表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なぞる

作者: 桜野二光

自分を殺す。誰でもする行為だ。嫌なことだったり思い出したくないことから目を背ける。それがいけないことだとわかっていてもその声を自分の本心を殺す。

いじめもそうやって起きる、みんなそれがいじめだと気づいているだが、その思いを殺し合理的な生き方を選ぶ。

そうして僕も自分自身のことを殺していた。

白い塗装がはげ少し酸化した部分が目立ち始めた校門を横目で見ながら校庭に入る。

雲が所々あるいつも通りなんら変わらない空。砂利を踏むとザクザクと音がする。少し高そうなスーツを着てありがちな頭を光らせた校長が昇降口の前で「おはようございます」と声を掛ける。

隣を通る人は皆気にも止めない様子で頭を曖昧にすくめたり、会釈を返したり、無視を決め込んでいる。

少し老朽化が進んだ校舎は所々塗装が剥がれおちヒビが入っていた。靴箱は木製で濃い茶色。傷だらけで抉れてたり表面の板が剥がれているところが多々ある。

外履を脱ぎ、上靴に履き替える隣にはボロボロな靴があった。ヒモは切断され布はほつれて糸があらゆる方向に飛び出ていた。さらに泥などに落とされたのだろう、白いはずの布は薄い茶色に染まり漂白剤で汚れを落とそうとしたのか青の色は薄れ長年使われて来たものの様に感じられた。

階段を上る、教室のドアの窓は汚れて中が確認しにくくなっている、ドアを横にスライドする。劣化したタイヤが動き、呻き声の様な音を発する。

中に入り教室を一望する。真っ直ぐになり損ね列にもなっていない机、そして、その中のある一定の場所に数人が集まりグループを作り会話している。ワックスを上に塗ってしまい二度と取れなくなった汚れが点々とある。大きな窓からは陽光が差し込み部屋の温度を上げている。後ろの黒板には教科係が面倒に感じたのかいつも通りと言う言葉が点在している。僕は自分の席に向かいながら面識のある何人かに会釈をして、席につく。

やけに牛乳臭いこの教室。理由は一つしかない。僕は横に目を向ける。そこにはどこに隠し持っていたのだろうかと思うほどの牛乳牛乳パックが重なり中身がぶちまけてあった。

思わずため息が出る。やっぱりこれはいじめだ。だが、それと同時に関わらないでおこうと言う考えと、彼女がいじめられているうちは安全だと考えてしまう。

僕はどちらかと言えばクラスの不適合者。いじめる側にとっては絶好のボジションにいる。だがこのクラスの憎悪やストレスが彼女に向いてるからこっちには向いてこない。いじめられている彼女の名前は坂義原光と言う人物だ。ちなみに言っておくと僕の名前は桜野二光と言う。へーそうなんだと言ったふうに捉えてくれればいい。

彼女が虐めらる前はクラスの中心人物だった。明るく快活であり彼女を中心にクラスが作られていると言っても過言ではなかった。

だが一方でその様な人を妬む奴がいる。その女が今の状況を作り出した張本人だ。あの日は今日のように本を読んでいた。その日はいつも通りの始まり方だった。いつものように彼女の周りには人が集まっていた。僕はいまと同じように本を読んでのんびりと過ごしていた、すると突然ドアが開き、あの女が入ってきた。

そいつはいつものように人を小馬鹿にしたような目をしながら人に囲まれている彼女の方へ向かう。反射的にだろう。人垣が割れその中心に向かってその女が歩いていく。

誰もが疑いの目を向けていた。それもそのはず一度彼女はその女に暴力を振られた。その時はクラス中の大バッシングを受けてやめたがその騒動が収まったとわ言え一度犯した罪が消えることはない。

その女は中心にたどり着いた、片や綺麗に整った校則厳守と言った服装なのに対しもう一方はヨレヨレのシャツを着て第一ボタンが開いている。そしてどこからともなく牛乳パックを取り出し上を開け彼女に掛け出した。その牛乳が髪をつたい制服を濡らし地面に水たまりを作っていた。

周りにいた男子のうちの一人が怒ったように叫んだ「なにやってんだよ」そうして詰め寄る。女は余裕そうな顔をして後ろを指さす。そこには170は超えていると見える一人の男が立っていた。

その男は高校生とつるんで悪事を働いてると言われている男だった。まるで悪党の見本市を見ているかのようだった。そいつはその男を捕まえて顔を地面に押し付けた。奴は力を見せつけられることが嬉しいと言わんばかりの顔をしてその女を見た。女はそれを見て高笑いしながら彼女を取り囲んでいた生徒に視線を這わせ言った「笑え」その端的な一言は一瞬クラス中の思考を凍結させた。

男は威嚇するように腕の骨をぽきりぽきりと鳴らしながら周りを睨みながら「はははは」と意地汚そうな笑い声を上げる。そして周りにいた一番弱そうな子に目をつけて睨んだそこが恐怖に屈し笑う「はははは」本当に感情の一切いがこもっていない笑いだった。

周りも同調するように笑う。恐怖がこの場所を支配していた。彼女はひたすら俯き止めどなく流れる涙を堪えようとひたすら唇を噛んでいた。この時あろうことか僕は本を読み始めた。いつもより熱心に、貪るようにして。まるで何か嫌なことから逃げようとするように。

次の日彼女はいつも通りに登校した。まるでこれまでのことが夢だったかのように。いやそう考えたかったのだろう「おっはよー」彼女のその陽気な声に反応するものはいない。

彼女の声はクラスの中に吸い込まれていった。誰も彼女の方を見なかった。彼女は俯き唇をかむ。だがなんとか持ち直しまるでなにもなかったかのように彼女はふらふらといつも会話していたグループに近づいていった。

しかしそいつらは無視をした。だがそいつらの顔も苦痛に歪んでいた。彼女がさらに声をかける、だがその中の一人が目尻に涙を溜め込みながらそれは恐怖なのか苦痛なのかはわからないだがそいつはこう言った「拘らないでよ。私たちがいじめられる」その言葉を聞き彼女は俯きながら「ごめん」と言った。

そのまま席に戻ろうとした彼女は自分の席の前にたどり着いた途端立ちすくんだ。そこにはノートの破られたページに書かれた罵詈雑言の数々と机から溢れんばかりの牛乳がポタポタと垂れていた。彼女はその場で崩れ落ちた。だが誰も駆け寄らない。

