菜を食べなくても生きていけるが、人間である俺は野菜を食べないと病に罹ってしまう。
なので、水魔法を使って水やりをする代わりに野菜を貰っているのだ。
野菜はそれで手に入るが、肉は自分たちで狩らなければ手に入らない。
今までは俺が水やりに行っている間にたまにガイナスが狩りに行っていたが、どうやら明日は俺にやらせるつもりのようだ。
「狩るのは魔物でもない猪だ。真正面から突進を受け止めて風魔法で首を落とせ」
「分かった」
震える足で立ち上がり、家に戻る。
ガイナスの作ってくれた肉と野菜を炒めて塩で味を整えただけの夕飯を食べて、水で濡らした布で体を拭いてからすぐに眠った。
翌朝、朝の準備を済ませて水やりへ、畑に水を撒きながら自分も水浴び、1時間ほどで水やりを済ませてガイナスの家に戻る。
「よし、なら鎧を着けろ」
ガイナスに手伝ってもらいながら鎧を装着していく。
俺はうろ覚え、ガイナスは鎧なんて装備したことが無いという事で苦労したが、なんとか装備することが出来た。
「もう疲れたんだが……まぁいい、行こうか」
ガイナスはなんとも言えない顔をしている。
この2ヶ月で竜人族の表情の変化も分かるようになってきたな。
表情がコロコロ変わって見ていて飽きないルーシェの顔が見たい……
家を出て2人で飛翔魔法を使って移動、30分ほど飛んで山の麓の森へとやってきた。
「じゃあ頑張れ」
「いや……初めてだから何も分からないんだけど……」
まず獲物の探し方さえ分からない。
本で得た知識ならあるが、それは気配を消して潜み、獲物が姿を見せたら弓で狙うと書いてあったから弓を持っていない今それは使えない。
「んなもん気配を薄くしてその辺をウロウロしてたら居るだろ。見つけたら気付かれる前に接近して首を刎ねる。簡単だろ?」
簡単じゃない。
「そもそも昨日は猪の突進止めろとか行ってたけど」
そのための鎧だろ?
「まぁ猪見つけたらそうしよう。鹿とかなら気付かれる前に接近の方向で」
「テキトーかよ」
こんなので大丈夫かと思っていると、急に目の前のガイナスの存在感が薄くなった。
そこに居ると分かっていないと見失いそうだ。
見えているのに意識出来ない、なんだこれ?
「これが気配を消すってことだ。やってみろ」
「どうやって?」
想像もつかない。
「まず自森に溶け込ませるようにして自分を薄くする」
「は?」
説明から訳が分からない。分かる言葉で言って欲しい。
「自分は森の一部だと認識しろ。全てはそこからだ……しかし気配が消せないのなら狩りは難しいか。そこの木に登って上から見てろ。見ながら気配を消す練習をしておけ」
結局その日、俺は終始木の上からガイナスが狩りをする姿を見ていただけだった。
ちなみに俺が気配を消すことが出来るようになったのはこの日から2ヶ月だった。




