Fifth Phrase 『天使と悪魔』
カルミアがデルタポリスの一員となったのは、今から三十年ほど前のことだ。同じ開拓団で置いて行かれたのは、生まれたばかりの子供から、労働力にならない老人まで、計三十人あまり。デルタポリスに保護されるまでに、低酸素と脱水でほとんどが死んだ。壁外活動制服がなければ、この星の気候は人間には厳しすぎる。
デルタポリスに迎えられたのは、カルミアと、体力のあった数人の大人だった。うち一人は、ケモノの噂を聞いて恐れており、デルタポリスに招かれてすぐに逃げ出した。遺産の話を聞いてまた一人去り、二人去り、やがてカルミアだけが残っていた。
『死による安寧を知っていたんだろう』
ヴォラルが言った言葉を、いまだにカルミアは理解できていない。
死は終わりだ。人間に与えられた、唯一絶対の理だ。そこに、安寧などあるはずもないのに。生きていれば先がある。だが、死んでしまえば終わりだ。仲間の屍を思い出して涙することだって、生きているからこそできるのに。
『だから私は許さない』
『……そう。痛いのも大事なんだね。分かった、君のは食べないよ』
デルタポリスのケモノ達は、カルミアを否定はしなかった。皆が少なからず抱いていた思いだ。自分はそれを代表して吐き出しているのだと、カルミアは自負していた。
「私は開拓団という存在を許さない」
カルミアが操る遺産は、『天使と悪魔』という。守護と破壊、苛烈な二つの特性を持つ遺産だ。
自分達を捨てた開拓団という存在に粛清を。
見捨てられて死を選んだ人々に、はなむけを。
「我らケモノの糧となるこのシェルターに、祝福を!」
カルミアの宣言と同時に、現れた一対の手は、カルミアの倍ほどにまで膨れ上がった。
内門は、エモニが破壊したそのままになっていた。エモニとカルミアが壁外活動制服を脱いだ数分後には、警報がけたたましく鳴り始める。だが、そのころにはすでに、エモニもカルミアも内門を抜けていた。
「拍子抜けね。あの程度でビビっちゃうなんて」
「あそこは戦う人達はいないから。……それより、探していた人がいないんだ。悪いけどカルミア、リーダーはたぶん上のほうだから、勝手に行ってくれる?」
「ええもちろん」
カルミアは、雑多に積み上げられたキューブの上へと視線を向ける。キューブの形状もシェルターを覆うドームも、あまりにも見覚えがあった。
「さ、行きましょう」
自分の遺産に呼び掛けて、カルミアはキューブの上端に機械の手をかけた。
昼過ぎ、ヴォラルが二人の人間を抱えてデルタポリスに戻ってきた。
ヴェナが二人を引き受け、塔の一階へと運んでいく。数人の大人が、バケツを抱えてそのあとを追った。遊んでいた子供達も、遠巻きにそれを見ている。
「エレーナ、こっちに」
ヴォラルに呼ばれ、エレーナは頷いて塔へと向かった。
運ばれてきた二人は、広げられた布の上で呻いていた。目立った怪我こそしていないが、一人は片目の周りに派手な痣があった。
「知った顔か?」
「……えっと」
片方は、エレーナも見覚えがあった。シェルターから出た夜、夕食を食べた店で会った男だ。男はエレーナを見つけると、驚いたように目を見開いた。
「ホントに嬢ちゃんいたよ……」
そう言ったきり、男は目を閉じて眉間にしわを寄せる。乾いた唇に、ヴェナが濡れた布を当てた。
「普通の人間は、防護服がないと苦しいはずだ。嵐のこちら側は酸素が濃いが、向こう側は少々生き辛い。カルミアが剥ぎ取ったのだろうな」
「どうしてカルミアが……あっ」
エレーナが声を上げ、ヴォラルは頷いた。
「ああ、宇宙船を奪いに行ったんだろう。次にいつ開拓団が来るかも分からないからな」
「今朝からエモニがいないけど、もしかして……」