担任が入ってくる。僕も彼女も他の生徒もそこに一つの望みをかけていた。先生が気づいてくれれば解決する。だがそれは最も容易く裏切られた。奴はなにも言わずいつも通りのホームルームを始めた。だがえらく饒舌だった。

「はあ」ため息をつく思い出すんじゃなかった。さらに気持ちが沈む。

今あの女は奴主体のグループで話し込んでいる。彼女のいた場所に奴がいた見事なまでの反転だった。ガラガラとドアが開き彼女が入ってくる。

もはや周りには目も暮れず一心に自分の机に近付いて行く。そして、机を一瞥した後バケツと雑巾を取りに行こうと荷物も置かずに流しの方に歩いていった。荷物を置けばそれがどんな目に合うかわからない。それを考慮した上の判断だろう。

そういえば彼女は泣かなくなっていた。初期の頃は良く泣いていた。だが今は泣かないそれはもう慣れたと言うわけではないだろう。もう疲れてしまったのだ泣くことにさえも。だからこそ泣かない。彼女が戻ってくる。そして雑巾で机を拭き絞るその短調作業を何度も何度もただひたすらに繰り返していた。僕は無意識のうちに彼女の方に歩み寄っていた。頭ではわかっていたこんなこと自分のためにならない。やめておいた方がいい。おそらくこの行動は思い出した負い目からなんだろう。だがもう体は止まらず。彼女の机を拭く手を掴み雑巾を取る。彼女は驚いた顔をしたと同時にその目には恐怖の色が浮かんでいた。

周りもざわめき立っていた。今まで何にも行動してなかった奴が動き出して新しいいじめをするぞと。

だが僕は拭いていた彼女の机を、傷らだらけになり牛乳の匂いが染み付いたその机を。牛乳が指をつたい冷たいなと他人事のように感じる。牛乳の匂いで鼻が満たされる。こんな状態を僕は無視し続けていたんだなと自分を責める。

黙ってられなくなった女が言う「そいつを庇う気かよ」僕は無機質に「うん」と答えた。言葉が勝手に出た。「そう」女が冷ややかな目をして合図を出す。

次の瞬間僕の頭は地面に押し付けられていた。あの男か僕は呑気にもそんなことを考えていた。そう言えば僕は昔喧嘩ばっかしてたな〜背負い投げして友達を泣かしたっけかまあそんなことはどうでも良い。頭が痛い今まで経験したことのない痛みだ。だが久々に闘争本能が体の中で目覚めるのを感じた。自由だった足を全力で曲げそいつを蹴り上げる。そいつは驚き僕から飛びのいた。まるでこれまで従順だった小動物に反撃されて驚く心の弱い肉食獣のようだった。僕らは睨み合ったまま教室の後方に移動する。直感で技を仕掛ける。棚を利用した回し蹴りをそいつに叩き込む。だがその足は掴まれた僕は慌てて棚を使い奴の上に上り両足で首をロックした。奴が倒れそうになるのに気づいて慌てて棚に退避する。奴にもう余裕など残っていなかった。僕の十分に助走をつけた飛び蹴りは見事奴の溝おちにヒットした。呼吸が苦しくなったのだろう奴は苦しそうな息を揚げながら教室後方のドアから逃げ出す。

歓声が巻き起こる。だが女だけは呆然とこっちを見ていた。周りの皆もそっちに向き直る。結局必要だったのはきっかけなのだ。今までの恨みを晴らすかの如く皆が睨みつける「なんなのよ」と言いながら走り去る女。皆が彼女の方に向き直る。そして我先にと謝り始める。

僕は今までの疲れがどっと出て自分の席にどかっと座り込んだ。すると彼女が自分に謝ろうとする人だかりを抜けてきて一言「ありがとう」と言った。なんと反応したらいいかわからずにいるとまた人の波が押し寄せて彼女を連れていった。

感謝しきって満足した数人が僕の元に来た。感謝の嵐だった。お前が行動してくれたから〜だのなんだのとひたすら声をかけてくる。僕だけは自分の行動が正義に裏付けされたものではないと知っていた。ただ自分は我慢できなかっただけだと。忍耐力がなかっただけだと言っても誰も聞かない。ただ誇張された虚像を見て喜んでいた。僕が対応に困り果てていると先生が入ってきて席につけと言った。皆が席につき僕は解放された。

僕は何故かこいつらはなにもしなかったのに良い気なもんだとお門違いなことを思っていた。散々追いかけ回された学校は終わった。

僕はいち早く帰ることにした。準備を電光石火の如く終わらせて下駄箱に向かう。そして靴を履き替え学校を出て歩き始める。昇降口の外に出ると陽光が一瞬僕の視界を奪う。「眩しいな」と一人呟きながら歩きながら考える彼女に謝らなければならないなとそう思いながら歩いていると後ろからは走って来る音が聞こえた。

後ろを振り返るとそこには彼女の姿があった。彼女はあの人だかりからは逃げきれないと踏んでいただけに素直に驚いた。僕は彼女が口を開くより先に言った「ごめん。今まで逃げ続けてきて」「なんで謝るの」キョトンとした顔で言われた。僕は言葉を続ける「僕は逃げ続けていた。坂木原さんがいじめられてる事実から逃げていたんだよ。それにあの行動だって正義に裏付けられた行動じゃないんだよただ僕がその現実から目を背ける手段を失ったからなんだよ」

僕は本当のことを言った嫌われると思った軽蔑されると思っただが現実は違った「誰だってそうだよ。だけどその誰だっての中で君はただ一人行動した。これが事実であり結果なんだよ。それが私を救ったそれは君がもともと私を助けたいそう思ってたからじゃないの?」「僕がそんなに優しいわけがない僕は腐った人間だよ」「違うよ本当にそうだったら目を背ける方法をさらに模索したはずだよ。だけど君はそれをしなかった。それに私だって逃げたんだよ。怖かったこれ以上いじめがひどくなるのがたまらなく怖かった。だから自分の中でこれは友達が被害に遭わないようにするためなんだと自分を説得してきた。だからこそ行動をできた君は誇っても良いしもっと自分を肯定してあげて」その言葉に僕は思わず感動してしまい目尻に涙を溜めてしまった。自分を肯定していいと初めて思えた。

