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44 レオの告白



 レオは、いつもより気を引き締めて登校した。

 昨日のうちに、怖い目にあった人たちの名前はトウコの机に書いたことだし、あとはそれをみんなに気づかせればいいだけだ。


 教室の前で軽く深呼吸をして、引き戸を開けた。

「おはよう。」

 挨拶をして中に入ると、何人かが返してくれたが、どこか心ここにあらずといった感じだ。


「どうした?元気ないな。」

「・・・名前が。」

「名前?」

 とぼけた調子で聞き返したレオだが、もう何が起こったのかわかっていた。


 どうやら俺の出る幕はなかったようだな。


「変な声を聞いたってやつらの名前が、あいつの机に書かれているんだよ。あれは、何を意味するんだ?」

「どうしよう。私、どうなっちゃうの?」


「呪うって・・・言われたんだ・・・呪うって。俺、呪われたのか?なぁ、誰か助けてくれよ!」

 そう言って一人の男子生徒が立ち上がり周囲を見回すが、誰も彼と目を合わせようとしなかった。


「なんでこんな目にあわなきゃいけないのよ!」


「誰かのいたずらだろ。誰だよ!誰でもいいから、名乗り出ろよ!」

 その言葉にレオの心臓が嫌な音をたて、冷や汗が流れた。しかし、レオは何も言わず自分の席に着いた。


「だいたい、あいつが悪いんだ。あいつが山の神を怒らせたから・・・こんな目に。」


 バンッ。

 机を叩く大きな音が響いた。


 音がした方へとクラスメイトの視線は釘付けになる。


「いい加減にしろよ。」


 机を叩いた格好のまま、大声で叫ぶ男子生徒。彼は、よく宿題を忘れてトウコに見せてもらっていた、レオの友達だ。


「俺たちが言うべきことは、恨み言か?違うだろ。」

 彼は顔をあげて、自分のクラスメイト達を見回した。

 そして、カバンから小さなチョコを出して、それを手に持ちながら歩きだした。向かう先はトウコの机。


「・・・トウコさん。今までありがとう。俺が困っていたとき、いつも助けてくれたよな。助けて欲しいって、そう言えばトウコさんは助けてくれた。言わなくたって手を差し伸べてくれた。」

 トウコの机に彼は手に持っていたチョコを置いた。


「いつも、口で言うだけの軽い礼ばっかりだったな。だから、今日からは毎日菓子を送るよ。今までできなかった分の礼をする。それが、今の俺にできることだから。」


 言い終わった彼は、頭を下げて小さな声で言った。

「そして、ごめん。助けてもらっといて、俺はトウコさんを助けなかった。」


 静まり返った教室で、その小さな声は全員に聞こえた。

 誰もが呆然とし、動かない中で彼だけ動いた。頭をあげて、振り返った彼の視線の先にはレオがいた。


「レオ。」




 レオは、後悔をしていた。

 友達の言っていたことは、すべて本当のことだ。


 友達の言っていたトウコは、本当にトウコの話だった。

 助けを求める者も求めない者ですら、助ける。それがトウコだ。


 トウコは、他人を恐怖に陥れたりする子ではない。レオがやっていたことは、トウコを否定し、貶める行為だったのではないか?


 後悔するレオに友達は近づいて、背中を思いっきりたたいた。

 突然の行動に驚いたし、むせたレオは視線で友達に何かと聞いた。


「お前らしくない。黙って、うつむいて・・・そんなのお前じゃないだろ?いつまでもうじうじとしてんじゃねーよ!お前が今やらないといけないことはなんだよ?」

 やらないといけないこと。


 それは、トウコを自由にすること。

 そのために、今はトウコの信仰を集めているレオは、思いついた。


 なんで俺は、トウコちゃんを悪者にして、恐怖の対象とし負の信仰なんて集めようとしていたんだ?恐怖の方が与えやすいから?馬鹿か?

 もう、みんな十分に恐怖している。神の祟りに。


 だから、トウコちゃんにぴったりの役割があるじゃないか。


 レオはクラスメイト達を見回した。レオの顔は自信に満ち溢れたもので、それを見た友達は「それこそお前だ。」と言って笑った。


「みんな、聞いてくれ。」


 成功するかはわからない。人を騙すなんてこと経験したことないし、無理はあると思う。でも、それでも俺はやる。


 だって、それが俺だから。


 馬鹿みたいに正義感を抱いて、トウコちゃんへのいじめの原因を作り、悪化させた。でも、それでも彼女の心の支えにはなっていた。


 自分が原因とも気づかずにヒーロー気取りで過ごしていた俺が、人を騙せるとは思わないけど、これしかないと思ったんだ。


「俺、ずっと黙っていたことがある。実は俺、死んだはずのトウコちゃんに会ったんだ。」

 俺の言葉にざわめくクラスメイト達。

 これは本当のことなので、自然に話すことができたが、ここからが問題だ。


「それで、トウコちゃんは祟りにあって死んだって、言っていた。」

 その言葉にだれも疑いの目を向けず、納得したような顔をしたり、不安におびえた顔をした。


「それで、自分みたいに祟りでみんなを死なせたくないと言って、助けたいとまで言ってくれた。でも、そのためにはみんながトウコちゃんを信用することが必要らしい。」

 もしかして助かるかもしれない。そう思ったのか、クラスメイト達の表情は少し明るくなった。完全に俺の言葉を信用しているようだ。


 その時、友達が「なんでもっと早く言わなかった?」と聞いてきたので、俺はずっと我慢していた気持ちを吐き出すことにした。


「みんなが祟りにあおうが、どうでもよかったから。だって、俺はトウコちゃんをいじめたみんなが、好きになれなかったから。」

 トウコちゃんからのお願いはこれで果たせなくなった。

 みんなと仲良くしてという、優しいようで酷なお願い。

 後悔はなく、清々しい思いで周りを見ると、クラスメイト達はそれぞれ思うことがあるようで様々な表情をしていた。怒り、悲しみ、納得。


「でも、俺はトウコちゃんが好きだから、トウコちゃんが助けたいっていうなら、みんなを助ける。協力する。」




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