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50 またな



 道なき道を行き、着いた先はアノカミの家だった。

「レオをこんなところに連れてきていいのかな?」

「アノカミが連れてきたのなら、いいと思うよ。さぁ、行こう。」

「うん。」


 先に家の中に入った2人を追いかけて、トウコはクロと共に家の中に入る。


「おっさん、どこにトウコちゃんがいるんだ?」

「おっさん!?・・・僕、一応神なんだけど、みんな忘れてないかな。」

 諦めた様子のアノカミは、トウコの方を指さした。


「そこにいるのか・・・」

 目を凝らすレオは、トウコからすれば睨みつけられているような感じがして、戸惑う。


「だめだ・・・見えない。なんで、おっさんは見えるのに・・・」

「僕は、君に姿を見せてあげてるの。」

「なら、トウコちゃん、俺の前に姿を現してくれ。まだ、たくさん話したいし、話は終わっていない。」

「そんなこと言われても・・・」

 困ったトウコにアノカミはため息をついてレオに説明した。


「トウコにそんな能力はない。そんなことを言われても、トウコは困るだけだ。」

「なら、どうすればいいんだ!」

「レオ君。」

 姿を見せてあげたい。そして、話したいと思ったトウコに、クロが後ろから抱き着いてきた。


「トウコ。」

 耳の近くで優しい声が聞こえ、落ち着く。

「少しの間なら、姿を見せられるよ。」

 そう言って、クロはトウコの目の前に小さな透明の塊を出した。


「これは・・・」

「飴。僕のなめた残りだけど・・・どうする?これをなめれば、少しの間くらいは話すことができる。」

「・・・ありがとう、クロ。その飴を頂戴。」

「うん。」

 満足そうに頷いて、クロはトウコの口へと飴を運び、トウコはそれをパクっと食べた。


「え・・・」

 レオの目が大きく見開き、その顔が笑顔に変わる。

「レオ君、時間がないよ。これでわかったでしょ?私は幻のようなものなんだって・・・」

 トウコは、レオの方へと歩きながらそう言った。クロはそんなトウコの後ろをついていく。


「トウコちゃん!」

 名前を呼びトウコを抱きしめるレオ。トウコは驚き固まって、クロは面白くなさそうにその光景を見ていた。そのすべてを見ているアノカミの目は、暖かくトウコへ小さな声で「よかったね」と呟いた。


「レオ君?」

「幻なんかじゃない。君はここにいる。」

「・・・そうだね。」

「トウコちゃん、ありがとう。」

「何が?」

 レオはそっと体を離して、トウコの目を見つめた。


「俺のことを考えて、離れようとしてくれたんだろ?」

「・・・」

 少し前のトウコなら、何を言っているのかこいつは、と冷たい視線を浴びせただろう。しかし、トウコは変わった。自分の心が少しだけ分かるようになった。


「気づいてたんだね。」

「あぁ。だって、トウコちゃんはいつもそうだから。」

 何もわかっていないと思っていたレオは、トウコ以上にトウコの心を理解していた。気づいてくれた。そのことがたまらなく嬉しくて、熱いものが込み上げた。

「!?・・・あー・・・泣くなよ。」

 困った顔をして、ぎこちなく頭を撫でるレオ。


「ごめん・・・私、ずっと・・・」

 溢れ出る涙を必死に止めようとする。時間がないのだから、泣いている暇はないし、もったいない。でも、泣き止めることができない。


「ずっと、みんなと・・・一緒になりたかった。友達に・・・なりたかった。」

「・・・そうか。」

「でも、私は特別だったから、欲しいと言われれば与えて、勉強ができて・・・運動ができる・・・何でもできる・・・子に、ならないといけなかった。」

「無理をしてたんだな。」

 レオは慣れてきたようで、ぎこちなさのなくなった撫で方でトウコの頭を優しくなでていた。


「ごめん、こんなこと、言いたいわけじゃないの。・・・最後の、お別れしたいのに。」

「いいから。言いたいことを言えばいい。それに、最後じゃない。」

「でも、もうこうやって話せないよ?アノカミは、もうあの飴を作れないと思う。正の信仰がもうほとんどないから。アヤカシも、いつ目を覚ますか、覚ましたって、もうレオ君に私を見せる力を使えるかわからない・・・」

 トウコはどうにもならないことを言っている場合ではないと思ったが、もうレオと話せないことが悲しくて、受け入れられなくて、誰かが否定してくれるかもしれないと、最後を強調した。

 しかし、帰ってきたのは肯定の言葉だ。


「確かに、もう話せないかもしれない。」

「・・・!」

 先ほどまで諦めなかったレオのその言葉に、トウコは予想以上に傷つき、我ながら勝手だな、と苦笑した。


「でも、話せなくても、見えなくたって、俺は会いに行くよ。」

「え?」

「この山にいるんだろ?なら、会いに行く。トウコちゃんには俺が見えるし、声が聞こえるんだろ?」

「うん、それはそうだけど・・・」

「なら、会いに来て、勝手に話していくよ。俺の話ばっかりになると思うけど、そこは我慢してくれ。俺も、返事が聞こえなくたって我慢するから。」

 断らないと、拒絶しないとだめだと思った。レオのためにならないから。


「いいの?」

 だけど、拒絶できない。

 レオのためを思うなら、そんな無駄なことをさせるべきでないと思う。けど、それは自分を満たしてくれる。自分だけはそれに救われる。

 

 私は救われたい。


 でも、そのためにレオを犠牲にしてしまうのはいいことか?悪いことだろう。何も返せないトウコのために、レオは山に来て話をしてくれるという。

 その行為は、レオにとって何の意味もない。返事も帰ってこない。ただの独り言と同じだ。


 だが、それをすべて理解したうえで、レオは笑った。

「いいに決まっている。だって、俺がそうしたいから。」

「レオ君・・・」


「約束だ。俺は、トウコちゃんに会いに行く。だからトウコちゃん。」

 レオは、トウコの肩に手を置いて、真剣なまなざしをトウコにおくった。


「俺を、出迎えて。必ずだ。約束してくれるか?」

「・・・うん。約束するよ。」


 いつの間にか止まった涙の名残がほほを伝う。

 そんなトウコに、レオは顔を近づけて・・・鼻と鼻がぶつかった。


「レオ君・・・」

「・・・もう一度だ。」


 そう意気込んだレオだが、唐突に支えを失って、バランスを崩した。


 体勢を立て直し、顔をあげれば、そこには誰もいなかった。


 終わったのだ。トウコと話せる最後の時間が。そう理解すれば悲しくなるが、トウコとした約束を思えば、頬は緩んだ。


「またな。」


 そう言って、レオはトウコに笑顔を向けた。


 トウコの顔は見えない。声も聞こえない。


 それでも、心は温かいレオだった。




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