危うく涙が溢れるところだったが幸いなことに目尻でそれらは止まってくれた。「わかった」僕は彼女にそう告げた後二人で帰路を辿ったそれは言葉なく静寂の時間だった。

だがそれはとても心地よい時間だった。それを切っ掛けに僕らは仲良くなった。学校で同じ時を共有した。だが終わりは突然やってきた。別に彼女が死んだとかそんなに大それた理由じゃない。

彼女の親にバレたのだいじめのことが。聞いた話によるとある一人の生徒がそれを親に話しそれが親伝いに伝わっていったらしい。彼女の親はすぐさま転校を決めた。彼女を半ば無理やり転校させた後学校に報告に来た。この噂が広まるとまたいじめられる可能性があるからこのことを公表はしないそうだ。それが原因でクラス替えが行われることとなった。もうその頃には僕の武勇伝も語られ尽くした後だった。

新しいクラスにはあの時いじめていた男がいた。そいつは僕を見つけるや否や近づいてきて紙を差し出してきた。おそるおそるそれを受け取り裏返すと住所が書いてあった。ここに来なければ彼女と同じことをする。と奴に耳元で言われた。僕はその住所の大体の場所を家で把握してから家を出た。踏み出す足が異様に重く感じられた。そこに着くと奴が数人の部下を連れてこっちを見ていた。よくよく考えれば学校でいじめる方がリスクはよっぽど高い。そう気付いた時にはもう遅かった僕の腕は捻りあげられ奴の目の前に差し出されていた。男が恨めしそうに言った「お前のせいであの子と付き合えなくなった。だからお前を許さない」奴の語彙力が足らなかったので簡単に説明すると奴はあのいじめっ子の女のことが好きで言うことを聞けば付き合ってあげると言われていたらしい。それを聞き僕は言わなくてもいい余計な一言を言ってしまった。「まるで奴隷だな」その言葉に奴は怒り狂った。

抵抗できない俺の頭をまた地面に押し付けた。荒くゴツゴツした岩の塊のようなアスファルトに僕の頭が食い込む。僕の足は前回のように自由ではなくしっかりと押さえつけられていた。頭から血が滲み出るような感覚がして脈拍が速くなる。そして不気味なほどに聞こえる自分の心臓の音。痛みでなにも考えられなくなる。奴は足を振り上げ僕の溝うちに思いっきり蹴りをたたみ込む。体から一気に空気が排出されて吐き気が襲ってくる。横隔膜が動かずヒューヒューという耳を塞ぎたくなるような僕の口から出ていた。

そうして奴が満足するまで暴力が続いた。学校で告発をすればいいと誰もが思うだろう。だが恐怖は僕の体に染み付いて離れることはなかった。怖い。痛い。もう嫌だ。死にたい。何度こう思っただろ何度己の運命を呪ったのだろう。もう何かも分からない生きる理由も意味もそうして一ヶ月二ヶ月三ヶ月と時間が流れた。一日一日がまるで一年のように感じられた僕にとってはとても長い三ヶ月、そうして今日も僕は向かうこのまちで自殺の名所と言われる崖に。

ここではたくさんの人が身投げした。借金に追われた者。駆け落ちが叶わなかったカップル。そしていじめに耐えきれなかった者。やがて僕はその場所についた。申し訳程度に付けられた柵をこえる。腰ほどしかない本当に申し訳程度のものだ。止める気なんて毛頭ないんだろう。死ぬっていうのは案外難しいものだ。絶対に人には悔いが残る。それを一度でも意識してしまえば死ねなくなる。今まで僕が繰り返してきたことだ。そして僕は死ねない人なのだろうどんなに絶望していてもどこかに幸せを見出してしまうだから死ねない。

柵から手を離す。眼下に広がるまち窓の明かりがまるで夜空の星のようだった。綺麗だなそう僕は柄にもなく感動している自分に気づいた。足に力を入れて前に重心をかけていく。だが一向に体は倒れない僕ができたのはあくまで意識的なことで実際に体は伴っていない。

やっぱり死ねないだけど死ななければこの地獄が一生続く。一旦決心をつけるために柵に手をかける。はあ息を吐く。

その時不意に後ろから声がした。「嘘」その声は不思議と夜の空気を割いて僕の耳に届いた。自殺志願者だろうか僕がそんな推測をしながら後ろを振り向くとそこには命多赤理というこのクラス替えで初めて同クラスになった学級員委員体質の女だった。「なんで君がここに」彼女は狼狽しながら言った。僕は「死ぬためだけどなんで命多さんはなんで」「死ぬためじゃないよ」なぜか食い気味に否定してくる。

確かに彼女に死ぬ理由などないと思ってしまう。彼女はしばらく自分の言うべき言葉を推敲するかのようにおしだまった後に言った。「あなたが死ぬつもりなら私は止める」わけがわからなかった。意味がない僕を助けたとして彼女にとってはなんの意味もないそれに彼女は知らないのだろう本気で死にたいと思える絶望のことを。

だからこそ僕は告げた「あなたにわかるわけがないよ」これは彼女を黙らす為でもあった。彼女に説得されて人生の楽しさを見つけてしまったらそれこそ僕は今よりこの絶望に入り込んでしまうだろうからそのための拒絶だった。だが彼女はいった「わかるよ」その端的な一言に僕は苛立ちを覚えた。「あなたにわかるわけがない暴力の痛み苦しみ僕の死にたいと言う思いをわかるはずがないわかってたまるものか」「確かに私は今までいじめられたことも無い」「だったら」「私は本気で死にたいと思う気持ちがわかる。どんなに足掻いても消えない無力感や虚無感それらに苛まれながらもわざわざ生きようとは到底思えない私だってそんな気持ちになることがあるだけどだけど逃げていい理由なんてない」この言葉になぜか深い共感を覚えている自分がいた。理解しているこれが逃げだと言うこともだけどそれでも嫌だった。この世に生きるのがこのまま苦しみ続けるのがだから僕は彼女の言葉に沈黙を返しそして手を離す。

人間はむしろ誰かに止められた方が死ねるのかもしれないななんて他人事のように考えながらゆっくりと前に重心をかける。今回は行動が伴っていた視界がどんどん横倒しになって行き。眼下の街が言葉で言い表せないほど綺麗だった。僕にはもう恐怖は残っていなかった。まるでスローモーションのように本当にゆっくりと体が倒れて行く。

