14話、歴史の授業
「今日はアザトゥースが仕事に行ってるからおじいちゃんが授業をしようと思う」
修行漬けの日々の中、たまにある光景だ。
おじいちゃんではなく師匠が行った方がスムーズな案件がある時はこうやっておじいちゃんが勉強を教えてくれる。
読み書きや計算なんかも教わっているので、日常生活に問題は無いはずだ。
「おじいちゃんあたし剣術がいい!」
「はっはっは、剣術はアザトゥースに習いなさい。おじいちゃんはびっくりするほどに弱いぞ?」
おじいちゃんは剣を握ったことすら無いらしい。
というか、全員が魔法使いである魔人族で剣術の訓練を受けた人の方が圧倒的に少ないのだ。
「魔法なら教えてやれるぞ?」
「授業お願いしまーす」
ルーシェは最近、魔力量の増加と操作の練習のためほぼ毎日魔力切れまで訓練させられている。
なので魔法の訓練に苦手意識があるのだろう。
俺も10歳くらいの時にやったなぁ……
あれは言われてやった訳ではなく、ルーシェに勝てるものが欲しかったのと、俺の魔法の才能に気付いた師匠が訓練を厳しくしてきていた時期だったので死なないために必死に訓練したのだ。
師匠の実力は知ってるつもりだし、手加減とかもめちゃくちゃ上手いんだけど、あの性格からしていつかやらかしそうだと思って必死だったのだ。
そのおかげで今は魔法に関しては言うことなし、あとは経験だとひたすら師匠やルーシェの魔法を受けるだけの日々だ。
「愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶとも言うからな、歴史を知ることはいい事だぞ?」
「それどういう意味?」
「愚者は自分の失敗を経験して初めて失敗の原因に気付き、賢者は過去の他人の失敗から学び同じ失敗をしないようにすることだとアザトゥースが言っていたぞ」
師匠の受け売りか。
しかし愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶか……なるほど勉強は大事だな。
「グレンは『半径1メートルの賢者』だよ?」
「今それ関係ないから……」
何でそれが今出てくるの!?
絶対『賢者』って言葉に反応しただけだよね!?
「ははは、じゃあ授業を始めるよ?」
スルーしたな……
「この前は各種族の生活について教えたね。覚えているかな?」
「はいはーい! あたし覚えてる! エルフ族は木の上に住んでて、獣人族は木の洞とか洞窟とかに住んでる!」
「まぁ昔はそうだね。今では獣人族も家を建てているからね?」
それからドワーフ族やホビット族、天族などの生活についておじいちゃんが質問して俺たちが答える時間があった。
ルーシェの記憶の大雑把……
なんとなく雰囲気で覚えている感しかしない。
「まぁ……うん。大体そんな感じだね」
おじいちゃんもルーシェに教えるの半分諦めてるよなぁこれ……
「生活についてはこんなものかな? なにか質問はあるかい?」
「ないでーす!」
ルーシェが元気よく質問は無いと返すが、気になることがひとつあった。
「おじいちゃん、ドワーフの守刀のことが聞きたい!」
リビングに並んで飾られている俺とルーシェの守刀。
ドワーフはドワーフにしか守刀を贈らないと聞いたけど何で俺たちは持ってるんだろう?
「守刀か、これは地母神様を信仰するドワーフ族の風習だとは説明したよね?」
「はい」
それは覚えている。
聞きたいのは何で俺たちに贈ってくれたのかというところだ。
「これには人間との関係も含まれるんだが……そうだね、1000年以上昔、アルベイン王国がここまで大きくなる前は我々亜人と呼ばれる各種族と人間には交流があったんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。その頃は人や亜人の行き来も盛んでね、その頃に人間の文化や考え方、道具なんかもこちらに流れてきていたんだ。神の存在というのもそのひとつでね、ドワーフ族の地母神信仰はその頃に人間からドワーフ族に伝わったんだ」
人の領域と亜人の領域の間には大森林が広がっている。
大森林には強力な魔物がたくさん生息していると学んでいる。
昔は大森林を抜けられるだけの実力者がたくさん居たのかな?
「グレンくんの考えていることは分かるよ。あの大森林をどうやって通り抜けていたかだろう?」
少し考えていると、おじいちゃんに見抜かれてしまった。
返事の代わりに頷くと、おじいちゃんは説明を続けてくれた。
「昔はあそこまで広大な森では無かったんだよ。というより、アルベイン王国が今のアルベイン王国北部領域を征服して、我々を奴隷として捕まえようとし始めた頃に当時のエルフ族の族長がその命を対価に植物に語りかけて人と亜人の領域を分かつ大森林へと変化させたんだ」
命を対価に森にお願いしたってこと?
「ドワーフ族が鉱山の声を聞けるというのと同じでね、エルフ族は植物に語りかけることが出来るんだ。そのエルフ族の中でも突出した力を持っていた当時の族長がその命を対価に差し出したからこそ大森林は生まれたんだよ」
「そんなことが……」
命を差し出して亜人たちを守ったのか……すごい人だなぁ……
「話が逸れたね。つまりドワーフ族は今でも地母神信仰を教えてくれた人間に感謝してるんだよ。だから人間の、特に両親を失った子供には守刀を贈ってその子にも地母神様の加護が与えられることを祈るんだよ」
そうなんだ……
俺とルーシェが親を失ったから一緒に祈ってくれていたのか。
「人間に奴隷にさせられたのに、優しいんですね」
「ドワーフ族は割と合理的な考え方をするから、それはそれ、これはこれと分けているのかもしれないね。それと、その時実際に奴隷にされた亜人族はほとんど存在しないよ?」
「え?」
「我々は人間には負けないからね? 奴隷狩りにきた人間や奴隷商人なんかは返り討ちさ。被害がゼロとは言わないけど、ほとんど居ないよ」
でも……
「奴隷にされた人もいるんですよね?」
俺がそう聞くと、おじいちゃんは困ったような表情を浮かべた。
「いるね。でも奴隷になった者たちのほぼ全員が興味本位でアルベイン王国へと旅立った者たちなんだよ……こういうことがあるからアルベイン王国には近付くなと教えているんだけどね、好奇心旺盛な若い者は自分は大丈夫だと言って旅に出てしまうんだよ」
「えっと……」
「こういう言い方は酷いかもしれないけど、つまりは自業自得だね。アザトゥースやさっきも話した昔のエルフ族の族長みたいに隔絶した力を持っていれば話は別だけど、一般的な亜人より少し強いくらいじゃ人間の数に押されて捕まっちゃうからね」
そっか……
それじゃあ一般的な魔人や獣人に勝てるか勝てないかの実力の俺では人間の集団には勝てないということか……
こんなんじゃルーシェを守るなんて夢のまた夢、もっともっともっと強くならないと!
「さて、そろそろお昼ご飯の時間だね、これで授業は……ってルーシェちゃん寝てるね」
おじいちゃんの言葉で横を見てみると、ルーシェは机に突っ伏してヨダレを垂らしながら寝ていた。
ルーシェの寝顔……かわわわわ……




