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乙女サシテ恋心  作者: 日結月航路
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第19話 乙女たちの自己紹介

お読み頂きまして、ありがとうございます。

評価ポイントもとても嬉しいです。

完結まで頑張って…………低空飛行で参ります。

「志門さん、お疲れ様でした」

「いや、詩津とかさねが手伝ってくれたおかげだよ。ありがとな」



 気遣いの言葉をかけてくれる詩津へと、志門がこたえる。



「ねぇねぇ、志門兄ちゃん。テレビ見ていーい?」

「まだ集合には時間があるし、いいぞ」


「やったねっ」



 かさねは志門に許可をもらうと、青戸家の四畳半の和室でテレビをつける。

 すっかり定着した位置に腰を下ろし、テーブルへはリモコンと飲み物グラスも置いていた。

 歓迎会という名目もあってか、詩津とお揃いの服装で妹もスカート姿だった。

 

 時刻は午前十時頃、晴天。

 志門が鳳花の邸宅に呼ばれてから四日後になる。

 次の日の晩には彼女から連絡があり、詩津たちにも伝えて歓迎会が今日の昼となったのだ。


 志門と詩津はぽかぽかと良い天気のもと、二人縁側でゆっくりとしている。

 朝早くから如月姉妹が歓迎会の準備の為、一階和室の掃除などを手伝ってくれた。

 手元を見ながら、詩津がにこやかに話しかける。 



「志門さんの歓迎会を提案してくれるなんて、いい人ですね。御子神さんって」

「そうだなぁ。……でもまぁ、ちょーっと気が強いというか……、気が早いというか、つっぱしってしまうというか……」


「そうなんですか……? 私のイメージとしては――――」



 突然、一喝するようなハリのある声が和室に響き渡った。



「ちょっとあなたたちっ! なにをイチャコラとやってんのよっ!」

「なんだ、なんだっ!?」と、かさねが驚く。



 志門は顔を上げ、かさねのいる和室入り口の方を見た。

 先日とは打って変わってタイツにショートパンツ、ブラウスとニットソーベストという彼女らしい服装で腕組みをしていた。



「ん……? ……ああ、鳳花か。まだ十時なのに、こんなに早くどうしたんだ?」

「えっと……お向かいで近いし、なんか手伝えることあるかなーって…………。いや、そうじゃなくって! なに女子の膝枕で耳掃除なんてしてもらってんのよっ!」


「おっ、そうだったのか。ありがとな。でも、家の準備は済んでるから、あとは少し一緒に買い出しに行くくらいかな。掃除と片付けもひと段落したからさ、ちょっと休憩してたんだ」



 悪びれる様子もなく、さらっと答える志門。

 彼は「よいせっ」と起き上がり、詩津に礼をいった。



「うぬぬぬ……」



 今更ながら志門の性格を認識した鳳花は、これ以上いい返すことができない。

 ましてや、『彼女』でもない鳳花にはとがめる理由もない。

 複雑な表情で眉を寄せていると、詩津が立ち上がってスカートを正した。

 耳かきで利用していた平打ち簪を髪へと挿しなおす。



「初めまして……でいいでしょうか。如月詩津といいます。志門さんとは幼なじみのようなもので、このおうちの隣に住んでいます。えっと……お向かいの御子神さん、ですよね?」



 片手を胸に添え、礼儀正しく詩津があいさつする。

 腕組みをといた鳳花はややぎこちなく自己紹介を返した。



「御子神鳳花よ。……確かに面と向かって話すのはこれが初めてね。如月詩津……さん」



 二人の間に挟まれる形となったかさねは、きょろきょろと二人を見比べる。

 何かただならぬ気配を感じ取ったのだろうか。

 そのような空気の中、少し嬉しそうに志門が入った。



「なんだ、二人とも。顔見知りだったのか」


「はい」

「ええ」


 

 ちらりと志門へと視線を向け、詩津がそのまま続ける。



「御子神鳳花さん……中等部の頃からその評判はとても有名でした。同じクラスにはなったことがないのですけれど、弱きを助け強きをくじくその姿勢はとても慕われていたそうですよ。周りから声を聴くたび私も見習わなくては、と何度影響されたことか」



 詩津からの紹介を受けた鳳花は、半ば笑い飛ばすように手を振った。


 

「いやいやいやいや、そんなこともあったかもしれないけれども。私の方にもあなたの噂は色々と来ていたわよ。清楚せいそ華憐かれんなる乙女、如月詩津……といえば同学年でも知らぬものなしだったわ。来るものは拒まず、その慈愛に満ちた人柄で教師からの信頼も厚かったようだし。おまけに成績は学年では常に上位。私なんかはとーてい敵わないわ」


「あらあら、そんな…………」

「そんなに謙遜しなくっていいわよ……あははは」



 明らかに何か化学反応を起こしそうな二人。

 我が姉とは異なるタイプの鳳花に、かさねは興味を引かれた。


 

