9話、守刀
~魔人さん視点~
魔人族の里に到着して最初はかなりバタバタすることになった。
まずは里のみんなに紹介、これはとーちゃんが里のみんなに声をかけてくれたため比較的簡単に終わった。
その後は僕が回収してきた村人の埋葬。
これには魔人族の里に住む魔人はもちろん、人間も手伝ってくれた。
話を聞いた魔人や人間は涙を流しながら村人の遺体を埋葬、みんなで手を合わせた。
それから僕は暫くの間、溜まりに溜まった仕事をする羽目になった。
とはいえ僕の仕事は基本的に相談役、各種族を回ってお困りですか? と聞いて回る簡単なお仕事である。
簡単とはいえ、「困ってます!」と言われてしまうと「はいそーですか、頑張って」とは言えず、その問題を解決しなければならない。
ドワーフの里で「ジャイアントワームが大量発生して困っている」というお困り事を解決する為に坑道内で無双していると、とーちゃんから緊急連絡が入った。
魔人族は魔人族同士離れていても会話が出来る特殊能力があるので、それを使った緊急連絡だ。
これがあるからこそ僕が引き込もれていた理由でもある。
何かあれば帰ってくる約束だったのだ。
「どったのとーちゃん」
「アザトゥース! いつ戻れる!?」
とーちゃんの声には切羽詰まったものがあった。
何があった? アルベイン王国でも攻めてきたか?
いや、アルベイン王国が魔人族の里を攻めるには大森林を突っ切らなくてはならない。
大勢の人間が大森林に入ったのならエルフ族がすぐに気が付くはず……なら違うか。
「今ドワーフの里でジャイアントワーム倒してるから……数日後かな?」
「……お前なら瞬殺出来るだろ?」
「出来るけど、鉱山無くなっちゃう」
ここの鉱山の埋蔵量は豊富で、ミスリルも採れるのだ。消し飛ばす訳にはいかない。
「むぅ……」
「いやだからどうしたのよ?」
困っています感全開のとーちゃんにイライラしながら尋ねる。
質問しながらもジャイアントワームを倒す手は止めない。
「実は……グレンくんとルーシェちゃんなんだが……」
「2人に何かあったの!?」
2人のことはとーちゃんとかーちゃんに任せて来た。
生き残りの女性たちも協力してくれているハズなのだが、何かあったのだろうか……
「いや、その……『魔人さんはどこ?』と泣いてな……どうしても泣き止まんのだ……」
ううむ……
「とーちゃん任せろって言ってたのにダメじゃん! 使えねーな!」
「なんだと!? それ母さんも同罪なんだけど母さんに言ってもいいのか!?」
「ごめんなさい!」
かーちゃんはダメだろかーちゃんは。常識的に考えて。
「んで、どうしたらいいのさ?」
「なんとか帰って来れない?」
「無理だろ……ジャイアントワームめっちゃ多いし倒しきらないと鉱山がやべぇ」
ジャイアントワームは鉱物を食うからな、放っておいたらこの鉱山から採掘出来なくなってしまう。
「……分かった、俺が代わるから……」
「おっけーじゃあさっさと来いダッシュな!」
「おま……」
緊急連絡を強制終了、それから2時間ほど作業を続けてから一度坑道を出た。
「おや、お早いですな。もう終わったので?」
外へ出ると、ドワーフ族族長のゴルドさんが俺を待っていた。
「いえ、まだ半分くらいですかね? ちょっとトラブルがありまして……」
「トラブル? 変異種でも現れましたかな?」
「いえ、変異種は居ましたけどもう倒しました。ちょっと別のところでトラブルが発生したので僕はそちらに行かないといけないんです」
「なんと……」
ゴルドさんは渋い顔をしている。
当然だ、ようやくジャイアントワーム討伐の目処が立ったのに担当者が帰ると言うのだから。
「すぐに代わりの者が……来ましたね」
北の方角から高速で飛んでくる気配を感知してそちらを見ると、とーちゃんがその翼を広げて飛んできている姿が見えた。
気配は3つ。
とーちゃんはその両腕にそれぞれグレンくんとルーシェちゃんを抱き抱えて飛んでいた。
「すまん、遅くなった」
「そんな待ってないよ。それよりなんで連れてきたのさ」
2人を抱いて高速飛翔なんて、落としたらどうするのさ?
「いや、お前を呼んでくると言ったら一緒に行くと言って聞かなくてな……一応落下防止に抱っこ紐は付けてるぞ」
抱っこ紐……なら大丈夫か。
そもそもとーちゃんなら万が一落っことしても問題なく回収は出来るだろうしね。
あくまでグレンくんとルーシェちゃんがまだ小さいから心配なんだ。
「ほら、グレンくんルーシェちゃん、魔人さんのところについたよー」
会話している間にとーちゃんは抱っこ紐を外してグレンくんとルーシェちゃんを地面に下ろした。
「「魔人さーん!!」」
2人は涙目で僕へと駆け寄ってきたので、膝を着いて2人を迎える。
「ごめんね、寂しかったかい?」
「うん!」
「そっか、ごめんね。じゃあ一緒に帰ろうか?」
「うん!」
そう返事はするが、2人は僕から離れず僕の上着は2人の涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「あの……人間の子供……ですか?」
何が起きているのかも分かっていなさそうなゴルドさんからの質問。
そりゃそうだ、この状況はなかなか飲み込めないだろう。
「実は……とーちゃん」
「任せろ」
「そうでしたか……」
あまり子供には聞かせたくないのでとーちゃんに説明を丸投げ。
とーちゃんが説明すると、ゴルドさんは理解を示してくれた。
「それはなんとも……分かりました。せめてもの慰めに、我々がこの子たちの守刀を打ちましょう」
「それは……ありがとうございます」
ドワーフの守刀。
ドワーフは地母神を信仰している種族であり、子供が生まれるとその子の健やかな成長を願って守刀を打つ風習がある。
これは種族内での風習なので、他種族の子供に守刀を打つことは極めて稀である。
その守刀をこの子たちのために打ってくれるというのだ。
感謝以外の言葉が出ない。
「ほら、ちゃんとお礼を言わないとね」
ようやく泣き止んだ2人を促してゴルドさんと向き合わせる。
「ありがとう」
「ございます」
2人がぺこりと頭を下げるとゴルドさんは優しい笑みを浮かべて2人の頭を撫でた。
「守刀があればドワーフの同胞として認められる。キミたちにも地母神様の御加護があらんことを」
とーちゃんに後を任せ、ゴルドさんに改めてお礼を言ってから僕は2人を抱いて魔人族の里へと戻った。
しかし僕から離れると泣くのか……これは少し考えないといけないかもしれない。
しかし泣かせておいてアレだが、悪い気はしない。
これからもこの子たちの頼れる相手であり続けないといけないね。
子育ては大変そうだ。
でも、友達の忘れ形見であるこの子たちをしっかりと育てようと改めて天国の2人に誓いを立てた。




