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最強の魔人に育てられた少年は英雄へと至る  作者: 愛飢男
一章……少年期、修行編
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19話、初の実戦

 師匠に運ばれること1時間ほど、ついに大森林の目の前に降り立った。


 ここまでの道中、お互いに緊張していたからかほとんど会話は無かった。


「さて、到着したわけだけども……緊張してる?」

「はい」

「でも、頑張ります!」


 なんだか緊張していたのが馬鹿らしくなってきた。

 そうだ。ルーシェの言う通り頑張ればいいだけなんだ。


「よし。じゃあ魔物をおびき寄せるから、いつ来てもいいように構えて」


 俺は腰からファルシオンを抜いて中段に構える。

 ルーシェはサーベルを下段に構えている。

 魔物が現れたら突撃しそうだな……サポート出来るようにしておかないと。


 俺たちが武器を構えたことを確認して、師匠は森に向かって魔力を放出し始めた。


 魔物は魔力に惹かれて集まってくる。

 以前師匠から習ったことだ。


 師匠はその習性を利用して魔物を引き寄せる為だけに魔力を放出しているのだ。


 ちなみに、師匠が魔力を一切制御せずに垂れ流しにすると、その魔力が強すぎるせいで逆に魔物が寄ってこなくなるらしい。


 垂れ流しにされると、魔力を感知できる俺やルーシェも落ち着かなくなるので普段は抑えてもらっている。


「グギギ」

「ゲゲゲ」


 師匠が魔力の放出を開始して2分足らず、すぐに3匹の小鬼、ゴブリンが姿を現した。

 手には木でできた棍棒が握られている。


「たぁぁぁあああ!」


 森からゴブリンが一歩外に出た瞬間、ルーシェが飛び出した。


「ちょ!」


 待って! と言おうとしたがルーシェは止まらない。


 あっという間に1匹のゴブリンの目の前に移動して一閃、振り上げたサーベルはゴブリンの腰から肩に抜け両断、振り上げた剣の勢いそのままにもう1匹のゴブリンの首筋を斬り裂いた。


「ギャギャギャ!」


 残ったゴブリンが剣を振り抜いて隙だらけのルーシェに向けて手に持った棍棒を振り上げた。


「危ない!」


 足に力を込めて加速、更に風魔法を発動して追い風を生み出してさらに加速。


 その勢いのままゴブリンとルーシェの間に飛び込んでゴブリンの棍棒をファルシオンで受け止めた。


「ありがと!」


 俺の背後で体勢を建て直したルーシェが飛び出してきてゴブリンにトドメを差した。


「楽勝!」

「楽勝じゃないよ! なんでいきなり飛び出すのさ!」


 サーベルを掲げて勇ましく勝ち名乗りをあげるルーシェに思わず突っ込んでしまった。


「なによ? 全部倒したんだからいいじゃない!」

「こんな森の近くで戦ったら危ないだろ!?」

「勝ったんだからいいでしょ!」

「良くない! 森の近くは足場も悪いし、奥から魔物が出てきて囲まれたらどうするのさ!」


 ゴブリンは女性を攫うってさっき師匠が言ってたんだよ!

 そうなっちゃったら大ピンチだろ!


 これはルーシェには言わない方がいいかと思ってグッと堪えていると、後ろの師匠から声を掛けられる。


「言い争ってるところ悪いけど、次来るよ?」


 師匠のその言葉で言い争いを中断して森の入り口に注意を向ける。

 そこには棍棒を持ったゴブリン5匹がこちらの様子を伺っていた。


「ここは危ないから少し下がるよ!」

「ちょっと! 離しなさいよ!」


 引きずってでも下がるつもりでルーシェの腕を掴む。


 ゴブリンたちが棍棒を振り上げながらこちらに走ってきたので目の前に炎の壁を生み出してから後退、ルーシェも大人しく下がってくれた。


 俺の魔法の効果範囲は狭い。

 そのため、先程生み出した炎の壁も俺が下がったことで俺から距離が離れたためその形を維持できずに形を崩した。


 それでも一応牽制にはなったようで、明らかにゴブリンたちの勢いは削がれていた。


「ギャギャギャ!」


 炎の壁が消えると同時、ゴブリンたちが再び駆け出した。


 俺たちとゴブリンたちの距離が縮まっていく。


 10メートル……8メートル……6メートル……


 残り5メートルまで距離が詰まった瞬間、突風が巻き起こりゴブリンたちを襲う。

 ルーシェの魔法だ。


「グギャギャ!」


 突然の突風に勢いを殺され、体勢の崩れたゴブリンたちにルーシェが襲いかかる。

 俺も行かなければ!