ヴォラルが視線を背けるが、エレーナがその手首をつかんだ。
「シェルターに? 何のために?」
「君のためだそうだ」
エレーナはきゅっと唇を閉じる。
「私、何にもお願いしてないわ」
「されようがされまいが、君のためになると思ったら動くのがあいつだ」
「……そう」
ヴォラルの手を放し、エレーナは俯いた。
「……嫌か?」
「別に……私が何て言っても、エモニはどうせ変わらないでしょう」
エレーナは、置かれているバケツに手を突っ込んだ。冷たい水の中から布を引き上げると、慣れない手つきでそれを絞る。男は薄目を開いてそれを見ていた。ヴォラルは唇の間から息を吐く。
ヴォラルがエレベーターで上層へ行くと、男は咳ばらいをした。
「なあ……嬢ちゃんは俺達を恨んでないのか?」
男の言葉に、エレーナは顔を歪めた。背後で、ヴェナが動きを止めるのが分かる。握ったままの布から雫が落ちて、塔の内側で反響した。
「……分からないの」
数秒の沈黙ののち、エレーナはそうつぶやいた。絞った布を男の顔に乗せて、エレーナは細く息を吐く。
「悲しいとか、そういう気持ちは、ちょっとあると思う。でも、恨むとか、怒るとか、そういうのは分からない」
「……そっか」
目元に乗せられた布をどけて、男は目を細める。
「ごめんな」
「……どうして謝るの?」
「……ン、いや、どうしてだろうな? でも……うん、謝らなきゃダメなんだよ、多分」
男は額に手を当てて、長い息を吐いた。エレーナは、分かったような、分からないような顔で頷く。エレーナが置いた布から、雫が男の顔を伝った。
「嬢ちゃん、年は?」
「十二」
「……まだ、お友達と遊んで笑ってる時期じゃねえか……」
男の言葉に、エレーナは唇を曲げて立ち上がる。
「取ってつけた同情ならいらないわ。開拓に出るならお友達ともさよならだって、お父様に……」
父、と口にしたとたん、エレーナは言葉に詰まった。
「……嬢ちゃん?」
地球での両親との暮らしが、鮮やかにエレーナの脳裏に蘇る。今の今まで、思い出しもしなかったのが嘘のように。
日常のささやかなことで笑っていた。学校での話を聞いてもらうのが日課だった。宇宙の話をたくさん聞いた。開拓団を率いる勉強を手伝った。たまの休みに旅行に行った。
温かいベッドで寝起きをして、量は少ないが栄養のある食事をして。そんな当たり前が、いつまでも続くと信じて疑っていなかった。
「……嬢ちゃん!」「エレーナちゃん!」
過去の記憶。そう言ってしまえばそれまでだ。だが、すでに両親がいないことをエレーナは理解している。両親が死んでゆく様を、まざまざと見せつけられたのだから。
「……ありがとう」
膝をついたエレーナは、自分を支えている男にそう告げた。男は驚いて息を飲む。
「思い、出した……痛いときの、泣き方」
頬を伝って落ちるのは、熱い、熱い雫。デルタポリスに来た時のものとは違う。言葉にならない叫びの代わりに絞り出された、心の欠片だ。
流れる涙を止める者はいない。痛みを丸ごと食べてしまうエモニもいない。
「……痛い……」
エレーナは呻いて、その場にうずくまる。冷たい床に、額が当たった。
呻きはすぐに嗚咽になる。ヴェナに背中を撫でられて、その温かさが後押しになる。心臓をぎゅっと締め付けられているような痛みが、止めようのない涙を押し出してくる。
母も父も、もういないことは知っている。理解している。エレーナ自身が、その遺体を棄てる手助けをさせられたのだから。だが、泣いて悲しむことなど、もうできないと思っていた。二度と会えなくなることは、悲しいことだと、理解する暇もなかったのだから。
数か月前までは――――そう蘇った記憶は、あまりに優しくて。
