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セーラー服の捜査官、白鳥大河


雨の街中をセーラー服のスカートを翻し、傘もささずに黒鞄で頭を守りながら駆け抜ける白鳥大河(しらとりたいが)

肩まで伸びた髪をハーフアップにしてバレッタで止めている。白い肌や華奢な肩、細い腰は可憐と言う言葉が似合う。


大河が向かう先にはバリケードが敷かれ大勢の野次馬が群がっている。

辺りには雨音と野次馬の声をかき消す程の音量で


「現在このエリアは安全の為に立ち入りが禁止されました。近隣住民の皆さんは誘導に従い速やかに退去してください。繰り返しお伝え致します。こちらは治安維持課警備係ですーーー」


という緊急警報が鳴り響いている。


大河はバリケードの前に群がる野次馬に突っ込むと「すみません、通ります!すみません!」と人の群を掻き分けていく。

細い身体に精一杯力を入れ、人混みに揉まれながらやっとの思いで野次馬を掻い潜りバリケードの前まで辿り着いた大河は息も絶え絶えに「お願いします!」と一言声を上げ、バリケードを堅守している警備員にパスをかざした。


宙に3Dホログラムによるウィンドウが表示され大河の情報が警備員に開示される。


ーー私設防衛組織ブレイド、公安課、特殊捜査室、【特例】捜査官、白鳥大河、17歳、桜峰女子高等学校在学ーーー


警備員は大河のパスを確認し中へと通す。


「おつかれさまです。パスを確認しました、対策本部までご案内しましょうか?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


と警備員の建言を大河は愛想良く一礼して断り対策本部を目指し走り出す。


現場から少し離れた処に建てられ【緊急対策本部】と書かれた簡易テント。

テントの中は作業着の職員やスーツの男達が狭いスペースの中で机や椅子、精密企画や資料など設置しながら雨に濡れまいとへし合い慌ただしく作業している。


対策本部へ辿り着いた大河は濡れた制服を気にする素振りも見せず


「白鳥大河、ただいま着任いたしました。公安課特殊捜査室の鮫島さんはいらっしゃいますでしょうか」


と辿り着いたテントの中の職員達に向かい声を上げた。


目の前で左手の腕時計を覗き込んでいた20代後半位の男が大河の声に反応し、ゆっくりと顔を上げ振り返る。

カッチリとしたスーツと眼鏡も相まって知的な雰囲気を漂わせる男は大河の服装をまじまじと見つめる。


「まあ、社会的な身分を証明するには手っ取り早く効率的か。しかし本当に学生が配属されるとは……話は聞いている、俺が鮫島だ。」


鮫島は表情は変えずに淡々と言葉を発する。


大河は息を切らしつつも背筋を伸ばし敬礼し


「本日付で公安課特殊捜査室に配属になりました、白鳥大河です。宜しくお願いします」


と細く綺麗な声をはる。


「すまないが、捜査班は今日、俺と君の二人だけだ。研修無しで早速実践だが、なに心配することも緊張することもない、君が今日実行すべきことは1つだけだ、足を引っ張るな、役に立て。」


話ながら鮫島は腕時計に仕込まれた3Dホログラムインターフェースを起動させ事件概要が記されたウィンドウを大河の前に表示させた。


「汚染地区についての知識はあるな?」


「はい、麻薬物と同じ症状とそれ以上の依存性をもつウィルスが蔓延している侵入禁止区画です。」


「よろしい。今回は対象の捕獲作戦になる、対象は大和田きなり、18歳。汚染地区に侵入しようとした所を警備員が発見し、警告するも無視し侵入。警備員が汚染ラインギリギリまで追いかけるが振り切られラインを越える、その後衛星のサテライトスキャンで大和田を発見しウィルス感染を確認、俺と捜査班で連携し追い詰めこの区画に閉じ込めた。自意識があるかは不明。」


「何で自ら汚染地区に……」


「大和田は恐らく裏ルートで出回っている汚染地区のウィルスで作られた薬物に手を出していたのだろう。汚染地区のウィルスは麻薬と同等の症状が出る上に中毒性が桁外れに高い。しかし先日その薬物を密売していた組織を刑事課が検挙したものだから薬の入手経路が無くなり……」


「そんな、じゃあこの人は」


「中毒衝動に耐えかね、自らウィルスの巣窟へと足を踏み入れた。」


「そんな事って」


鮫島がウィンドウを閉じる。


「しかし今回、一番危惧しているのは……」


そこまで口にした鮫島の眉間にシワができる。


「10歳の弟を拉致して逃亡している可能性があると言うことだ。」


「10歳ってまだ子供じゃないですか!」


「逃亡中、一度家に戻った痕跡があり。何処にも弟の姿が無かったと報告が入っている。勿論、近隣や公共私設も捜索中だがまだ子供は見つかってはいない。」


大河の顔が陰る。


「もう一度言う、お前が今回遂行する任務はただひとつ足を引っ張るな、役に立て、それだけだ。それ以外は考えなくていい。」


鮫島が近くの段ボール箱から何かを取りだし大河に投げ渡す。


「っとと」


突然投げ渡されたそれを受け止めた大河が目を落とすと【公安課特殊捜査室】と書かれたジャケットと【デバイス】だった。


「流石にそのセーラー服のままじゃな。」


大河が制服の上からジャケットに袖を通す。


「白鳥捜査官、デバイスの扱いは?」


「実践では始めてですが、一通りは」


「得意な間合いは?」


「近距離です」


「5分後に潜入する。セーフティーを解除しておけ」


「はい」


大河の返事と同時に、現場近くの道路から大型車のエンジンとサイレンの音が近づいてくる。

車のライトが大河の視界に入るとそれは【B-ROADER】と大きく書かれた大型の車だった。


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