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49 約束



 歓声が響き渡り、人間共は抱き合って喜びを共有していた。


「あれ、何だったんだ?じじぃの姿をしていたが・・・兄弟か?」

「いや、知らん。それより、トウコたちのところへ・・・」

 トウコたちのところへ行こうとアヤカシが言う前に、声をかけられた。


「久しぶりだね。」

「!?」

 アヤカシとレオの前に、トウコが現れた。隣には、アヤカシの姿をしたクロがアノカミを抱えている。


「トウコちゃん・・・」

「見えるんだね、レオ君。またこうして話せるとは、思っていなかった。」

「それは、俺もだよ。トウコちゃんは、もう大丈夫なの?変な奴に捕まっているらしかったけど。」

「うん。やっと正気を取り戻してくれたから。心配してくれてありがとう。」

「・・・俺は、何もできなかった。」

 そう言ってうつむくレオに、トウコは近づいて微笑みかけた。


「そんなことないよ。レオ君たちのおかげで、私は狂わずに済んだ。憎しみにとらわれて、人間たちを殺してしまおうとしていた私に、レオ君たちのお礼の言葉が聞こえたの。」

「お礼の言葉?」

「うん。その言葉で、私は満足しちゃったから。もう、いいんだ。」

「本当に?」

 顔をあげたレオは、まっすぐレオを見つめる黒と白の瞳と目を合わせた。


「うん。だから、もうレオ君も後悔しないで。」

「でも、俺は・・・」

「レオ君がそんな顔のままじゃ、私は自分の幸せを楽しめないよ。」

「幸せ?」

「うん、今幸せなんだ。大好きな人たちに囲まれて、好きなように生きる・・・って死んでるけどね。」

 笑ったトウコにつられ、レオもぎこちなく笑みを浮かべた。


「レオ君・・・本当にありがとう。私は、あなたに救われた。もうこうして話すこともないと思うけど、覚えておいて欲しいの。私という人間がいて、それを救ったことを。」

「トウコちゃん・・・もう会えないのか?」

「・・・私は、死んだの。妖としてここにいるけど、本来なら人間と言葉を交わすことのない存在で、いないものなの。」

「でも、君はここにいる。」

「でも、あなたとは生きる世界が違う。」

「こうして話せる。」

「今はね。でもそれは、私の力でもあなたの力でもない。そして、特定の人間にしか見えない私は、幻とそう変わらないの。」

「でも!」

「生きて。自分と同じ世界を生きる人と一緒に。それが、正しい生き方だよ。」

 トウコの言葉に一瞬詰まったレオは、次に怒りをぶつけた。


「正しい生き方って、なんだよ!そんな生き方、俺は望んでいない!俺は、死人でも、幽霊でも、妖でも・・・いい。トウコちゃんと一緒にいたい。話したい。」

 その言葉に今度はトウコが黙り込んだ。嬉しすぎる反面、それでは、レオが幸せになれないことを理解しているから。


「レオ君。あなたは生きている。」

「生きてちゃダメなのかよ。」

「人間は、人間と生きるべきだよ。様々なもので縛られた人間は、人とのつながりがなければ生きられない。でも、私とのつながりを失っても、人間は生きられる。」


「生きていれば・・・それで幸せなのか?」

 レオの言葉は、トウコに覚えがあるものだった。

 生きていて、幸せを感じられなかった自分は、死んで妖になることでかけがえのない者と出会い、幸せを感じた。


「それだけでは、幸せになれないよ。でも、きっとあなたなら生きながら幸せを見つけられると思う。ねぇ、レオ君。私と過ごした日々はどうだった?」

「そんなの、楽しかったに決まっているだろ!だから、失いたくない。失ったときの悲しみは、もう2度と味わいたくないんだ!」


「私も楽しかったよ。ありがとう。」

「なら、これで最後なんて言わないでくれ。」

「・・・」



「・・・トウコちゃん!」

 突然叫んだレオは、トウコと目を合わせていなかった。

「レオ君?」