そのどれも、この先二度とありえないことなのだと分かってしまうことが、あまりに恐ろしくて。
「ひっ……う、あぁあああああああああぁああああああぁあああああぁああああ――――!」
喉の奥からこみ上げた声は、叫びになった。
「あたしの記憶にある限り、開拓団ってクズの掃き溜めなのよね」
足を組んで頬杖をつき、カルミアは指先で頬を叩いた。座っているのは大きな黒い手で、白い手は一人の男を吊り上げている。
「地球に居場所がない奴らばっかり。だから棄てられるのもあるかもしれないけれど。それはそれとして、人として越えちゃいけない一線ってあるじゃない?」
男は、だらりと両腕をたれ下げていた。つま先から滴った血が、キューブの屋根に落ちる。
「だから、殺しは最低限にしたかったんだけど……あなたが悪いのよ? 抵抗するから。教えてくれない? リーダーの居場所」
男の半開きの口は、言葉を紡がずに息を吐いた。ぱっと白い手が開かれて、男の体は落下する。血で滑るキューブの屋根から、下の段、さらに下へと、階段を転がり落ちるように、その体はカルミアから遠ざかっていった。
「上のほうって、ただの空き家じゃない。エモニはうまくやったのかしら……まあいいか。蹂躙するだけもつまらないし、ゆっくりやりましょ」
カルミアは、沈む夕日へと視線を向けた。武器を構える兵達を嘲笑うように、その銃弾の届かない距離にカルミアは浮いている。くすねた無線で、相手の動きは面白いほどに筒抜けだった。
「……ふぅーん。そこにいるのね、リーダー」
カルミアの目が、宇宙船へと向いた。
鳴り響く警報に、ログは苛立たし気に窓の外を睨んだ。
「侵入者はまだ捕まらないのか」
「はい……あの、どうやらケモノのようでして……すでに三名ほどやられています」
「……ふぅん。あの娘のお仲間か? 健気なものだな」
報告に来た兵を下がらせ、ログは机に座る。リーダーの机の裏側には、門番の男が転がされていた。床には、赤い血が滴っている。半開きの口からは、わずかに息が漏れていた。両手は背中側で縛られている。
「……死んだか? 兄さん」
「……誰が死んでやるかばぁか……」
「そうでなくっちゃな。いたぶりがいがない」
ログは鼻で笑い、机の上の通信機を取った。
「全兵士に通達だ。侵入者は捕え次第、船のリーダー室に。死んでさえいなければいい」
まばらに返事が返ってくる。ログは壁際のロッカーを開いた。そこには、大型の野生動物も仕留められるような大きさの銃がある。常に未知との遭遇の連続である開拓団にしてみれば、シェルターに飛び込んでくる相手も、当然想定すべき敵だ。迎え撃つ準備に不足はない。
『……ふぅーん。そこにいるのね、リーダー』
通信機から、女の声が聞こえてきた。ログは身震いをして振り返る。
「女か……女か!」
にい、とログの口元が笑う。手に持った散弾銃に弾を込め、ログは窓へと近付いた。じきに夜が来る。地の利のない侵入者には不利だろう。
「ああ来るがいいさケモノちゃん。返り討ちにして、リーダーの格ってのを見せてやるよ」
ライオンすら一撃で仕留められる銃を構えて、ログは唇をなめた。
カルミアに向かって飛んだ銃弾は、全て黒い手にはじかれる。白い手が行く手を阻む兵士をなぎ倒して、カルミアは悠然と廊下を歩いていた。
「やあお嬢さん」
ログは、挨拶と同時に銃口をカルミアに向けた。
「……本当にお嬢さんじゃないか……なあ、ケモノちゃん。はるばるここまで何をしに?」
銃口をカルミアに向けたまま、ログは余裕の笑みを見せる。カルミアは、白い手でつかんでいた椅子をぱっと離した。へし折られてバラバラになった椅子に、ログの頬を汗が伝う。
「あんた、リーダー?」
