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弟は聖女になった。
私は聖女になれなかった。
平和な今、聖女は切迫して求められるものではないけれど、
必要とされて愛される存在であることは確か。
私も他の公爵家の令嬢も、シャンタルを羨ましいと思う事は否定できない。
でも、もう私はシャンタルの位置を欲しいとは思わない。
跡継ぎを失った家に残された私がジャンと家を守ることは、
私にとっては聖女として生きるよりも遥かに……
いや、何よりも大切な使命で命運だと思うから。
あの夜聞いた疑惑。
聖女の血が薄い、しかも男性が聖女になった事を怪しいと警戒した国が、
調査をしないわけが無かった。
その中で浮かび上がった犯人はとある令息。
彼は禁断の恋をしていた。
ある日絶世の美女に夢で導かれ、
起きたら枕元にあった薬を、こっそり友人に飲ませて聖女を作り上げ、自分は恋を叶えたという。
彼の夢と薬については、同じ夢を彼の兄が見ていたため明らかになった。
彼が聖女の捻じ曲げによって得た影響は余りにも遠いものであったため、
捜査をした全員がその意外な正体に驚いたという。
本来の聖女が現れなかった理由は未だ解明されていない。
両親は誰とは言わなかったけれど、それが誰を指しているのかなんて当然分かる。
それを聞いても私は今の夫と一緒になることを選んだ。
正直彼が事実を捻じ曲げてまで執着する理由は分からないけれど、
彼に執着されても、今では嬉しいとしか思わないし、
今更それを明かして騒いだところでデメリットの方が大きい。
彼のイレギュラーを引き起こすほどの強い想いと罪は
平凡な私の人生においてただ一つの、あまりにも強すぎるスパイスだった。
今私たちは新婚旅行と称して軽く旅行をしている。
馬車の中でも彼は私を抱きしめて離してくれない。
結婚して更に甘やかしてくる彼はきっとすべて気付いてるのだろうけれど、
何も言わないし否定もしない。
そんなことどうでもよかった。
本来なら結ばれることの無かった彼が目の前にいる。
愛を貰って、それに精一杯応えて、これからも生家から離れることなく守っていく。
女に生まれ生家を継げない自分が残れるようになったことは
貴族として育った、父母に愛され育った自分にとっては
多分一番幸せで有り得なかった未来だ。
唐突に現れた、作られた聖女は歯車を狂わせた。
でも、狂わされた後の歯車の動きのほうが私は
気に入っている。
金曜日、お疲れ様です。
これにて完結です。
不定期更新だったのにもかかわらず、最後までお読みいただきありがとうございます。
あとがき
ヒロインが行動し成長していくというのが物語でありますが、
やはり今回もヒロインはあんまり何かを成し遂げることもなく、
特異な状況に陥って周りに巻き込まれるという話でした。
弟が聖女になったら面白いなと思って書き始めた話で、
イベントが少ないなと思い加筆しましたが、
そしたらよくある展開みたいになってしまって反省しています。
よろしければ是非、評価感想お願いします。
ブクマ閲覧ありがとうございました。
とても励みになります(*^-^*)