11話、修行
「せやぁぁぁあああ!!」
「甘いよ! 踏み込みも浅い、太刀筋もブレブレ! どこ狙ってるかも丸わかり!」
「へぶっ!」
師匠の振るった木剣が俺の胴を強かに打つ。
これで本日35回目のノックダウンだ。
「グレン、もう終わりかい?」
「まだまだぁ!」
木剣を杖代わりに地面に着いて立ち上がる。
やべ、全身隈無く打たれたからか膝に力入らない……プルプルしてる……
「はい、剣を杖にしてはいけません!」
「あだっ!」
スコーンと杖にしていた木剣を払われ肩から地面に倒れ込む。
「ふぬぉぉおおお……」
プルプルして力の入らない両腕と両膝に喝を入れて立ち上がろうとするが、上手く力が伝わらない。
「はい、ここまで」
「痛い!」
ガツンと脳天に衝撃、木剣を頭に叩きつけられたようだ。
「師匠……なんで終了の合図なのに思い切りどつくんですか……」
「軽くじゃグレンにはノーダメでしょ? 痛みで覚えないと。それに、思い切りじゃないよ?」
師匠、魔人さんは訓練所にしている庭の隅にある俺の腰くらいまである岩の手前まで移動する。
「僕が思い切りやっちゃうと……」
一閃。
師匠が木剣を無造作に振り下ろすと、岩は真っ二つに斬り裂かれていた。
「こうなるけど、思い切りやろうか?」
「勘弁してください」
綺麗なフォームで土下座を披露する。
とはいえ元々四つん這いだったので力を抜いただけなのだが……
「うーん、やっぱりグレンには剣の才能はないよね」
「無い……ですか……」
脱力していた体からさらに力が抜けていく。
何度も言われ続けてきた言葉だが、何度言われてもショックが大きい。
今ならスライムにも負けない柔らかさだと思う。
「まぁ体力と根性、耐久力は大したものだと思うよ? いくら木剣とはいえ僕の攻撃をここまで受けてまだ意識があるんだからさ」
「それ、褒めてます?」
「もちろん!」
師匠に弟子入りしてから早6年、俺とルーシェは13歳になっていた。
「しかし基礎は出来てるし、技術が無い訳でもない……なのに絶望的なまでに攻撃センスが無いよね」
「……俺でも傷付くんですよ?」
「いっそ叩きおってみようかと」
師匠はケラケラ笑いながらそんなことを言っているが、理由は自分で分かっている。
もちろん、師匠である魔人さんにも分かっているのだ。
ルーシェと2人で魔人さんに弟子入りしてしばらく、2人で打ち合いをしていた時の事だった。
一瞬、ほんの一瞬ルーシェの気が逸れたのか躓いたのか……俺の振った木剣がルーシェの脳天にクリティカルしたのだ。
その一撃でルーシェは目を回して気絶。
俺と魔人さんは2人して大慌て。
幸いにしてルーシェはすぐに目を覚ましたし、これと言って後遺症などは無かった。
しかし、あの時から他人に向けて武器を振るうことに対しての恐怖感が拭えなくなってしまったのだ。
「例えグレンが伝説の剣を装備して斬りかかって来ても僕ならノーダメだよ? それでも怖い?」
「頭では分かってるんです。でも……いざ武器を人に向けると体が……」
構えまではスムーズに行くのだが、いざ振るうとなると……
「またルーシェと模擬戦やってみるかい? 一度でも彼女に攻撃を当てられたらそのトラウマも払拭出来ると思うけど」
「ボッコボコにされますよ……」
ルーシェ脳天クリティカルからしばらくして、俺が他人に武器を振るえないことが分かった時から何度も繰り返しているルーシェとの模擬戦だが、結果は全戦全敗である。
ルーシェはあの事件からメキメキと腕を上げ始めた。
すぐに俺は置いていかれてしまい、懸命に努力はしているのだが差は開く一方だ。
「必死で戦う中で相手にクリーンヒットを与えて、それでも大丈夫だって経験をすれば治ると思うんだけどね……ルーシェは手加減できない子だからなぁ」
「言わないでください……」
なんか今日の師匠はネチネチ来るな……
本気で俺の心1回折ろうとしてないかこれ?