「質問してるのは俺だぜお嬢さん。まずは名前を聞こうじゃないか」
「人に銃口向けて、よくもまあ偉そうに」
カルミアは鼻で笑う。だが、ログはにっこりと笑って見せた。
「そりゃあしかたないさ。うん。それは仕方ない。血で汚れたお嬢さんの手を見たら、どんなに屈強な男だってがくがく震えてしまうとも」
「あんたは震えてないわね」
「この銃は象も殺せるからな。象って知ってるか? 地球ではもう動物園でしか見られないけど」
「知ってるわ。サーカスにいるのよね」
カルミアは二つの手を従えて、つかつかとログに近付いていく。ログは、退きそうになった右足をその場に押しとどめた。
狭い廊下で、直線で、距離は目測で二十歩と言ったところか。引き金を引けば確実に当たる距離だ。少女が近付いて来ればそれだけ、有利になるのは自分である。怪力も、届かなければ何の意味もないのだから。
「さあ、お嬢さんの名前を教えてくれるか。ケモノだと言うけれど、見たところ君は普通の人間の女の子だ。お行儀よく椅子に座って、紅茶を飲む教養があるのなら、お話でもしようじゃないか」
ログがつらつらと言う間、カルミアは露骨に欠伸をしてみせた。
「状況が分かっていないようね。殺しは最低限にしたいんだけど。これでももともと人間だし」
「分かっていないのは君さ。この弾丸は君の手が防ぐより先に、君の内臓をずたずたにしてしまうんだぜ」
ログは引き金に指をかけた。
「……エモニのレーザー銃と何が違うの?」
「エモニ……? ああ、それが誰かは知らないけれど、うん、旧い火薬式の銃はな、速いんだよ。照準が不確かだろうが対象との距離が遠かろうが関係ない。トリガーを引いたら御終いだ」
「そう」
カルミアは息を一つ吐き、右手を挙げた。すっ、と白い右手が下がり、見る間に小さくなる。
「天使にはお休みいただくことにするわ。誘いに乗ってあげましょう」
自分の掌と同じ大きさになった白い手を、カルミアは腰のベルトに吊るした。黒い手は変わらず、じっとカルミアの背後に控えている。その手が汚れていないことを確認して、ログは銃口を降ろした。安全装置をかけた銃を担いで、ログはカルミアに笑いかける。
「いい子だ」
ついてこい、と目で言って、ログは踵を返した。十歩程度の距離を保ったまま、カルミアはログに続いた。
宇宙船の廊下は、直線の先で緩やかに曲がっており、一定の間隔で鉄戸がついていた。前方がコックピットを含む機構部で、後ろが居住区、万が一の際は切り離しができると、ログが自慢げに語る。機構部にはコールドスリープ装置が備えられており、有事の際は最低限の人員を残し、居住区の住人は『保存』するらしい。
「こんな辺境のお嬢さんには、想像つかねえかな?」
「……そうね」
カルミアは目を細め、振り返ったログを睨む。ログは「怖い怖い」と茶化して笑った。
「さあここだ。リーダーの部屋に入れるなんて栄誉なんだからな?」
ログは扉を開き、カルミアを招き入れる。カルミアはすっと視線を回すと、口元に手を当てた。
デスクと本棚、クローゼットが一つ。床にはラグが敷かれている。家具は床に溶接され、本棚には閂がかけられていた。窓は、シェルターを見下ろせる位置に一つ、天井付近に一つ、廊下側のドアと壁に一つずつあった。当然だが、全てはめ殺しの丸窓である。
「さあどうぞ」
ログは壁に固定されていた椅子を取り、部屋の中央に置く。カルミアは腕を組んで鼻を鳴らした。
「組み立て式の椅子に、テーブルはなし。何がお行儀よく、よ。尋問じゃない」
「お茶くらい淹れるさ」
壁際のティーサーバーで紅茶を淹れ、ログはマグカップをカルミアに差し出した。琥珀色の茶が、白いマグの中で揺れている。
「ミルクは?」
「いらないわ」
