26話、立派なタンクになるために
師匠の話を聞き終わり、途中だった朝食を済ませて俺たちは外に出た。
竜人族の里は広い。
いくらでも訓練するスペースがあるので特に移動もせずガイナスの家の裏で訓練を開始した。
「安易に受けるな! 受けるべき攻撃、弾くべき攻撃、回避すべき攻撃を見極めろ!」
「ぐっ……!」
まずは技術だ、と魔法での身体強化を禁止されてひたすらガイナスの拳をファルシオンで受けていた。
「攻撃には意味がある! 1つ1つの攻撃の意味を見極めて考えろ!」
「んな無茶……な!」
「大袈裟に避けるな! 大きな動作は隙を作る原因だ、避けるなら紙一重で避けろ!」
「へぶっ!」
大きく回避したことで死角を作ってしまい、そこにガイナスの拳が打ち込まれて俺は吹き飛んだ。
「ぐぬぬ……」
「ふむ、まぁまぁだな。根性もあるみたいだ」
まぁまぁ? あれで? あれだけボロクソに言っておいてまぁまぁなの?
「よし、今のお前の技術力は分かった。次は身体強化してみろ」
「はい」
許可が出たので全身に魔力を纏わせて強化、ファルシオンを構えて攻撃に備える。
「いくぞ」
再びガイナスの連打が放たれる。
強化魔法を使ったことで先程よりは上手く防げたが、最終的にはやはり殴り飛ばされた。
「お前、『属性強化』はしないのか?」
「『属性強化』?」
ナニソレ?
「なんだ、教わってないのか? 『属性強化』というのは、今お前がやっている『身体強化』の上位派生魔法だ。今お前は無属性の魔力を纏っているが、それを火属性でやってみろ」
「火属性……」
纏っている魔力に意識を向ける。
今纏っているのは無属性の魔力、これを火属性に……
「ほぅ、聞いたばかりでいきなり成功か……アザトゥースやハストゥールが天才と言うのが分かるな」
ガイナスがなにやら呟いているが、魔力制御に集中しているため返事をする余裕は無い。
5分程経過すると、ようやく纏った火属性の魔力も安定してきた。
「出来た」
「やるじゃねーか。今の状態は通常の『身体強化』と比べて筋力が大幅に上昇している状態だ。真正面から攻撃を受け止める時には火属性強化を使うといい」
「筋力が……」
これを使えばルーシェに力負けしなくて済みそうだな。
「他にも風属性は瞬発力を、土属性は防御力を、水属性なら体力を強化出来る。状況に応じて使い分けろ」
「はい!」
つまり俺の『身体強化魔法』は体力や防御力を上げているから土属性強化と水属性強化に近い性質を持っているってことなのかな?
「理解したな? なら属性強化を意識しながら攻撃を受けてみろ!」
三度目のガイナスの連打が放たれる。
まずは風属性強化を発動して瞬発力を上げて対応する。
「反応がはやくなったな、これならどうだ?」
ガイナスの速度になんとかついていけるようになると、今度は重い一撃が混ざるようになってきた。
風属性強化でもなんとか弾けるが、これを受けるには火属性強化に切り替えないといけない。
途中、何度も属性強化の切り替えを行おうとしてみるが、上手く切り替わらない。
そのため何度もガイナスの重い一撃を喰らって吹き飛ばされるハメになってしまった。
「次の段階は属性強化を使いこなせるようになってからだな!」
それから2週間ほど、毎日何度も殴り飛ばされるうちに段々と属性強化の切り替えも上手くできるようになってきた。
やはり痛みを伴う訓練は習得が早いらしい。
上手く出来ないと殴り飛ばされるため、必死に習得したのだ。
お陰で各種属性強化の習得、治癒魔法の腕も上がってきた。
「よし、防御は上手くなってきたな。次の段階に進む」
「やっとこの痛みからの解放……」
毎日毎日痛かった。
隙を見せれば殴られ、属性強化の切り替えがスムーズに行かないと蹴られ、少し油断すると頭突きをカマされた。
最近では麻痺してきたのか、あまり痛みも感じないようになってきていた。
「解放? 甘いな、もっと痛いぞ?」
「なんでや……」
ガイナスはその鋭い爪を見せつけるように俺の前に出してくる。
「今日からは拳だけでなく爪での攻撃も加える。今まで通り属性強化を使って防ぎながら治癒魔法で回復してみろ」
「そんな無茶な……」
ガイナスは問答無用とばかりに攻撃を仕掛けてくる。
慌ててファルシオンを抜いて拳を弾くと、さっそくその爪で俺の腕を引っ掻いた。
「痛い!」
「騒ぐ暇があれば治癒魔法を使えバカタレが!」
ガイナスは攻撃の手をゆるめることなくさらに追撃を加えてくる。
「ちょ! うわ! っと!」
弾き、躱し、受け流す。
受け流したことで少しだけガイナスの体勢が崩れた、この隙に……
「甘い!」
ガイナスはそのまま体を回転させて尻尾で攻撃してきた。
慌ててバックステップで回避、治癒魔法のために集めた魔力も霧散してしまった。
「戦いながら回復しろ!」
「出来るか!」
次々と放たれる攻撃をなんとか捌くが、腕からの出血が止まらない。
このままでは血が足りずに力が入らなくなってしまう。
「ほらほら、どうした!」
ガイナスの攻撃はさらに速度を増していく。
「ぐっ……」
段々腕に力が入らなくなってきた。このままでは……
「諦めるな! 倒れるな! タンクであるお前が倒れたら仲間は全滅するのだと知れ!」
「なぁぁぁああああ!!」
火属性強化を纏ってガイナスの攻撃を強く弾く。
それに合わせて後退、すぐさま治癒魔法を使って腕の傷を塞いだ。
「そうだ、戦いながら回復出来ないなら無理やりにでも相手を弾いて回復の時間を作れ。そうすればお前は倒れない」
「……はい」
血が足りない。
治癒魔法で傷は塞げても流れた血は戻らない。
フラフラする頭でなんとか返事を返した。
「血を流しすぎたか。なら今日はおしまい……なんて言うと思ったか? ここからが本番だ!」
「鬼! 悪魔!」
「ははは! 俺は鬼人族でも魔人族でも無いぞ!」
「ぬわぁぁぁあああ!」
結局、魔力が切れるまでボッコボコのボコにされ続けた。
これは一流のタンクになれる前に死ぬのではないだろうか?