「まぁ治す方法は考えておくよ。じゃあルーシェと交代ね。分かってると思うけど、治癒魔法は使っちゃダメだよ、氷魔法で冷やすのは構わないから冷やしながら見学してて」
「はい!」
話している間に少し体力も回復したので師匠の手を借りて立ち上がる。
後方で見学していたルーシェと交代して腰を下ろし塀に背を預ける。
「痛い……全身隈無く痛い……」
痛みで上手く集中出来ないが、これも修行と己に言い聞かせて魔力を練る。
「ふぅ……冷たくて気持ちいい」
水と風の混合魔法、氷属性の魔法を使って自分の体の周辺の温度を下げていく。
いい感じまで下がったら操作を停止、その温度を維持することだけに魔力を使う。
「これが攻撃に使えればなぁ」
俺の魔法は攻撃には使えない。
効果範囲が驚く程に狭いのだ。
火球や風刃などの魔法は使える。
使えるのだが、放って1メートルも進むと極端に威力が下がり、2メートルも進まないうちに霧散してしまう。
魔法はイメージ。イメージの問題なのかと思っていたが、師匠が言うにはそういう特性なんだろうとのことだ。
たまにそういう人もいるらしい。魔法はその人の個性なんだって。
俺の場合、射程距離が短い代わりに全ての属性を得手不得手無く使える。
魔力量も人間としてはかなり多く、魔法の威力も高い。
師匠オリジナルの重力魔法も扱えるし、魔法の複数同時展開も可能。
魔法の技術に関しては間違いなく天才だと師匠のお墨付きを貰っている。
ただ、射程距離が短いことだけが悩みの種なのだ。
「この『1メートルの壁』が無ければ開き直って後衛魔法使いを目指すんだけどなぁ……」
そのため師匠やルーシェからは『半径1メートルの賢者』などと呼ばれからかわれている。
ルーシェは仕方ないけど、師匠が弟子をからかっちゃいけないと思うんだ。
「やぁぁぁあああ!」
前方、師匠とルーシェの戦闘に目を向けると、ルーシェが木剣を構え師匠に突撃していた。
上下左右、時には師匠の背後に回り鋭い一撃を放っている。
師匠は涼しい顔をして全ての攻撃を受け止めているが、俺がアレをやられると一瞬でフルボッコだ。ボロ雑巾待ったナシだ。
ルーシェの動きが早すぎる。
俺では目で追うのがやっとの早さだ。
「ほいっと」
「ひゃあああ!」
師匠の出した足に引っかかり、ルーシェは派手にコケた。
うわぁ……顔から行ったぞ……痛そう……
「ルーシェは動きは早くなったし剣に重さも乗ってきたけど、動きが直線的でワンパターンだね。もっと緩急とバリエーションを加えないと簡単に動きを読まれちゃうよ」
「はい……」
「おっと血が出てるね。グレン、治してあげて」
「はい」
呼ばれたので立ち上がりルーシェの隣に移動する。
「ちょっと動かないでね」
「グレン、ありがと」
水魔法を使って傷口を流してから治癒魔法を発動、ルーシェのおでこの傷は綺麗に塞がった。
「お見事。僕は治癒魔法は使えないから助かるよ。腕もいいし、前衛はルーシェに任せてヒーラーでも目指してみるかい?」
「それは……なんか嫌です」
女の子に前衛を任せて男の俺が後方待機とか……かっこ悪いじゃん。
「グレン、あたしはグレンが後ろにいてくれたら安心できるよ?」
「そういうことじゃなくて……」
ルーシェの素直な言葉と瞳が痛い……
「うんうん、グレンも男の子だね。午前の訓練はここまでにしようか。お昼ご飯を食べたら魔法の訓練だよ」
「「はーい」」
なんとか……なんとかルーシェの後ろではなく隣で戦えるようにならなくちゃ……




