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さがしものの名人

 あるところに、海老ノ助(クレープス)という男の人がいました。

 頭が悪く貧乏で、誰からも軽く見られているのでした。


 ある日、奥さんにすごいと思われたくて、計画を立てました。

 昼過ぎに、畑仕事に出るとみせかけて屋根裏に潜み、奥さんがパンをいくつ焼くか見たのです。

 それから夕方に、パンを食べるとき、実はおれは占いが得意で、なんでもわかるんだ、と言います。奥さんは本気にしません。そこで、パンをいくつ焼いたか当ててやろう、と先に数えていた数を言いました。

 奥さんが数えてみると、果たしてその通りでした。


 奥さんは、海老ノ助のことを、すごいと言って褒めました。

 それだけでなく、ご近所さんにも、うちの海老ノ助は占いが得意でなんでもわかる、と言いふらします。


 またある日のこと、近所のお百姓さんが海老ノ助の家にやってきて、相談を持ちかけました。


「うちの馬がどこかに行ってしまったんだ。どこに行ったか占ってくれ」


 運のいいことに、海老ノ助はこのお百姓さんの馬がどこにいるか知っていました。つい昨日村境に行ったとき、はぐれ馬がいるのを見ていたのです。


「うちの馬だ! ありがとう、海老ノ助さん、あんたは大した占い師だ」


 この時から、海老ノ助の占いのわざについて噂が広まっていきます。


 ついには殿様の耳にも入りました。

 殿様は海老ノ助を呼び出します。


「お前はさがしものの名人らしいな。実は私の館から財宝がなくなった。どこにあるか当ててみせよ。当てれば褒美をくれてやる。ただし外れたなら、お前はいんちきの占い師ということだから、牢屋にぶち込んでやる」


 もちろん断ります。

 海老ノ助には占いのわざなどないのです。

 殿様の財宝のありかなど、わかるわけがありません。

 しかし殿様が、「そこらの農民の言うことが聞けて、私の頼みは聞けないと言うのか」と怒るので、引き受けざるを得ませんでした。


 何とかして一日の猶予をもらった海老ノ助は、その夜、眠ることもできず、自分の身の破滅のことばかり考えていました。余計なことを言って災いを招いた、自分の舌を戒めるように、言います。


「ベロよ、お前は何ということをしてくれたんだ。欲望のため悪事を働いたお前に、今に裁きがくだるんだ」


 ところで、殿様の館から財宝を盗んだ下働きが、海老ノ助の家の前で聞き耳を立てていました。殿様が凄腕の占い師に頼んだと聞いて、恐ろしくなり、占い師の動向を探ろうとしたのです。

 その下働きは、名前をベロと言いました。


 下働きのベロは、この言葉を聞いて驚きます。

 この占い師は、自分が盗みを働いたことも、今家の前にいることも、全部わかっているんだ、と思いました。

 そこで家の中に入り、頭を下げて頼みます。


「あなたに悪事を見破られたベロとは私のことです。どうか私のことは内密にしてください。財宝の一部は差し上げます」


 海老ノ助の方は、びっくりしながら、思わぬ機会がきて喜びました。


「私には全てわかっている。お前を拒絶しはしない。それでは財宝のありかまで案内してもらおう」


 そうして財宝のありかを知り、一部を受け取ってから、翌日殿様にその場所を教えます。


「お前の占いの腕は本物のようだな。それでは褒美を取らそう」


 殿様は満足して言いました。しかしその殿様に、大臣が近づいて何やら耳打ちします。それを聞いて殿様はまた海老ノ助に告げました。


「今日はめでたい日なので宴だ。うちでご馳走を食べて行くがいい」


 海老ノ助は嫌な予感がします。それでも断るわけにはいきませんでした。


 そして宴の席で、海老ノ助が周りのやり方を真似しながら食べ物を食べていると、覆いのついた大皿が運ばれてきます。


「実はうちの大臣の中には心無いことを言うものがあってな。そやつはお前が悪者と協力しているのではないかと疑っている。つまり、悪者が盗んで、お前が場所を当てるという計画を立てているのだとな」


 海老ノ助は内心大慌てで、表情に出さないようにするのに必死でした。この場合に限っては、悪者と通じているというのは全くの事実なのです。


「無論、そんなことはあるまい。お前の占いの腕が本物であることを、今皆の前で示してほしい。この皿の上には何が載っているか、当ててみよ」


 海老ノ助は、もうおしまいだ、と絶望しました。


「ああ、かわいそうな海老ノ助、こんな晴れやかな宴で、お前は身の破滅を晒すことになるんだ」


 思わずそのように独り言を言います。

 それを聞いて、給仕人が覆いをとります。

 皿の上には、立派な海老が載っているのでした。


「見事だ、占い師。皿の上に海老が載っていることを当ててみせたな」


 殿様が喜んで、海老ノ助を讃えます。


「試してすまなかったな。褒美をやろう。望みのものを言うがいい」


 海老ノ助は答えました。


「さがしものはもうこりごりですよ」


 それから金銀の褒美を貰い受け、海老ノ助はみんなに尊敬されて暮らしましたとさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 なんだか、子どもの頃に読んだ童話を思い出しました。 たしかに彼はお調子者かもしれませんが、強運の持ち主でもありますよね。どこか憎めないところが、楽しかったです。
[一言] うまい具合に物事が転がりましたね。落語のような面白さ。声色を変えながら読み聞かせしたら、子どもたちも大喜びしそうです。 それにしても、ちょっとした出来心がこんなに大事になってしまうなんて。…
[一言] 何度もピンチをくぐり抜けた強運が凄いです。 けれど、一生分の運を使い果たしてしまったのではないかという疑惑も少々。 奥さんのためにも、海老ノ助が本当に心を入れ替え、分相応に暮らしてくれること…
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