「あたしは妹の如月かさねっていうんだよ、よろしくねっ。……鳳花姉ちゃん、ってお名前で呼んでもいいかなっ?」

「いいわよっ、好きになさいな。……なんだか妹ができたみたいで新鮮だわね」



 純真にまっすぐ踏み込んでくるかさねのような性格は嫌いではないらしく、鳳花はちょっと嬉しそうだ。

 


「歓迎会って名目だけど、懇親会みたいなものだからさ。二人も名前で呼び合っていいんじゃないか? これからまた同じ学校なんだし、ちょうどいいと思うぞ」



 あぐらをかきながら志門が提案した。

 詩津の方は表情から読み取れないが、鳳花はというと……とても分かりやすい表情をしている。

 中等部の頃の噂などにではなく、志門への心と身体の距離が近い詩津に対して、明らかに警戒していた。



「そ……そうね。それじゃあ……よろしく。詩津って呼ばせてもらうわね」

「こちらこそよろしくお願いします。鳳花さん」



 それぞれの自己紹介がすんでひと段落……した時、庭の向こうでなにやら元気な声がした。

 真っ先に気付いたかさねが声をあげる。



「あーっ! 豆柴のぽん太だぁ!」



 飛び起きたかさねは縁側の踏石ふみいしにあるサンダルを素早く履くと、駆け足で塀の方へと寄っていった。

 青戸家の隣は歯科医院で、塀の向こうにはすぐにその建物がある。

 三階建ての白い建物の隣には居住している家屋も併設されているので相当大きい。

 塀には等間隔で透かしブロックがあり、そこからひょっこり顔を出している子犬がいた。

 それが豆柴のぽん太だった。


 かさねとは既に面識があるらしく、かわいらしい鳴き声でこたえる。

 


「わんわんわんわんっ」

「ぽん太ー、このちっこい穴からあたしを見つけてくれたんだねぇ。よーし、よしよし」



 透かしブロックの窓から手を出して、わしゃわしゃと頭部を撫でるかさね。

 普段は志門にわしゃわしゃされているかさねが、この時ばかりは自分より小さなものをでていた。

 よく見えなかった鳳花が不思議そうに縁側の方へと近づいてくる。


 

「な、なにかしら?」 

「お隣の犬ですね。とってもかわいいんですよ」


 

 詩津がかさねの方を指さすが、茶色い毛の一部しか見えない鳳花は流す程度に返事した。



「へぇー……犬ね。そんなにかわいらしい犬が近所にいたのね」

「今日は庭に離してもらってるんだな。あの塀に沿って二階への階段をのぼったり下りたり、小さいのによく動くわんこなんだよ」


  

 志門たち三人が話し始めた途端、かさねが声を上げた。 



「ありゃ! ……わぁっ、わぁーっ、みんなー!!」



 何事かと思いきや、なんとかさねがぽん太を両手に抱いて駆け戻ってきた。



「おっ、おい、かさね。なに連れてきてんだ」

「んっとねぇ……なでてたら『すぽっ』って入ってきちゃった」



 初めてぽん太の全身を目の当たりにした鳳花は、ハーフツインの先まで衝撃が走ったようだ。

 うずうずした様子で両手を差し出し、つぶらな瞳で舌を出す生き物に近づいていった。



「きゃぁあぁぁぁ! かわいいじゃないっ! いいじゃないっ! 小さくって、んもふもふ~!」

「でしょでしょっ?」



 といってる間に鳳花も撫でくりまわす。

 盛り上がるところ悪いが……という顔で志門が頭をかいた。

 


「いやまぁ、かわいいけれども……。隣のおばさんに見つかったらまたうるさいぞ」



「わんっわんっわふん!」

「んもー、しょうがないわねぇ……うわ、きゃっ!!」



 鳳花からの対応が嬉しかったのか、ぽん太は勢いそのままに鳳花の方へとジャンプした。

 押し倒された鳳花の頭部を越え、そのまま彼は青戸家の奥へと消えてゆく。


 トッタッタッタタタタタ…………。



「あぁっ! ダメだよーぅ、ぽん太ぁ!」



 すぐさまかさねが追いかける。



「あっちゃー……」

「あらあら、まあまあ……」



 志門と詩津は困り顔でかさねに託した。

 鳳花は倒れ込んだまま、天井に向かって両手を突き出して固まっている。



「に、肉球キックについては、まあ許してあげましょうか……」



 軽快なぽん太の足音と、追うかさねのドタバタ音を背景に、鳳花が声を押し出す。

 志門が鳳花を助け起こしていると、更なるかさねの声が奥から響き渡った。  



「あぁあぁっ! そこでおしっこしちゃダメだよーぽん太っ!」



 と、今度は志門がどさっと膝をつく。

 同時にテレビからは『いい加減にしなっさーい!』とお笑いのツッコミが入った。



 詩津と鳳花は互いに顔を合わせると、仲良く一緒にふき出した。


かさねと志門

「トイレ前の廊下でされちゃっただけで運が良かったねぇ、志門兄ちゃん」

「ま、まあ……二階の布団じゃなくて、助かったよ……ホント」

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