57 目と目を合わせて
すっかり馴染み深くなった神社は、もう寂れていたころの面影はなく、毎日数名は必ず参拝客が訪れるそこそこの神社となっていた。
その隅で、子供たちに話を聞かせる若者がいた。
「こうして、人間たちは自分の愚かさに気づき、偉大なる神を祀り直しました。」
それは、集団幻覚ということで片づけられた事件の話だ。
「この神社も昔はボロボロで見れた物じゃなかったんだぞ。」
「えー信じられない。こんなに立派なのに?」
「そうだよ。それに、その事件は、悪い夢を見ただけって聞いたよ!」
騒ぐ子供たちをなだめて、若者は声を潜めて言った。
「なら、とっておきの話をしよう。みんな、この話は絶対秘密だからな?」
「また作り話でしょ?」
そうは言いながらも、子供たちは興味津々に聞き耳を立てていた。
「みんなは、この神社に祀られている神様の姿はわかるか?」
「知ってるー!あの絵の人でしょ!」
「白い髪!おじーさんみたいに白い髪の人!」
「変な服着た人!」
「赤い目をして、怖い顔をした人!」
「でも、ちょっとかっこいいよね・・・」
「えぇー!?怖いよ!」
「みんなよく知っているな。」
「だって、兄ちゃんが前見せてくれたじゃないか。」
「覚えていてくれたんだな、ありがとう。」
「それで、その神様がどうしたの?」
「実は・・・俺はその神様を見たことがあるんだ。」
「あー、それも知ってる。夢の話でしょ?」
「違うよ。その後の話・・・あぁ、みんなが知っている神様の姿はそれ以前から知っているよ。最初は知らなくて、じじぃって呼んでた。髪が白かったしさ。」
「うんうん、わかる!お爺さんだよね!」
「それで、このじじぃなんだけど、本当は神様じゃないんだ。」
「え?」
「嘘だよー!なら神社に絵が飾られているなんて、おかしいじゃないか!」
「それは、みんなこのことを知らないからだ。他の大人たちはね。知っているのは、今ここにいる話を聞いた君たちだけだよ。」
「うそー!?」
「嘘じゃない。本当の神様・・・アノカミは、青い髪に赤い瞳をしていて、髪も肩にちょっとかかるぐらいの長さなんだ。」
「赤い目しか合っていないー」
「嘘つきの絵だ!」
「それで神様はいいの?」
「いいんだよ。だって、神様の求める信仰は、大人たちの濁ったものじゃない。」
「にごった?」
「神様はね、よい子のお願いを叶えるのが好きなんだ。だから、みんないい子にして、神様に敬意を払うんだよ。そして、願いが叶ったら、お礼を言うんだ。」
「お礼を言うの?」
「あぁ。みんな、俺と別れるとき、いつも言ってくれるだろう?それと同じだよ。」
「そうだね。うん。」
「じゃ、今日はここまでにしようか。」
「「「ありがとうございました。」」」
「ねぇ、明日もお話聞ける?」
「・・・それはできない。俺はもうここには来ないから。」
「え?なんで・・・」
「ま、いつか・・・みんながいい子にして、神様に感謝の言える子でいてくれたら、また会える。」
そう言って、若者は神社を去った。
子供たちはそんな若者に手を振って、お礼とお別れを言った。
子供たちに話を聞かせ終わった後、若者・・・レオは、いつものように山に登り、崖にたどり着いた。
あれから、6年ほどたち、背は伸びたし、声も変わった。でも、その心はいつまでも変わらない。
「今日、子供たちに、アノカミの本当の姿を話したんだ。じじぃは偽の姿だって言ったら、みんな驚いていた。」
誰もいない。返事はもちろんない。
「俺さ、明日の朝・・・ここを離れるんだ。だから、本当のことを話した。アノカミの本当の姿を信じて、祈りを捧げる者がいれば・・・アノカミに正の信仰がより届くかな、と思って・・・」
目をつぶる。
そして思い浮かべるのは、アノカミとの約束。
アノカミの家で、トウコにキスをしようとして失敗し、再挑戦をしたとき、俺の意識はブラックアウトした。
次に目が覚めたときは、草の茂ったところに寝かされていて、耳に草が入ってちょっと嫌だったのを覚えている。
起き上がってみれば、アノカミがいて、少し離れたところに腰を下ろしていた。
「やっと起きたか。」
「・・・トウコちゃんは?」
「ここにはいないし、もう君には見えない。」
「そうか。」
なんとなくそんな気はしていた。あれが最後の別れかと思うと・・・いや、あれは最後の別れじゃない!俺は、また会いに行くし、話す。トウコちゃんも会いに来るし話を聞いてくれるって言っていた。
「君は、本当に前向きだな。ま、そういうのは悪くないと思うよ。」
「・・・俺、口に出して言っていたか?」
「僕は、心の内が読める。僕に隠し事はできないよ。」
嘘だろ?
「嘘じゃない。」
「!」
「理解したようだね。」
アノカミは頬杖をついて、こちらを無表情に見つめている。
「・・・なんだよ。」
「見えるようになりたい?」
何を?と聞かなくてもわかる。それは、きっとトウコちゃんのこと。トウコちゃんを見れるようになりたいか、どうかということだ。
「できるんだったら・・・見えるようになりたい。」
「僕ならできる。」
「本当か・・・?いや、神様だもんな。それに、俺に姿を見せられるようだし・・・」
アノカミの言葉を信用した俺は、アノカミに力を貸してもらうことにした。
「それで、何をすればいい?」
「・・・!」
驚いた様子のアノカミに首をかしげる。
「いや、そうか。トウコの友人だからか。」
頬杖をつくのをやめて、腕を組むアノカミ。
「君は、正の信仰や負の信仰について・・・聞いたことがあるようだな。」
「あ、あぁ。」
心を読んだのだろうが、こう理解されると話しにくいな。
「なら、簡単だ。正の信仰を集めてくれればいい。」
「・・・それは、結構大変だな。」
トウコのために正の信仰を集めたことはあるが、あれは本当に大変だった。思い通りにいかないことも多い。
「なら、諦めるか?」
「まさか。」
俺がトウコの姿を見るのは、無理なことだった。それが大変なことになるというだけ。まだ希望がある。
「本当・・・そういうところに、トウコは惹かれたのだろうな。」
「え?」
どういう意味かと問おうとしたが、そこにアノカミの姿はなかった。
目を開ける。
以前より高い位置にある視点。ここまで成長するほどの期間、正の信仰を集めた。
でも、見えない。
一度だって、トウコの姿を見ることはなかった。
「トウコちゃん、今日は別れを言いに来た。でも、一生の別れとかじゃない。少しの間だけだ。また、いつかここに来るから。」
「ただ、言われたとおりにしているだけで、欲しいものが手に入るわけないよな。・・・信仰を集めるのにも限界があるし、元からこういうのって合ってないと思うんだ。だから、探しに行くことにする。」
「いつか、また会おう。今度は、目と目を合わせて、ちゃんと話そうな。」
去っていくレオに、トウコは何も言わなかった。
言いたいことは、レオがトウコを見れるようになってから言えばいい。
だから、ただいまは見送るだけ。
これにて、本編完結です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
引き続き、番外編もお楽しみください!




