Bローダーと機動隊員
Bローダー内部は一階と二階に別れており二階はフィッティングルーム、一階は総合作戦室になっている。
総合作戦室には個人用のデスクがBローダーの右側面に3席、左側面に3席と運転席を背にして進行方向とは逆に向けられた隊長、副隊長のデスクが2席、側面の座席には各々仕切りがあり、オペレート用の伝令、通信専用設備、メカニック用の作業机……など個人個人の持ち場にそった設備になっている。
中央の空いた空間には床にブリーフィング用の3Dホログラムウィンドウが仕込まれている。
隊長の沢城、副隊長の新田を覗くと5名が其々の座席に座っており。
隊長が挨拶を終えると同時に隊員達の目線が櫻子に向けられた。
私設防衛組織の選ばれしエリート達をまえに櫻子は気圧されぬよう毅然に優雅に余裕をもって挨拶をする。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。わたくし、本日付で配属となった西園寺櫻子と申します、皆様これからどうぞよろしくお願いいたします。」
と櫻子の挨拶を受け真っ先に反応したのは白衣をまとってコーヒーカップを手にした30代くらいの男性だった。
伸びた栗色の髪の毛を雑にポニーテールでまとめていて、肌も白く細身で中性的な見た目だが声は艶のある男の声そのものだ。
「君が史上初の女子高生機動隊員かぁ。僕は公安課でもましてや特殊機動隊部隊でも無いんだけど、デバイスの調整からスーツのメンテナンスまで各種請け負ってます、技術開発部のオーノ・スメラギです。気軽にスメラギさんって呼んでくれて構わないよ。あはははは。」
「はぁ……こちらこそ宜しくお願い致します」
コーヒーカップを片手に、緊張感なくひょうひょうと語るスメラギに肩の力が抜けそうになる櫻子はハッと我に帰る。
「はい、次は私ですね、オペレーターの牧真希です。誘導、伝令、通信、機動スーツ着用時のバイタルチェックまで、オペレートするのが私の仕事です。歳は西園寺さんの2つ上です、趣味は舞台観劇、以上、宜しくお願いしますね!」
ヘッドセットマイクを外し確りとした口調と発声で挨拶をした牧もまた満面の笑みを櫻子へ送る。
鎖骨あたりまである髪の毛を揺らしながら顔をニコッと傾げる仕草はとても可愛らしい。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
牧の笑顔に思わず櫻子の顔も緩む。
すると「あ、今緩い職場だなぁーって思っただろ?」と、機動隊員用のジャケットを着用している20代とおぼしき青年の明るい声が車内に響く。
青年は悪戯にニカッと笑っていて一見、不真面目な様にも見えるが、彼の身体はジャケットの上からでも分かる程鍛え抜かれ、筋肉や姿勢のよさが彼の日頃の鍛練を語っている。
「え!?いえ、そんなことは」
図星をつかれ胸の前で手を振り慌てて否定する櫻子。
「いいって、俺も始めは特殊機動部隊と言えばほら100年くらい前まであった自衛隊とか警察みたいなお堅いイメージがあったもんなぁ」
と笑いながら語る青年に隣の席に座っていた20代くらいの若い女性が腕を組んでやれやれといった様子で青年を御する。
「自衛隊や警察って……いったいいつの時代の話をしてるんですか。」
「ふーん。お堅い方がいいなら善処しますけど?」
と女性に続き沢城も青年に突っ込みを入れた。
「いやいや、冗談っすよ冗談!!あー、西園寺さん!今の下り全部忘れて!!機動隊の芳賀ライハね、宜しく、んでこの隣から割り込んできたのが……」
「結構です、自分で言いますから。私も隣のライハと同じ機動隊の八神凛です。始めは少しきついかも知れないけど、同じ女の子同士仲良くしましょうね。」
八神は落ち着いた口調で、櫻子に微笑む。
綺麗に結われた黒髪のポニーテール、美人な部類に入る整った顔立ちはクールな雰囲気を醸し出す。
「こちらこそよろしくお願いします、よかった。機動隊員のイメージ通りの人もいるのね……」
「ん?」
「いえ、なんでも。」
と、櫻子は安堵する。
「じゃあ最後は俺っすね!名前は錦戸丈二よろしく!いやーそれにしても見たまんま育ちの良さそうなお嬢様で……」
パンっ!!
と錦戸の話が終わるのを待たず城隊長が手を鳴らす。
「はい、じゃあ自己紹介も終わったことだし、ブリーフィングを開始しますね。」
「え!?まだ俺途中なんですけど!?」
と肩をガクンと下げる錦戸を余所にブリーフィングが開始された。