12話、魔法
昼食を終えて午後からは魔法の訓練を行う。
今日は午前が剣術、午後が魔法だが、これは割と師匠の気分次第であり逆の日もあれば一日剣術の日や魔法の日もある。
適当なのか師匠なりの考えがあるのかは分からない。
「じゃあ練習場まで飛んで行こうか」
「はい!」
最近使えるようになった飛翔の魔法を使って浮かび上がる。
これは魔力で体を包み込んでその魔力を操作して空を飛ぶという大変に繊細な魔力コントロールが要求される魔法である。
しかも魔力消費も結構多い。
師匠たち魔人族や、他の翼のある種族は翼を通して飛翔魔法が使えるそうで、特に苦もなく飛べるらしい。羨ましい。
ちなみに飛翔魔法を扱える人間というのは稀らしい。
飛翔魔法の存在自体は知っていても、その使い方が分からなければ使うことは出来ない。
多くの人は風属性魔法だと誤認している。
属性に当てはめると、飛翔魔法は無属性魔法となるためいくら練習したところで発動は出来ないんだって師匠が言ってた。
「うーん……」
俺が地上10センチほどを浮いていると、隣から難しい声が聞こえてきた。
隣と言ってもこの場には俺と師匠、あとはルーシェしか居ない。
声の主はルーシェだった。
「相変わらずルーシェは魔力操作が苦手だね」
「難しいです……」
ルーシェの魔力も、一般的な人間と比べると結構多い方らしい。
しかし、その制御は苦手としている。
ルーシェは風属性を得意としている……というか風属性しか使えない。
その放つ魔法も0か100か……つまり全力全開でしか使えない。
魔力操作が絶望的に下手なのだ。
そんな彼女にある意味魔力操作の極地とも言える飛翔魔法が使える訳もなく……
毎回こうしてうんうん唸ることになるのだ。
「要練習だね。ルーシェは魔力操作が大雑把すぎる」
「すみません……」
「まぁもしかしたらそれが特性なのかもしれないけど……また僕がゆりかごで運んでもいいんだけど、今日はグレンにルーシェを連れて飛んでもらおうかな?」
「俺がですか?」
普段練習場に移動する際は、昔魔人さんが俺たちを助けてくれた時に作ったゆりかごの小型版にルーシェを乗せて運んでいた。
それを……俺が?
「グレンも最近魔力量もかなり伸びてきたし、操作も上達してるからね。そろそろ大丈夫かなと」
師匠はことも無さげに言うが、正直不安はある。
落としたらどうしよう……
「グレン大丈夫? 落っことさないでね?」
ルーシェが不安そうに見つめてくる。
魔人さんを見る時には信頼しきった目で見ているのに俺に対しては……
なんだか胸をギュッと締め付けられているような感じがする。
悔しいのかな?
「絶対落とさないよ」
「万が一落としても僕がカバーするから大丈夫だよ。じゃあ行こうか」
師匠もふわりと浮き上がる。
え、ちょっと待って、ゆりかごは?
「師匠、ゆりかごは?」
「え? 必要?」
必要でしょうが!
ゆりかご無しでどうやって運ぶのさ!?
「いや……抱っこすればいいじゃない。ほら、お姫様抱っこ」
「な……!?」
何言ってるんだ? みたいな顔で師匠がこちらを見てくるが、師匠こそ何言ってるんだよ!
「グレン? 早く行こ?」
ほら、とルーシェは両手を俺に向けてくる。
ルーシェは何とも思ってないのか?
何とも思って……ないのか……
「じゃあ僕が抱っこして行こうか?」
「やります! 俺がやりますから!」
師匠が運ぶならゆりかご使えよ!
なんだか思ったより大きな声が出て自分でびっくりしたよ。
「じゃあ……」
「?? 何でグレン顔赤いの?」
「いいから!」
不思議そうな顔をして俺の顔を覗き込んでくるルーシェから顔を逸らしながら背中と膝に腕を回して抱き上げる。
鍛えててよかった……
「クク……若いねぇ……」
「い、いいから行きますよ!?」
「はいはい」
空へと浮き上がり、練習場を目指して飛んでいく。
――抱き上げられた瞬間からルーシェの顔が真っ赤に染まっていることは魔人さん以外誰も気付いていなかった。
「ふふ……」
「何笑ってるんですか!?」
「なんでもないよ」
練習場に到着するまでのおよそ15分、師匠はずーっとニヤニヤしながら俺の後ろを飛んでいた。