しかしそれは止まった。突然止まった後ろから回された手は僕を包み込み引き寄せる。不意に後ろから温かい感覚もう長いこと忘れていた人の温もりだった。僕より少し身長が低い彼女の声が僕の背中のあたりから響く「生きて。逃げないで。どんなに辛くても生きるに足る目的を見つけて」振り払おうとしたら出来たはずだった。この選択が更なる絶望を味わう原因になることを頭では理解していた。

だけどだけど無理だった。縋ってしまった彼女の優しさにぬくもりにそして希望に。彼女はいつの間にか離れ僕は呆然と月を見上げていた。本当に澄んだ空で月が綺麗だった。

僕は柵を跨ぐ。彼女はいつの間にかそこにはいなくなっていた彼女が通ったであろう場所の草が踏み倒されていて道を作っていた。もう僕が死のうとしないことを確信したのだろうか。フラフラと近くにあったベンチに座る。膝に一つまた一つと涙が落ちてくる。手を頬に這わせる。涙が通った跡が濡れていた。そしてこれまでになく僕は自分の生命を感じた。自分が今ここに生きているという事実を温もりをはっきりと感じた。

その日どうやって帰ったかは覚えていないだが一つだけ確かなことはその帰路は希望に満ちていたことだけだった。

次の日僕は学校にてぽけ〜と過ごしていた。久々に自分の心に余裕が出来た気がする。最近まではずっと本の住人のようなものだったしな〜と考えていると奴がこっちを睨みつけてきた。あいつが望んでいるのは絶望しきった僕なのだと再認識した。途端にあの痛みが恐怖が湧き上がってくる動悸も尋常じゃないほど上がっていた。僕は何とか気を持ち直す。

今日こそは逃げてはならない。その思いを胸に放課後自分の家にて正確には庭にて園芸用の支柱を発見した。そこそこの長さで重さもちょうどいい。振り回してみる。とりあえず可能だった攻撃は薙ぎ払いと叩き込むものだけだった。流石に突きは目ん玉突くと危ないので封印することにした。

これだけされても自分はまだ相手のことを気にかけちゃうあたりまだまだ甘いなと感じる。他に何本か予備を用意していつもの場所に。

だけどその場所に近づくにつれどんどん足取りは重くなる、恐怖に飲み込まれそうになる。だけど逃げたくないその一心で歩を進めるだが手の力が抜け持っていた数本の棒が落ちる。膝をつくこれ以上怖い思いをしたくないその思いがいつしか僕の歩みを止めていた。現状維持で良いから抗わなくて良いんじゃないかと言う考えが脳裏をよぎる。

だが朝の決心を思い出す。逃げるな戦え。気づけば足に力が戻り一歩また一歩と足が動く。そしてあの場所に着く。目立たない場所に数本を隠しておいて一本をまるで命綱のように握り締めながら奴らの目の前に出る。「そんな棒を持って何をする気だよ」奴がいいそれを聞いた周りが笑う。そして奴は「いけ」と横にいた二人に命令をした。片方が右からもう片方が左側から来た。僕は落ち着いてそれの中心あたりを持って右、左と溝うちのあたりに叩き込む綺麗に決まりそいつらが悶絶する。

「ちっ」奴が舌打ちをする。そしてその中の一人の腕っぷしが強いやつに目で合図を送った。そいつが丞出てきて僕の正面に立つ。僕は何の躊躇もなく振り上げる奴は咄嗟に手をあげて頭をガードする。それを見越していた僕はそいつの腹にそれを叩き込む。そいつも悶絶して倒れる。何人かがおじげついて逃げ出す。奴は僕に向かって「お前は大人しくいじめられとけばいいんだよ」と叫びながら拳を振りかざし突っ込んできた。

僕はそれを横にないで倒そうと思ったが叶わずヤツに棒を取られてしまった。意地汚く笑うヤツに対し僕は隠しておいた棒を持ち対峙する。不思議と落ち着いていた。奴が振り上げた。僕は一度腕を上げてガードしようとして気づく奴の棒を持った手が斜めになっていることを。

奴は僕の動きを見ていたらしい。タイミングを合わせてジャンプしそれと同時に振りかぶり着地と同時に肩に叩き込んだ。「次会う時はどうなるか覚えておけよ」と奴は言った。しかしそこに割り込んでくる一つの声があった。その方向をみると彼女がビデオカメラを持ちながらやってきていた。そして彼女は淡々と告げる。「もしその次があったらこの映像をばら撒くから」奴は青ざめその場から去っていった。

僕は彼女に質問をする「どうしてここに?」「また自殺しようとされたらたまらないから学校帰りからずっとつけてた。昨日の発言から見て君がいじめられてるのは明白だったし」「ずっと見てたの!?」「うん。ところで楽しそうに棒を振り回してたよね」彼女がニヤニヤしながら言う「あれは使い心地を確かめてただけだよ」と言い返すが「ポーズを決めてたのに?」「うぐ」何も返せない。「明日ばら撒いちゃおっかな」なんて言いながら走っていく。僕はそれを数秒間唖然と見つめた後に慌てて追いかけるがもう彼女の姿はなく僕は明日直談判に行くことを誓うのだった。

直談判に勝利しあの動画が消去されてはや一週間後僕らは図書館にてあっていた。デートというわけではない実はこの市の図書館でブラインドブックキャンペーンなるものがやっていたので二人で来てみた所存だ。ちなみに終日学校で過ごして分かったことがある。

まず彼女は僕と同じく本の虫らしい。そしてもう一つは彼女はモテモテなことだと言っても僕には全く関係ないことだ。彼女のファンクラブができてるっという噂を聞いたこともある。一様補足程度に入っておくが僕は入ってない、断じて彼女に恩義は感じているが別に恋愛感情はない。

「早く行こー」彼女が明るい声で僕は催促される「はいはい」と軽く返事をしながら彼女に追いつく。中に入ると袋が並んでいた。中には本が入っていて袋の上に白い紙が貼り付けてありそこにキャッチコピーが書いてあった。彼女は「これだー」と言いながら胸キュンしたいならこれっと書いてあるものを迷わず取った。僕はやれやれなんて思いながら選び始める本格ミステリーならこれなどと書いてある中に一つ目を引くものがあった。心理描写が豊富なのが好きならこれ。僕は迷わずそれを手に取った。二人して読書スペースに向かい席に並んで座る袋を開封し中の本を取り出し各々読み始める。感想から言おうめちゃくちゃ楽しかったやっぱり人の心を思い浮かべるのは楽しいななんて思いながらぼーっとしていると少し思い立って本を探しに行った。

