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そこにいたのはジャン一人じゃなくて。
ジャンは私の表情を見て振り返り、兄さん有り得ない、と怒ってヨハンを軽く押して戸を閉めた。
ヨハンはジャンの後ろについてきたようだった。
「ごめんね、一番最初に見るのは俺だけが良かったのに、後ろにいたことに気が付かなかった」
「ふふ。ヨハンらしいね」
「そんな簡単に許されるのも複雑だなぁ……」
「心にもないこと言って」
「本当だよ?貴方が思っているより俺は貴方を大切に思っている。
突然婿になれと言われて戸惑っていた俺を、優しく導いてくれて。
恋愛結婚が許されないから、妻を愛せると思っていなかったんだ。
でも、貴方はとても愛らしかった。
俺にだけ見せてくれる顔が好きになった。
だから、忘れないでほしい。
俺は家を守ることは勿論、貴方を守って幸せにしたいと思っているよ。」
長台詞みたいな、甘い言葉を紡いだジャン。
『戸惑っていた』、『愛せると思っていなかった』……。
気付いてしまっていても、気にならない。
すらすらと、優しい声で紡がれる言葉に、私は幸せで涙が出そうだった。
化粧が崩れてしまうから、必死に止めた。
「ジャン……。
私も貴方が大切。
私だって貴方の事を愛しています。
家をどうか……よろしくお願いします」
あ。
涙、出ちゃった。
困ったなあ……。
ジャンは私の涙をぬぐって抱きしめた。
泣かせちゃった、初夜まで言わない方が良かったかな、ってからかう彼の背を
軽くたたく。
溺れてしまうくらい、幸せだ。
結婚式にはダニエル改めシャンタルも新婦の家族兼新郎の友人として参列した。
婚約者と共に。
体は女性でも、人格は男なわけで。
でも、聖女として子を成すことは必須なわけで。
シャンタルも女性名を受け、自分の運命を受け止めていたから、
女として婚姻することを承諾した。
前代未聞の元男性の聖女の誕生は、もうおかしいことだと言われなくなってきていた。
誓いのキスをするために、目を閉じて、ジャンの体温を感じた時。
ほんとうに、これでよかったのか。
そう聞こえたのは、きっと気のせい。
ブクマありがとうございます(´;ω;`)♡
あと一話、よろしければお付き合いくださいませ!