カルミアは、椅子に乱暴に腰掛けた。差し出されたマグを受け取って、その中身を覗き込む。
「毒を警戒しているのか? 同じものから淹れたのを、今から俺が飲むのに」
カルミアの向かいでデスクに浅く座り、ログはカップを傾けた。
「いい香りだろう?」
「そうね。血の匂いをごまかすにはもってこいね」
カルミアの言葉に、ログの手が止まる。カルミアはマグを足元に置いた。
「エレーナの様子から大体わかっていたけど。あなた本当にクズのようね」
「……あのお嬢さんは俺を恨んでいるだろうからね。あることないこと言うだろう」
だが、とログは肩をすくめてみせた。
「あのお嬢さんも犯罪者の娘だからな。こっちに居場所がなくなって、泣きついたんだろ? そりゃあ居場所を作るのに必死さ。悪評くらい仕方ない」
「……ふうーん。どんなことをしたかお聞かせ願える?」
カルミアは足を組み、頬杖をついて前のめりになった。ログはカップを一気に傾ける。
「興味あるか、お嬢ちゃん」
カルミアが頷かないうちに、ログは胸に手を当てて語り始めた。芝居がかった動作とやたら大きな声は、目の前にいるログを、画面の向こうの人間のように感じさせる。
「悪辣なるリーダーは優し気な笑顔で一同をだまし、この先に楽園を作るのだと夢を見させたんだ」
ごん、ごん、とデスクを蹴る音がする。ログはデスクに腰掛け直し、踵でデスクの前面を叩いた。
「だが、悪辣なるリーダーの計画にはいくつもの穴があった。ひとつは腹心に裏切り者がいたこと。もうひとつは、この俺が、サブリーダーになったことだった」
カルミアは、指先で唇を叩く。ログは、自分がリーダーの企みを看破したこと、その後仲間を集め、リーダーを粛清したことを得意げに語った。
「リーダーがいなくなった後の混乱はひどいものだった。しかし、何とかこのシェルターを作り上げ、俺がリーダーとなった。唯一の心残りは、両親を失ったあのお嬢さんが逃げ出したことだ」
ぴくっ、とカルミアの眉が動く。
「あの子は知らなければならない。自分の両親が犯した罪を。自分が果たすべき責任を」
カルミアは、唇の間から息を吐く。その背後で、黒い手が退屈そうにゆっくり回転していた。
ログの話に区切りがついたと見るや、カルミアは乱暴に立ち上がった。時間にすれば十分もない演説だっただろう。だが、カルミアにとっては退屈極まる拷問に等しかった。
「つまり、エレーナを返せと言いたいのね」
「……それもある。だがお嬢ちゃん。よかったら、君も開拓団に入らないか? 紆余曲折はあれどこうしてようやく安定し始めたのだから、開拓を成功させたいんだ」
ログは優し気な笑みを浮かべた。
「君のその力は、開拓で役に立つ。我々は決して、ケモノと争いたいわけじゃない」
二杯目の紅茶を注いで、ログはカルミアに近付いた。三歩と離れていない距離まで近付くと、カルミアはログを見上げる形になる。ログはことさら丁寧に、言い聞かせるように言葉を続けた。
「なあ? このままじゃあ俺達はケモノと衝突するしかない。尊い犠牲は少なくしたいじゃないか」
顔こそ笑っているが、それは脅しだった。長々と語って聞かせた武勇伝は、自分が人を殺せる人間だという圧力。勧誘は、頷かなければここで殺すという意味に直結した。
「……そぉねえ。それも、いいかもしれないって、みんなは言うかもね」
カルミアは視線を落とす。ログは勝利の笑みに顔を歪めた。が――――
「でもあたしは『天使と悪魔』だから」
ログが口を開く前に、黒い手がログの首をつかむ。カルミアはログから離れると、小首をかしげて笑って見せた。
「あたしに命令できると思ってんじゃないわよ、クズ野郎ごときが」
指の音が鳴り、白い手がログに襲い掛かった。