目当ての本というか資料が見つからず戻ってくると彼女がボロボロと涙を流していた。恋愛系ならおおよそどっちか死んだんだろうななんてひとり推測していると、彼女がその本のタイトルを見せてきた最近はやった恋愛小説で実写とアニメ両方で映画化されたものだった。彼女はその本で得たであろう疑問を僕にぶつけてきた「何の人生の価値ってなんだろうね」「僕が小説を読んで考えたことだけどそれは他人に評価されて決まるんじゃないかな」「なるほど。ところで君はなんでどっか行ってたの?」「障害者の統計の資料を探してた」「何で!?」「いや少し考えてることがあって」「何を考えたらその資料が必要になるのよ」少し呆れた声で言われる「もし人間の遺伝子に遺伝子を選択する力があれば戦争の後は障害者が増えるんじゃないかと思って」「どうして?」「戦争には健康な人から持ってかれるじゃん。だから障害を持ってた方が生き残れると遺伝子が判断したなら増えると思って」ポカーンと言った顔で見られる。

慌てて補足する「僕の浅知恵からきたものだから間違ってるかもしれないけど」「訳がわからない」真顔でそして真剣言われた。彼女は時計を確認して慌てて「塾の時間だから行くね」と言ってそそくさと立ち去ってしまった。僕は本探すかななんてのんびりしたことを言いながら図書館を探索し始めるのだった。

次の日学校にて僕の中学校おそらく3人目の友達の和気さんと喋っていた。と言っても自分から作ったわけではなく命多さんに紹介されたので友達になっただけだ。

彼女曰く似たもの同士だそうだ。だが、僕はそうだとは思えない彼女は一見陰気に思えて実際話すとかなり明るい性格だからだかと言って仲が悪いわけでもなく意外と馬が会うので今日まで関係が続いている。「あんた好きな人いるの?」「!?」彼女が唐突に聞いてくる唐突のことで思考が止まる。「恋愛事情はいい酒のネタになるんだよ」「あんた未成年だろ」ととりあえず突っ込んでおく。これまで恋愛というものに触れたことなかったというよりする余裕がなかったので考えたことなかったが。恋愛について考えてみるのもいいなと思う今日この頃だった。

家に帰って僕が一人思考していた。自分が人を好きになる。その姿が想像できなかった。しかし自分が好きになれる相手としたら命多さんかわけさんしないわけだが調べたところ人を好きになると緊張したりするらしいが自分はそんなこと感じたことがないため恋してないんだろうなと思う。

次の日のんびりとしながら誰かを好きになるか〜どんなんだろうなと考えていると命多さんが登校してきた不意に襲ってくる緊張にも似た高揚感。今まで憧れに似た感情があったがこれが恋だったとは頭が混乱してくるコレガコイワケガワカラナイヨマジで思考がこんがらがり訳がわからなくなる。僕は気持ちを落ち着かせた後に思考する。この気持ちが一時的であればこの気持ちを外に出さずなかったことにする。もしもこれが本当に俗に言う恋というやつなら僕は…何をすればいいんだ?わからないけどその時は相談することにしよう。

一週間が経ち僕の気持ちは薄れることはなかった。僕は仕方なく今頼れる唯一の友達のもとに足を運ぶのだった。

「僕恋をしたかもしれない」彼女は驚くでも驚くでもなく嫌な笑みでニヤニヤしている。今この瞬間で相談する相手間違ったそう思った。「誰?やっぱり赤理?そうだよねそうだよね」この子怖い矢継ぎ早に質問され僕が困惑してると「いつから?」「気持ちに気づいたのは一週間前だけど多分前から好きだった」「告白する?」「そんなに早くに!?」「そういうものなの」「そうなのか…」困惑しながらも納得する。彼女は「学校はな〜人多いしやっぱり…だな」と一人で思考し何かを決めたようだった。「デートに行きなさい」「えっ」「だーかーらー二人で遊びに行きその後に帰りに告白しろって言ってんの」彼女の圧が急に強くなる。「分かったけどどこにいけば?」「飲み込みが早いね。そうだな〜本のイベントとかない?」「確か命多さんの好きな小説の映画が今公開されてるとか何とか」「それだーーー」一人でテンションが上がってる彼女に無理矢理予定を組まれた。何故か命多さんのアポもすぐ取れたらしい。これからどうなることやらと心配になる日だった。

約束の日僕は張り切って行くまでの道を完全に暗記して行ったのだが彼女は完璧に僕をリードしていた。「こっちだよー」と呼ばれるがしれっと彼女は路線図までもすべて把握してきていた。素直にすごいと思った。しかし楽しい時間はすぐ過ぎるもので気づいたら僕は告白ができないまま帰路を辿っていた。分かれ道に差し掛かる。ここを過ぎたらチャンスはないそれよりも彼女と一秒でも長く近くにいたかっただが彼女はどんどん僕から離れていくもう僕の頭は正常に働いていなかったただ直感的に彼女をよんだ「命多さん」彼女がびくっと体を驚いたようにこっちを振り向いた。僕はもう何にも考えてなかったただ単に自分の感情を吐露した彼女に僕の思いを知って欲しいどんなに彼女のことが好きかどんなに一緒に過ごしたいかを「命多さん僕はあなたのことが好きです。彼女になってください」彼女は驚いた顔をした後に嬉しそうに顔を綻ばせた後に言った「少し考えてもいい?」「分かった」彼女はそれ以来何も言わず帰路をたどり始めたしかしその背中は少し嬉しそうで何故か決意を感じさせた。家に帰ると和気さんからラインが来ていた。『告白できた?』僕は『できたよ』『ヘタレなのに!?』『うるさい、おやすみ』無理矢理話を切る。まだ胸が高鳴っていた。

