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山の神様

指先から消えていく


ふむ、お前がここにきたあの日はどれくらい前だったろうなぁ。膝丈ほどしかなかった小僧が祠の前でびえびえ泣いていた時はたいそう驚いたものだった。ん?膝丈よりはあっただと?小僧だったことにはどうせ変わりはないだろうよ。祠を休憩所か何かと思ったのか扉を開けた時はこいつは信仰心がないなと思ったし、そこで休み始めた時はただの物知らずだと確信したわ。しばらく様子を見ていたが一向に泣き止む気配がないゆえに姿をみせたらひっくりかえっておったな。あの時作ったたんこぶは残ってないのか?うむ、ならよかった。お前が法事で来なれぬここ地に来たこと、見慣れぬ大人たちに物怖じしひとけのない所を探し彷徨っていた結果ここまで歩いてきたと聞いた時は運が良いのか悪いのか頭を抱えたものだ。一昔前であれば人の子を麓に送り届けることなんて朝飯前であったが、あの頃には麓から祠への道はもはや消え既に私は忘れられ始めていたからな。もう私はここから動くことが出来なんだから、声だけで誘導してやると言ったのにお前は頑なに一緒に帰ると言っていたな。帰るもなにも私の居場所はここだと言うのに。それで渡したのがその石と私の名前だ。私の名前をしっていれば、山の中ぐらいではその石は温もりを保ってくれるだろうからな。全くなんの縁もない小僧にそこまでしてやるなんてなんて私は優しいんだと感動したことを覚えておるわ。その時にした約束を覚えておるか?まぁその顔をするということは思い出したんであろうな。全く、人の子というものは薄情で仕様がない。私の名を忘れるな、たったそれだけのことだというのに早々にお前は私のことを忘れたな。山から1人無事におりてきたお前に狐等が憑いてないか心配した親族が私の名を口に出すことを禁じたのもあるだろうがな。呼び名は縁だ。口に出さなければ記憶からなくなっていけば、縁はいずれ消える。分かってはいるだろう、その石がこの山の中に入っても熱をもたない時点で。ふむ、年甲斐もなく話し込んでしまったがそろそろ時間のようだ。なんだその顔は。人の世に「男子、三日会わざれば刮目して見よ」という言葉があるが、お前の顔は迷い込んできたあの時とまるっきり変わらないじゃないか。


謝らなくて良い、赦すつもりはない。そうすればもうお前は私のことを忘れないだろう?


それだけで良いよ。




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お題

「指先から消えていく」で始まって、「それだけでいいよ」で終わる物語を書いて欲しいです。




作成:酒

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