「うぉぉおお!!」


 ファルシオンを振り上げてゴブリンに向けて飛びかかる。


「ギャギャ!」


 ゴブリンは防御しようと手に持っている棍棒を掲げる。


 見るからにボロボロで、腐りかけの木の棍棒、それごと両断するつもりでファルシオンを振り下ろそうとするか……


 脳裏を過ぎるのは、脳天クリティカルで目を回して気絶するルーシェの姿。


 振り下ろそうとした腕が止まり、全身が硬直する。


「ギャ!」


 俺の動きが止まったのが見えたのか、ゴブリンは口角を上げいやらしい笑みを浮かべた。


 防御姿勢を解き、攻撃に転じるゴブリン。

 対して俺の体は動かない。動けない。


「ギャギャギャ!」

「あがっ……!」


 ゴブリンの振るった一撃は、俺の脇腹に命中。


「グギャギャ!」


 さらに追撃、近くに居たゴブリンが飛び上がり俺の後頭部に後頭部にクリティカル、目がチカチカして一瞬意識が遠のきそうになってしまった。


「ギャギャ!」


 前のめりに倒れそうになる俺の前で、棍棒を構えるゴブリン。

 このまま振るわれれば俺の側頭部を捉えるだろう。

 その攻撃を受ける訳にはいかない。


「うぉぉおお!」


 咄嗟に、魔法を使った。

 先程使ったのと同じ炎の壁。


「グギャア!」


 しかし、咄嗟だったのと、痛みで上手く集中とイメージが出来ずに魔法の効果は一瞬で消え失せる。

 威力も低かったようで、ゴブリンを焼き尽くすには至っていない。

 数歩下がらせるだねの結果となってしまった。


「グレン!!」


 倒れそうになる視界の端で、3匹のゴブリンを斬り裂いたルーシェがこちらに駆けてくるのが見えた。


「邪魔だぁぁあ!!」


 俺の背後、後頭部に攻撃してきたゴブリンを一振で真っ二つにしてさらに加速、そのままもう1匹のゴブリンの首を刎ね飛ばした。


「グレン! 大丈夫!?」


 ルーシェが膝を着いている俺の所へ駆け寄ってくる。

 その表情からは俺を心配している様子が見て取れた。


「血! 血が出てる! 大丈夫? 治癒魔法使える?」

「あ……ああ……」


 なんとか意識を集中して治癒魔法を発動、ダメージを全て回復させる。


「ねぇグレン、大丈夫? どうしちゃったの?」


 ルーシェは俺の前に膝を着いて目を合わせてくるが、その目を見ることが出来ない。


 俺は……なんで……


「ギャギャギャ!」


 その時、俺の耳がゴブリンの鳴き声を捉えた。


 ダメだ、こうしている時間は無い。

 立て。立って戦わないと……


 ルーシェを守らなきゃ……ゴブリンなんかにルーシェを連れ去られるわけには……


 震える手でファルシオンを拾って立ち上がる。

 震える足に無理やり力を入れてゴブリンに向けて構えをとる。


「グレン……グレンはあたしが!」


 ルーシェも立ち上がり、俺の前に踏み出そうとした瞬間、背後から恐ろしいまでの魔力が放たれるのを感じた。


「ッ!?」


 膝の力が抜けるのを感じる。気力でなんとか耐えるが、今までとは比べ物にならないほど全身が震える。


 放たれた魔力は、俺たちを通り過ぎて森から出てきていたゴブリンたちを襲う。


 それだけで、ゴブリンたちは蜘蛛の子を散らすように森の奥へと逃げていってしまった。


 ゴブリンの鳴き声や、何かを引き摺るような音は消え、辺りに静寂が訪れた。


「訓練は終了だね」


 師匠の声と足音に、体がビクッと震える。


「ルーシェは良かったね。グレンは……」


 顔を上げられない。師匠の顔を見ることが出来ない。


「ダメだったね」


 ガラガラと、何かが崩れ落ちた気がした。

 同時に、体から力が抜けてその場にへたり混んでしまう。


 体に力が入らない。顔を上げられない。


 俺は……俺は一体なにをしているんだろう?


「疲れたよね。今日はもう帰ろう」


 立ち上がれず、なんの反応も示せない。

 そんな俺を師匠は抱き上げてゆりかごの中へ。


 そっと座らされて、師匠はゆりかごから出て行ってしまった。


「グレン……」


 ルーシェが心配そうに声をかけてくるが、反応出来ない。反応する資格が、俺にはない。


 その後すぐにゆりかごは浮かび上がり移動を開始した。


 魔人族の里に到着するまでの間、ルーシェは何も言わずにただ俺を見つめていた。


 俺の目からは、とめどなく涙が溢れていた。


 家に帰り、味の感じられない夕食を食べ、風呂へと入れられた。

 何年ぶりだろうか、魔人さんと一緒に入り全身を綺麗に洗われた。


 会話は無い。

 話しかけられても俺が反応しないので当然だろう。


 風呂から上がると、寝巻きに着替えさせられて自室のベッドに寝かされた。


 眠れない。


 今日の戦闘のことが頭から離れない。


 何故俺は、攻撃出来なかったのだろうか?


 分かりきっている、攻撃しようとしている瞬間に、ルーシェのことが思い出されたからだ。


 これは……失望されてしまったかもしれない。

 魔人さんにも、ルーシェにも。


 その事が、頭の中をぐるぐる回り始める。

 その事しか考えられない。他の事が考えられない。


 俺に価値は、あるのだろうか?

 ここに居る価値は? 師匠の弟子でいる資格は?


 俺がルーシェの隣に居ても、いいのだろうか?


 考えた。考え続けた。


 そして深夜、俺は自室の窓から家を抜け出した。

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