次の日朝ラインが来ていた彼女からだ僕はワクワクしながら開いた。

しかしそこには『綺麗だね』と言った文章とあの崖の写真があった。ザワリと胸騒ぎがした。普通なら初めてあった場所で告白の返事をするのかななんて思ったはずだった。

だけど、その写真には柵が映っていなかった。普通あそこの写真を撮ったらどんなに頑張っても画角に入るだがそれがないそれが何よりも僕を掻き立てた。

僕は何も考えず何も持たず家を飛び出した。崖を駆け上がるあり得ないほど息があがる。体が酸素を求めて僕に抗議する。だけど関係ない。そこに着くんだそうして僕は走った走って走ってたどり着いたその場所には彼女がいた。

まだ夜明け前。彼女は的の明かりを受けて光っていたまるでそれは妖精のようでまた吹けばすぐに消えてしまうようなそんな儚いものに見えた。僕は彼女を呼ぶいつもつけていた敬称も忘れて「赤理ー」彼女はゆっくりとこっちを振り向いた同時に陽が上がってきて彼女の後ろから彼女を照らす。それは息を呑むほど美しかった。

「きてくれたんだね。それにいつもつけていた敬称を外して」彼女は破顔しながら言う。僕は叫ぶ何故なら彼女は柵の中ではなく外に立っていたからだ。

しかし彼女は言う「それ以上来ないで」厳しく有無を言わせない口調だった。「どうするつもりだよ。そんなところに立って」「見れば分かるでしょ死のうとしているんだよ」「なんでだよ僕を生かして生きる希望をくれた赤理が何で死のうとするんだよ」「私が死ぬのはもうこの世に居たくないから死ぬんだよ」「何で赤理が死ぬ必要があるんだよ」「違うよ必要がある訳じゃないこれは自分の為のものだから。それに死ぬなんてことは当たり前に起こることだよ私の番が来ただけ」「だけど赤理は選べるあの時僕が選べたように生きる方を選んでよ。それに…それに赤理のいない世界なんて考えられない。あなたがいなければこの世界に色がないのと同じ事だから死なないでよ。お願いだから生きてよお願い…だから…」「違うよ人に生きる意味なんてないだって生きる意味なんて所詮後付け死ねないからこそ吐く自分絵の嘘。だから私が死んでもあなたは死なない何故なら生きているから。新しい生きる理由がいくらでも作れる。だから死なないでよね後追いなんてしたら許さないらね」彼女は僕から背をむけ崖の下に広がる街を見ていた。彼女は死ねる僕は確信があった。だからこそ止めようとした走っただが彼女は落ちる寸前こっちを振り向いたその顔はとても悲しそうでそして「ごめんね」と言った。彼女が声を発したかそれすら分からない僕にはもうすでに音は聞こえてなかった。

しかし彼女の口の動きの一つひとつがまるでスローモーションのようにはっきりと分かった。そして彼女は視界から消えた重力に引かれてごくごく自然に。もう僕の手は空虚な空間を掴むだけだった柵に寄りかかり下をのぞく彼女の体はもう見えなかったもしかしたら意識的に遮断したのかもしれない彼女が落ちた場所から円形に血飛沫が飛びちり魔法陣のようになっていた。

彼女はこの世からいなくなったそれは僕の心に否応なしに刷り込まれてくる。四肢に力が入らず横向きに倒れるその衝撃で泥が舞い顔にかかる僕の目はもう何も見ていなかった。そこにあったのは急速に色を失っていく草花空の色匂いも音も全てが遠ざかっていく。なおもぼくの頭に反芻する疑問。

彼女は何で死ねんだ意味がないのに彼女が死ぬ理由なんてないのにそれに彼女は何で最後の瞬間謝った訳がわからない彼女が僕と言う存在を形作っていたのに彼女が謝る道理なんてないのに死にたいだけど彼女の言葉が僕のその気持ちを相殺する。わからない何でどうして答えの出ない問いは僕を蝕み、そして僕と言う存在は急速に薄れて行き。

「どうして」

その疑問だけが頭で反芻して僕は僕と言う存在を殺すのだった。

小学六年生の頃私は現実を知った厳しい社会の現実を。それ以来私の存在というものの意味は無くなっていた。何かも遠くの出来事の様に感じていた。だから、私は逃げ道を欲した。そして辿り着いたのは死だった。死ねば全てのものから逃れられる。そう思った。しかし、私には勇気が無かった。死ぬ勇気がどんなに追い詰められようとも私の足があの崖から進むことはなかった。

私は想像した、中学にいじめられそしていじめられて死ぬ私の姿を。だがそれは叶わなかった。死ぬ理由に大義名分がつく事は無かった。だが私の感情は最近私のものになった。それは何故か理由は単純友情を育みそして恋をしたからだ。

ある日彼女もとい赤理が喋りかけてきた。私は最初こそ無視をしたものの結局のところ彼女に心を打ち明けていた。そして彼女と知り合い少し経った頃彼女が一人の男を連れてきた。その男こそが桜野二光であり私の想い人であった。だが、彼は赤理に惚れていた。親友としては嬉しいが恋敵としては複雑なところである。ただ結局赤理のことは裏切れ無いのでいちよ支援はしておいたのだが「ヘタレだと思ってたのにな」嘆息する。彼は結局告白したらしい。正直少し辛かった。

まあそんな事はさておき教室に着いた訳だが。「いない」二人とも学校にはいなかった。二人で学校すっぽかしてデートか?このこの〜なんて思いながら、その日を過ごした。

次の日デートの話を聞こうかな〜なんて考えながら行くと。そこには楽しい光景なんかなかった。普段は騒がしいはずの教室は静まり帰っていて、幸せ絶頂のはずの二人は存在しておらず、赤理の机の上には花瓶とその中で咲いた一輪の花があった。「うそ」そんな言葉しか出なかった。一人の人が死んだというのに世界は何も変わっていなかった。まるで最初から誰も居なかったかのように。足に力が入らなくなる。涙が止めどなく溢れてきて私の視界を塞ぐ。もっと一緒に過ごしていたかったのに笑い合っていたかったのに。そう思うとさらに溢れ出てきて、ただひたすらに嗚咽する。世界の色が薄くなった様な気がして。先生が入ってくる、奴は告げた「命多さんは、自殺でした」なぜどうしてそんな疑問が頭をよぎる。そしてまた私は泣いてしまうのだった。

その後しばらくして彼が来た。彼はやつれ切っており見開かれた目はもはや何も見いて居なかった。彼に話しかけても何も帰って来なかった。世界がさらに色を失った気がした。

それから数日後葬式が行われて私はただひたすらに泣いた。やっと彼女の死を受け入れることができた。しかし彼は葬式にも来なかった。私は微かな怒りを覚えた。だけどそのやり場のない怒りは虚空に吸い込まれていくのだった。

