25話、希望
「戻った」
翌朝、起きてガイナスが戻ってきていなかったので自分で肉を削いで焼いていると、ようやくガイナスが戻ってきた。
「肉焼いてんのか? 俺のも頼む。それと、それじゃ強くなれねぇぞ、その倍は食え」
「倍って……」
今焼いている肉は目算で500グラムほど、これでも食べ過ぎかな? と思っていたのにこの倍食べろって……
「そうだ、言っておこう。正式にお前を半年の間預かることになった。逃げることは許さん」
「はい?」
ガイナス用の肉と、言われた通り追加で食べるために自分用に肉を削いでいると、そんなことを言われた。
半年預かる? 正式に?
「アザトゥースとハストゥールには許可を取ってきた。お前の装備も預かってきている」
「師匠とおじいちゃんに?」
ガイナスが出掛けていたのは師匠とおじいちゃんに許可を得るためか。
しかし許可……出ちゃったのか……
やっぱり俺はいらない子なのだろうか。
「何落ち込んでるんだよ? アザトゥースもハストゥールも本気でお前のことを心配していたぞ?」
「え?」
師匠とおじいちゃんが?
「あとは名前は知らんがハストゥールの嫁さんと人間の嬢ちゃんもだな。みんなお前が居なくなって憔悴しきった面をしていたぞ」
俺、いらない子じゃない?
「俺がお前の無事を伝えた時には嫁さんと嬢ちゃんは泣いて喜んでいた。ハストゥールも安心したようにでかいため息吐いてたぜ」
そんな……俺、そんなに心配かけてたのか……
「アザトゥースなんて、一睡もせずにお前を探して飛び回っていたそうだぞ?」
「そんな……」
どうしよう、帰りたい。今すぐ帰って謝りたい。
「泣くな。泣いてる暇があれば飯を食え」
「ふぐぅ……」
泣きながら、焼けた肉を口に放り込む。
「あと、伝言だ。『絶対に失望なんてしない。愛してる』だそうだ」
「じじょー」
涙と鼻水が一気に零れた。
「汚ぇな……」
「ひっぐ……うぐ……」
思い切り泣きたいのに、口の中の肉が邪魔をする。
なんで食べてる時にそんなこと言うんだよ。
「まさかこんなに泣くとは……俺は魔王を名乗って高笑いしていたアイツが『愛してる』なんて言うから噴き出しそうになったってのに……」
「魔王?」
「そこには食いつくのな。よし、泣かれても困るし少し話してやる」
それから、ガイナスは昔の師匠の話をしてくれた。
「アイツはな、100年くらい前か? そのくらいの時に自らを『魔王』と称して全ての種族を傘下に入れようとしていた」
「なんで?」
「知るかよ。アイツは魔王を名乗って各種族を従えて人間に戦争を挑むんだ! なんて言ってたがな」
師匠……
「まぁ、それで竜人族の里にも来たんだよ。『里最強の者を出せ! 我が勝ったら我に従え!』ってな」
ええ……今の師匠からは考えられない……
「それで竜人族の里最強の戦士……まぁ俺なんだが、アザトゥースと戦ったんだ」
ガイナスは師匠と戦ったことがあるのか。
「どうなったの?」
「一瞬で負けた。一撃でも受ければ致命傷になりうる超高威力の魔法をまるで下級魔法のように連続で打ってくるんだ、勝ち目なんてありゃしない」
うわ……えっぐ……師匠えっぐ……
「それから泣きのもう一戦ってことで魔法無しでの勝負もしたんだが……動きが早すぎて対応出来なかった」
動きが早すぎて?
「竜人族って全種族最強なんじゃ?」
「ああ、俺もそう思っていたが……アザトゥースだけは格が違う」
そんなにか、そんなになのか。
「その時点でそれだけ差があったのに、急に『やっぱり魔王辞めます』とか言い出してな、各種族を回って里に伝わる武術や魔法を次々と習得してな……今戦ったとしても毛ほども勝てる気がしない」
竜人族最強の戦士ということは本来亜人種、人間合わせて最強の戦士であるはずのガイナスが毛ほども勝てる気がしないって……
最強の魔法使いだとは聞いていたけど、戦士としても最強なのか……
「まぁ、アザトゥースの戦闘スタイル……遠距離は高威力の魔法、近距離では超高速の一撃離脱戦法、これはお前には合っていない」
確かに、どちらかというとそれは俺よりルーシェに合っていると思う。
「実際に顔を見てきたが、あの人間の嬢ちゃんは剣においては天才だ。お前にはあれほどの才は無い」
「それは……分かってるよ」
俺には並の才能しかないさ……
「その分お前には魔法の才能がある。断言してやる、俺の下で半年間修行すれば、あの嬢ちゃんにだって負けはしない」
ガイナスの目には確信が宿っていた。
「俺が……ルーシェに?」
「ああ。勝てる」
希望が、見えた気がした。
「よろしく……お願いします」
こうして、俺はガイナスからの指導を受けることとなったのだった。




