43 弱者の失敗
目を開けると、黒髪が目の前にあった。
小さな寝息を立てて眠るトウコを僕はぎゅっと抱きしめる。
「よかった。」
これは現実。僕の腕の中にはトウコがいる。これから力を得て、僕と並び立ち一緒にいてくれる存在。
ずっとこうしていたいと思うアノカミに、人間が山に入り込んだ気配を感じた。いつものことだが、苛立ちを感じるアノカミ。
その苛立ちを感じ取ったのか、トウコが身じろぎをした後に目を開けてアノカミを見た。
「おはよう。」
「おはよう、トウコ。」
「もう来たの?」
「うん。起きて早々悪いけど、行こうか?」
「わかった。」
いつものようにトウコを抱えて、アノカミは人間たちの元へと歩いて行った。近づくにつれ、機械音が大きくなり、同時に心の声も聞こえてきた。
神様。神様。神様。死にたくない。殺さないで。祟らないで。
「ぐっ・・・」
「・・・アノカミ、うるさいのなら、さっさとやったら?」
「そう、だね。」
遠くに見える人間たちをにらみつけ、僕は自分の中にある力を感じ取る。まだ大丈夫。正の信仰はまだある。
「・・・また増えたのか。」
力を感じ取った時に、自分の負の信仰が増えたことに気づく。これだけ恐怖を植え付けたのだから仕方がないことだが、またトウコと力の差が開いてしまった。
殺してしまいたい。今すぐ目の前の人間たちを。
でもそれはだめだ。もう少しの辛抱。
トウコに大きな力を得させるためには、より多くの人間がいた方がいいのだ。
「アノカミ?」
「トウコ、あともう少しだね。早く、早く僕の隣に来て欲しい。」
「・・・そうだね。」
少し寂しそうながらも、トウコは微笑みをアノカミに向けた。
あぁ、これだけで満足できればよかったのに。なのに、僕は欲深くそれ以上を求めてしまう。だって、この寂しさが埋まることを知ってしまったから。
シロで埋められなかった寂しさが。
山の神の祟りが学校に降り注いでいる。
「失敗に終わったな。これではアノカミの力が強まるばかりだ。」
「・・・」
物事とはうまく運ばないものだ。
レオ達が与えた恐怖は、すべてアノカミの祟りという話になってしまった。やはり、トウコの仕業という要素がなかったからだろう。
「本当に足を引っ張ることになるとはな。」
「黙れ。」
「事実だろう。」
「わかっているから、黙ってくれ。」
失敗してしまったものは仕方がない。どうせ元から強い神の力が少し増えただけだと、無理に気持ちを切り替えるレオ。
しかし、そんなレオにアヤカシは何もしない方がいいのではないかと、消極的なことを言った。
でも、迷惑しかかけていないなんて、嫌だ。少しでも役に立ちたい。
そう思う一方で、ただの空回りではないかと呟く自分がいる。
空回りしていた前科があるだけ、レオの心は沈んだ。
「いや、弱気になるな。」
「冷静にはなれ。」
「それは・・・そうだな。」
とりあえず深呼吸を始めるレオに、アヤカシはため息をついた。
「この作戦はなぜ失敗した?」
「それは・・・トウコちゃんの仕業という要素が不足していた。」
「そうだな。なら、その要素をどうやって出す?」
「・・・使えるとしたら、トウコちゃんの机しかない。トウコちゃんのものは何一つ持っていないし、これがトウコちゃんと言えるものもない。」
学校からはトウコちゃんの持ち物はすべて消えた。
トウコちゃんの特徴は何かと聞かれても、思い浮かべられない。トウコちゃんが育てた花も、他の子が育てているものだし、トウコちゃんの好きなものとかは周知されていない。あったのかもわからない。
「なら、机を使うしかないだろう。」
「机・・・怖い目にあわせた人の名前を書くとか?」
「やってみるか。」
「でも、気づくかな?」
「お前が気づかせればいいだろう。」
「それもそうか。」
レオは納得して、それを実行に移した。




