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55 2人目の神



 村の片隅に寂れて廃れきった神社があった。

 大きく立派なつくりをしているが、手入れがされてないので、落ち葉が溜まっていたり、所々ガタが来て、補修が必要な部分が多くあったその神社に、多くの人が集まっていた。


 ここ数日、ここには多くの人が集まり、溜まった落ち葉や砂埃を掃き清め、補修が必要な部分は簡易的に補修し、目に付いたところはきれいにされた。

 そのおかげで多少見れるようになった神社に今日、一枚の絵が奉納された。


 集団幻覚の被害者の一人、画家志望の学生が自身の作品を奉納した。

 それは、まだ拙い技術ながら、勢いとその身に感じた恐怖を表しており、多くのものがこれだと感じた。これこそが、あの神だと。


「アノカミ」


 女のように長い白髪と白い肌。それに映える血のように赤い瞳。

 線は細いが、男と分かる顔立ち、その表情はすべてを見下している。


 神様


 神様


 神様


 どうかお許しを・・・


神社に集まった者たちは許しを請う。それはすべて自分のため。



 アヤカシの姿は、アノカミの姿として認識され、神とあがめられた。

 恐怖の信仰は、力となってアノカミはもちろん、アヤカシにも流れ込んでくることとなった。




 地面に膝と手をつき、白い長い髪が土に汚れる。


 神様


 神様


 神様


「俺は・・・神じゃない。うるさい。黙れっ!」


 冷や汗を流しながら叫ぶアヤカシを見て、トウコは駆け寄った。


「アヤカシ、聞こえる!?力を見ないで!自分の力を意識してはだめ!こっちを見て、私を見て!」

「・・・ぐっ・・・」

 アヤカシは顔をあげない。トウコを見ない。おそらく聞こえていないのだろうと判断したトウコは、一歩下がって深呼吸した。


「ごめん。」

 一言断りを入れて、トウコは思いっきり平手でアヤカシの頬を叩いた。

 パシンっと、なかなかいい音が響き渡る。


「いっつ!?な、何をする!?」

 涙目になって顔をあげるアヤカシに、ほっと息をつくトウコ。

「よかった、戻ってきた。」

「え?そうだ、さっきまですごくうるさかったのだが・・・」

「だめ、そちらに意識をもっていかないで。まだ慣れていないアヤカシじゃ、すぐに声に引きずり込まれる。」


「・・・トウコ、一体何が起きたんだ?俺は、なんでこんなにも強くなっている?」

 自分の掌を見つめて不思議そうにするアヤカシは、トウコに聞く。

「わからない。一体何が起こっているの?」

 トウコは悔しさに唇をかむ。


 せっかく強くなって手に入れたのに、アヤカシはまたトウコより強くなってしまった。これでは、トウコがアヤカシを所有しているなんて言えないだろう。


「まさか、こんな形で・・・」

「・・・」

 アヤカシはそんなトウコを見て、思いついたような顔をした。


「トウコ、実は言いたいことがあった。」

「え?」

 このような場面で、わざわざ言いたいこととは何だろうか?


「俺は、トウコの所有物ということに不満があった。」

 その言葉を聞いて、トウコは信じられなくて言葉が出なかった。

 トウコに力が無くなっても、アヤカシはきっとトウコと一緒にいてくれると信じている。だって、アヤカシはトウコより強い時からそれを望んでいたから。

 しかし、一緒にいるための手段として、アヤカシを自身の所有物としたことに不満を思っているとは思わなかった。


「最初は、嬉しかった。誰にも必要とされなかった・・・アノカミですら、俺を俺として必要としてくれなかったのに、俺を求めてくれたトウコの所有物になるのは、本当に嬉しかった。」

「なら・・・思っていたのと違ったの?私の所有物になることは、アヤカシの理想と違ったの?」

「いや、そんなことはない。俺の理想そのままだった・・・ま、邪魔者はいたが。」

 そう言って、ちっらとトウコの斜め後ろへとアヤカシは、視線を移した。


「それってクロのこと?」

 不機嫌な声がトウコの後ろから聞こえた。普段なら笑える場面だが、今のトウコにその余裕はない。アヤカシが言いたいことが分からなくて、不安だ。


「そうだな、なんと言えばいいのか。俺は変わってしまったようだ。」

 アヤカシは立ち上がって、トウコを見下ろした。


「だが、弱かった俺は、変わってからもその思いを外に出すことは出来なかった。なぜ強くなったのかはわからないが、俺は強くなった。だから言おう。」

 トウコは黙ってアヤカシを見上げ、血のように赤い瞳を不安そうに見つめた。



 最初は両親の所有物。次に兄、それから弟、旅人。


 それから長い期間アノカミのものとして生きて、最後に一緒にいたいと思ったトウコの所有物となった。


「もう、誰の所有物にもならない。もちろんトウコ、お前の所有物にもならない。」


 それが、ずっと誰かの所有物として生きていたアヤカシの、新しい生き方だった。




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