あれから数ヶ月後彼は唐突に元気を取り戻した。理由はわから無いただ唐突に元気を取り戻した。ただ彼は変わってしまった。何故か彼は人の嫌がることを肩代わりする損ない人になっていた。その姿はまるであかりのドッペルゲンガーだった。私は一度彼に話しかけられたが無視をした。理由は単純。苛立ちと嫉妬だまるで彼女のことを忘れた様にに振る舞う彼にまるで親友を侮辱されたかの様に感じ、まるで彼女のような立ち振る舞いには彼女しか彼の心に居なかったかのようなそんな寂しさを感じる。

私はまた絶望した、いや絶望したかった。そうすれば自殺という選択肢に逃げることができるから。だけど、どんなに暗く考えても彼女とそして彼と過ごした日々が浮かんで来てしまう。

そうして私は向かうあの崖に彼女が死んだ崖に。数日前に人が死んだというのに何も変わら無いこの崖に多少ながら苛立ちを覚えつつ柵に向かう。それを乗り越え街をのぞく。家の窓から出る光が集まってまるで星のようだったがそれは私にとって嫌悪の対象だった。あの町に彼女が死んだ原因があると思うとどうしてもあれが人を捕らえるようなものに思う。

そして柵から手を離すが足が動く事は無かった。「手首は切れたのにな」袖を捲る。そこには盛り上がった傷があった。カッターで切ったのである。いわゆるリストカットというやつだ。これがあれば私は死ねるという証明になると思っていた。だけど無理だった。「自分を傷つけると死ぬっていうのはやっぱり違うか」嘆息する。

だけどそこに響く一つの声「やめなよ」私が求めていて同時に聞きたくもない声だった。彼はそのまま告げる「何で死のうとするの?」その質問に最近まで心の奥底にあった怒りや嫌悪感が湧いてきた。「私はこの世界が憎いの才能でできているこの世界が。この世の全てのできるできないは『才能』この言葉で片付けられる。運動できるのだって勉強できるのだって全てが才能それが嫌だそれがたまらなく憎い」そうだ私はこの世が全て才能で片付けられるこの世界が嫌いだった。どんなに私が頑張ってやっても才能があればあっさりとそれを超えられるそれがどうしても憎かった。これは言い訳なのかもしれないだけどこの理論に私は縋って居たんだそれを思い出した。「逆にあなたは」わざと初対面を演じる。

「僕は気持ちを整理するためにここに来てる。時々堪らなく嫌になるんだ飾っている自分が」意外なその一言に思わず「え?」っという声が出る。「僕の性格は変わったその原因はとても大切なもののはずなのにそれを忘れているそんな自分が嫌になるだからこそここに来る」彼は言った忘れていると心にそれを思い出させたいという思いが湧き出てくる。

彼女と彼の思い出そして、わずかにあるはずの私との思い出を。それならと思い私は言葉を続ける「私を止める気ですか?」答えは分かり切っていた「うん。こんな話をしたら止まってくれるんじゃないかと思って」予想通りだった。それなら私が告げるべきなのはただ一つだった「それなら教えてください生きる目的を」そう告げた。この言葉は彼が語っていた赤理からもらった言葉を少しもじったものだった。思い出させてやるもう一度心に誓うのだった。

それからしばらく経って、私たちは図書館にきていた。何故ならブラインドブックキャンペーンなるものがやっていたからである。彼は私に数億回に一回の軌跡でやっていたと言う感じで語ってきていたが、これは週一でやっているものでたいして珍しいわけではない。もっとも彼にとってはそう見えたのかもしれないが。

そうして中に入って行くと本が入った袋がたくさん並んでいた。彼はそこから手を伸ばして『恋愛ものが好きならこれ』と書いたある本を手に取った…取った!?私は今日彼にその時にした行動をしてもらうためにここにきたわけだか、彼はその本を手に取った。私は恋愛系ならなんとか読めると思っていたのだが彼の行動をしなければならないとなると読めるだろうかいや読むしかない。手を伸ばし彼が前回読んだであろう本を手に取る。

そして数時間後、グデーーー私は机の上でグデっていた。「無理」そんな言葉が出る。理解不能だった。心理描写が豊富とかわけわからないんだけどそんなのを読みたがるなんて頭狂ってるんじゃないのと思ってしまう。彼が近づいてきて「やっぱりか」「なんだよ」ジト目で睨む彼はそのまま告げる。「だって小説読めなさそうじゃん」むっとしながら「うるさい」と言う。そうしてその日の午後は過ぎて行くのだった。

あれから数週間後のある日の土曜日。私たちは電車にて揺られていた。目的地は遊園地。私は車窓からぼんやりと外の景色を眺めていた。私がしたいのは彼女と彼との思い出を再現をして彼に思い出させたいと思っているだけだろうかいや違うのだろう私が求めているのは私が彼女と同じ立ち位置になること。おんなじ立場になって彼と人生を進める事。だけどこんなことを考えても仕方ない、今日は楽しまなければ。

「ついたー」大声で叫ぶ。彼も嬉しそうに「ついたなー」と言うその無邪気な横顔に少しドキッとしてしまう。そしてついた私たちが最初に向かったのはコーヒーカップだった。彼が必死に訴えてくる。「やめろーーそれは乗り物酔いする人の天敵なんだよー」そんな彼の必死の叫びも虚しく。私は彼を引っ張って行きそして全身の力をありったけこめて中心のハンドルを回す。「ぎゃああ」彼の情けない声と私の笑い声が遊園地をこだまするのだった。

次に向かったのは空中ブランコ彼はさっきの仕返しというように私を一番外側の席にした。次は私の叫び声が遊園地をこだました。

そうして帰り道。周りは静かで夜風が肌に心地よよかった。彼との分かれ道に差し掛かる私は意を決して彼を呼び止める「少し待ってくれる?」彼は振り向く。

私は私自身の言葉で彼女の模造品ではなく私と言う一人の人間として語る。飾らずただ伝えたい思いだけこの一言に乗せて「私はあなたのことが好きです」それを聞いた彼は少し驚いた顔をした後静かに笑った。「ありがとう。少し考えさせてもらうね」そうして私たちは別れた。