「どこに行ったんだ!?いや、俺が見えなくなったのか?じじぃ、頼む。もう一度トウコちゃんと話を・・・!」

 手に持った石に、必死に話しかけるレオ。しかし、石が答えることはない。


「じじぃ?」

 誰のことだろうと首をかしげるトウコに、近づいてきたクロが答えた。

「きっとアヤカシのことだよ。レオ君にトウコちゃんの姿を見せるため、力を使っていたみたいで、力尽きたようだよ。」

「え?」

 トウコは、レオの手にある白い石を見つめる。ただの石にしか見えない。


「まさか、あれがアヤカシ?」

「うん。」

「アヤカシは、どうしちゃったの?」

「・・・アノカミに姿を変えられたのかな?あとは、力を奪われた?」

「クロ、そういつを今すぐ起こして。」

「わかった。」

 トウコの命令に従い、クロは担いでいたアノカミを地面にたたきつけ、その腹を足で勢いよく踏んだ。


「ぐぅはっ!」

 苦しそうな声を出したアノカミは、涙目で周囲を見回し、トウコの冷たい瞳とかち合った。

「え?どういう状況?」

「アノカミ、アヤカシに何をしたの?」

 その言葉に、アノカミはレオの方を見て状況を察した。


「あー・・・石に姿を変えて、レオの前に捨てた。」

「クロ」

「うん。」

 名前を呼ばれただけで理解したクロは、アノカミの頭を思いっきり蹴飛ばした。


「いっつ~」

「アヤカシは生きているの?」

「いや、死んでいるけど。」

 その言葉にトウコの血の気がさっと引いて、青白い顔になる。その様子を見て、慌ててアノカミは訂正した。


「いや、元から死んでいるという意味で・・・」

 その言葉に鋭い視線を送ったトウコの意図を察し、クロはアノカミを持ち上げて投げ飛ばした。

「うわー!」

 情けなく叫びながらも、しっかりと体制を整えて着地したアノカミに、クロは小さく舌打ちをする。


「ねぇ、僕一応神様なんだけど!こんなことしていいと思っているの!?」

「アノカミは、ずいぶんとひどいことをしたよね?そんなことしてよかったの?」

「それは・・・悪いと思ってるけど。」

「・・・それより、アヤカシはどうなの?返事をしないみたいなんだけど。」

 その言葉にアノカミはにっこり笑って、問題ないと答えた。


「少し休めば回復するよ。それに姿も元に戻すし・・・問題は彼だね。」

「彼?」

「人間たちが彼を不審がっている。どうにかしてあげないと、頭がおかしいと思われてしまうよ。」

 辺りを見回せば、歓声をあげていた人々はだいぶ落ち着き、石に話しかけるという奇妙な行動をしているレオに視線を向ける者が出てきた。


「まずい。どうしよう。」

「とりあえず、僕が引っ張って、人気のないところに連れて行くよ。」

 そう言ってアノカミはレオの腕をつかみ、山の奥へと連れて行った。


 周りの人々は不思議に思いながらも、何も言わずレオから視線を外した。


「私たちも行こうか、クロ。」

「うん。」


 トウコの後ろをついてくるクロに、トウコは振り返った。


「ありがとう、クロ。私を助けてくれて。」

「トウコ・・・うん。」


 クロは、トウコの前に来てしゃがみ込むと、両手でトウコの手を取り、トウコを見上げるように見て笑った。

「トウコもありがとう。クロを諦めないでくれて。食べないでくれて・・・嬉しかった。食べられてもいいと思ったけど、やっぱり一緒にいたいから。」

「お礼なんて・・・私は、何もできなかったよ。クロを食べるしかできなかった。クロが吸収されなかったのは、クロが頑張ったからでしょ?」

「違うよ。トウコが諦めなかったからだよ。トウコが諦めなかったから、クロも諦めなかった。これからも、諦めないで。そしたらクロも諦めないから。」


 2人はしばらく見つめ合った後、笑ったトウコが約束だよと言って、小指を出し、お互いに約束を交わした。


 クロを諦めないと


 トウコが諦めにない限り、諦めないと




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