プロローグ
「なんだと!? 本当にそのような村があるのか!?」
醜く肥太り、脂ぎった顔の男は激怒して自身の執務机を殴りつけた。
「はいお館様。とある商人からの情報でして……」
恭しく頭を下げているこの男の体型も醜く崩れている。
頭は禿げ上がり、額には玉のような汗をかいている。
しかし、その表情は愉悦。
ご褒美を待つ犬のように男は話を続ける。
「なんでも北部領域の中でもさらに北、亜人どもの住処との境目付近に存在する村だそうで……」
「そんなところに……儂の支配する北部領域で平民風情が勝手に村を作るなど……あってはならぬ!」
お館様と呼ばれた男は再度執務机を叩きつける。
「その通りにございます。すぐに軍を編成して征服すべきと具申致します」
「うむ。してその村にはどれほど平民が集まっておるのだ?」
「およそ500人だそうです」
「500か、ならば1000の兵を集めすぐに向かわせろ、男は皆殺し、平民如きが過分な夢を見たことを後悔させるよう惨たらしく殺せ!」
お館様と呼ばれた男は一度言葉を切り、呼吸を整えてさらに続ける。
「女は……年増や醜女はその場で犯して殺しても構わん。見た目のいい若い女は連れ帰るよう指示を出せ」
「かしこまりました」
「あぁ、後ほどお前にも褒美を取らせる。では行動に移せ」
「ありがたき幸せ。では失礼します」
報告していた男は再度深く一礼して執務室を後にした。
「平民風情が調子に乗りおって……忌々しい」
怒りが収まらないのか三度執務机に拳を振り下ろす。
カラン……飾ってあった花瓶が音を立てて床へと落ちた。
◇◆
「魔人さん、今日も野菜を持ってきたよ!」
「いつもありがとうございます……これ、少ないかもしれませんが皆さんで食べてください」
「おお! 鹿肉ですか、こちらこそいつもすみません……」
「いえいえ、気にしないでください。僕だけでは食べきれませんので」
アルベイン王国最北西に位置する小さな村、そのすぐ隣に広がる深い森の中で数人の人間と1人の魔人が取引をしていた。
「魔人さんが居てくれるお陰で我々は森から魔物が襲ってくる心配をしなくていいんですから、魔人さんから何かを貰ってしまうとこちらとしては心苦しいのですが……」
「それこそ気にしないでくださいよ。僕はここに住んでるだけで魔物退治なんかはしていませんよ。魔物が近寄ってこないだけですから」
お互いにいえいえ……と頭を下げあっている。関係は良好のようだ。
「今度は魚を持ってきますね。お米はまだ残っていますか?」
「魚! 嬉しいです! 米はまだあります。美味しいですよ」
「はは、魔人さんは本当に米と魚がお好きですよね」
「ええもちろん。日本人のソウルフードですから」
「にほん? そーるふーど?」
「なんでもありません。では道中お気をつけて」
魔人は森の中へと入っていく人間の男たちを見送り家へと戻る。
「平和だなぁ」
呟きながら貰った野菜を魔力で作った異空間へと放り込む。
「こんな平和が、ずーっと続けばいいなぁ」