家に着くベットにダーイブ&ゴロゴローと枕に顔を埋めて恥ずかしさを紛らわせる。そして気付く。私だけ二人の思い出を再生させようとしているわけではない事を彼もまた再生しているのではないかそんな考えが頭を巡る。それは同時に彼が彼女との日々を忘れていないことの証明だった。

だとしたら彼は何をしたいのだろうか彼女を忘れた様に過ごして本当に何がしたいのだろう。考えているとやがて夜が明ける。私は家を飛び出す、あの崖に向かうしかしそこには誰もいなかった。

束の間の安堵。今日は日曜日彼女が死んだのは月曜日彼は日にちを合わせようとしているのかもしれない。私は決意する。残された時間でできることを思案する。

そして私は歩き出す。始まりを求めて。

僕は赤く染まって行く空を眺めながら思考する。僕は何をしたいのだろうか。どうして彼女の事を忘れたふりをして生活した。なんで彼女と同じ行動をした何故だろうわからない。なんでなんだろうか僕はこの行動の先に何を求めていたのだろうか。何もかもがわからないただ僕は行動する。頭で考えた行動ではなく心の通りに。柵を超え眺める「やっぱり綺麗だよこの街は」誰に言うでもなく呟く。彼女にもう連絡はしてある。階段を駆け上がる音がして振り返る。「止まって」彼女は狼狽えた様子もなくこっちを見据えながら言った。僕は彼女に向かって言った「とめないで」キッパリと彼女にしっかりと、届くようにしかし彼女がしてきた返事は意外なものだった。「止めない。ただあなたに知ってもらいたいものがあるだけ」彼女はゆっくりと帆を勧めこっちに近づいてくる。「やめてくれ」思いだす。あの時の疑問をだが、それは同時に恐れでもあった。彼女は近づいてくる。そうして一つのスマホを差し出す。そして『二光へ』と書いてあるファイルを開き再生する。彼女が表示される。『しっかり映ってんのかな〜』それは彼女の声だったもう聞くことの出来ない彼女の声が姿がそこにあった。そうして彼女は語り出す。彼女と言う存在の真実を。

『私はいわゆる難病だった。余命も宣告され治しようもない』「え?」そんな言葉が口から漏れた。ならどうして言ってくれなかったんだと、その余命が尽きるまで一緒に過ごしたかったとやりようのない怒りが湧いてくる。彼女はなおも言葉を続ける。

『七歳の頃私は突然倒れた。医者がどんなに調べても通常の法則に当てはまるものは出てこなかった。だが、私の細胞には突然変異があった。細胞の残りの寿命を示すテロメアが異常に短かったのだ。最初医者は異常に細胞が老化していくのだと考えた。それなら治療はできなくとも延命処置ができた。だが一年後の検査で真実がわかった。私のテロメアの摩耗速度は常人と同じだった。だからこそ結論が出た私のテロメアは元から短かったのだと。そして、摩耗速度から計算すると私のテロメアが摩耗し切るまでにはそれから六年後つまり今年の十四歳になるまでだと告げられた。多分これを二光に伝えることはできないと思う。だから今このビデオの託している。もし私が生きていたらこのビデオ話消すから。これが見られてるってことはそう言うことなんだろうけど。

それから私はこの世界の理不尽さに喘いだ。怒り様々なものに当たり、死に恐怖した。そうして十歳の頃私は気づいた。避けようのない事実だったら。その残された期間をどうすればいいかそう考えた。

そうして私は人々の記憶に残る事を選んだ。そうして私は良い子を演じる様になった。そうすればみんなにいい印象のまま記憶に残れると思ったから。けれども中学一年生の頃言われた一言で考えが変わった。「赤理って昔からこんな性格だったよね」そいしょにこの言葉を言われたとき戸惑った。私という存在では無く、良い子という事実しか覚えられていない様な気がした。

私の人生に意味はあるのか私はそんな考えに囚われた。私と言う存在が何も意味をなしていない様な気がした。だからこそ私は探した。私の人生の意味を。だけどそんなものは見つからなかった。誰にも聞けなかった私と言う存在を見ずに虚像だけを見ている人には。

だから私は救うことにした。その人が救われれば私の人生は意味のあるものになるのではないかとそんな気がした。だから貴方を救った。あれは善意でも同情でも無かった。ただの自己満足だった。』彼女はここで一旦言葉を区切った。

『私は病気には負けたくない。

だからこの道を選んだ。本当はもっと生きて過ごしたかっただけど、今は少しこの病気に感謝している。二光と会うことはこの病気がなかったら無かったから。だからこそ私は死ぬ。喜びに満ちたこの状態で』

そこまで聞いて気づく彼女は殺してしまったのは自分じゃないかと。なら僕は生きている意味がない。生きる意味としていた彼女を間接的に殺してしまった僕には生きる資格なんてない。僕は画面から目を離しそして、日が上り照らされ始めた街を見下ろした。しかし後ろからの声が僕を引き止めた『もしも私が死んだのが自分のせいだと思ってるなら大馬鹿者だよ。

だって…』彼女が言葉を詰まらせる。『だってあなたと過ごした日々が喜びに満ちていたから幸せだったからあなたのせいで死んだなんてそんな事はない絶対に』彼女は大粒の涙をこぼしながら言った。『私は幸せだった余命もあった私の目の前には闇が広がってた。だけど貴方が私を照らしてくれた。だから、ありがとう。そして、ごめんなさい』その言葉を最後に動画が終わった。僕の中で彼女が死んだ。彼女の死が現実として降りかかってくる。彼女の真実を目の当たりにする。彼女の意思を知った。涙がこぼれ落ちる。止めどなく溢れて来る。僕は震える口から絞り出す「ありがとう赤理」


人はなぞる生き物だと僕は思う。時に人間は誰かの気持ちを意思を知りたいとき自分を殺し対象の人生を見ようとする。学習だって先人の知恵をなぞる。彼女の意思を僕は再現しようとした。だからこそあんな行動をした。今はわかる。まだあの時の悲しみは僕の心の中に巣食っている。だけど僕は前を向いて進む。彼女が限られた人生の中で生き抜いたように僕も進んでいく。


ペンネームと主人公の名前が同じですが許してください。(考えるのめんどかった)この話はmgspwのすスネークの行動を元にして書いたものです。読んでくださりありがとうございました


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