42 弱者のあがき
学校に現れたトウコの霊。
商店街で割れた街灯。
噂話に事欠かない教室で、みんなが不安そうな顔をしている。登校してくる生徒の数が減り、まさかという思いが胸中に宿る生徒たち。
「花壇が荒らされていたらしいよ。」
「人体模型の首がとれていたんだって。」
「スーパーの品物をのせていた棚が、いきなり倒れてきたらしい。」
「そういえば、あの山ってどうなったの?」
「まだ作業をしているらしいぞ。昨日もけが人が出たって。」
レオは、机にうつぶせになって話を聞いていた。
もっと身近に恐怖を植え付ける出来事が起こればいいのに。そうすれば、俺たちは動きやすくなる。
「この様子だと、負の信仰はある程度トウコに向けられているようだ。だが、この程度ではアノカミの足元にも及ばない。」
レオの耳元に置いた巾着から、小声でアヤカシは話した。その意見に同意だとレオは思ったが何も口にはしない。
「どのようにすれば、トウコへの信仰を強められるか。見当もつかないな。」
アヤカシは、あまり人間に興味がないらしく、どのようにすれば人間がどんな感情を持つかというのを予測できないらしい。
レオもそういうのは得意ではないが、アヤカシがそんなだからやるしかなかった。
恐怖は負の信仰を作るようだ。とにかく、怖がらせればいいのか?しかし、その恐怖の対象がトウコであると理解させなければならない。
どうやって理解させる?
例えば、怖い出来事が起きた後、トウコの物が置いてあったりとか?
だめだ。トウコの物は学校から消えてしまっている。
例えば、トウコの声で「憎い」とか「呪い殺してやる」とか聞こえてくる?
トウコがいないとそれはできない。
俺がトウコの呪いだと騒ぎ立てるのがいいか?
何か悪いことが起きたときにそうやって騒ぎ立てれば・・・いや、それは今でも自然に教室で行われていることだな。俺がする必要がない。
なら、とにかくみんなを怖がらせればいいだろう。
一つは、すぐに思いついた。
「出番だ、じじぃ。」
「は?」
夕暮れ時。忘れ物を取りに来た一人の女生徒が教室に来た。
誰もいない教室は不気味で、一瞬立ち止まった後まっすぐ自分の席に近づいた。
「あった。」
一冊のノートを取り出し、一息つく。早く帰ろうとノートを抱えて歩き出した。
「・・・」
びくりと肩を震わせ、彼女は立ち止まった。
今、何か聞こえた?
怖くて、走って逃げだしたかったが、何かに自分が声を聞いたことを知られるのが怖いと思い、何でもないよう装って歩き出す。
「・・・う。」
「!?」
先ほどよりも鮮明に聞こえた。何かがいる。
ちらっと、彼女が視線をやったのは、一つの机。一輪の花が挿してある花瓶だけが置かれた机。トウコの机。
「のろう。」
「ひぃ・・・」
その声は、低く地獄の底から聞こえてくるような恐ろしい声で、のろうと言った。
ノロウ?のろう?呪う・・・
「ひぃいいい・・・」
机に体をぶつけながら教室を出て、廊下を躓きながら出て行った生徒を見送り、掃除用具入れに入っていたレオは外に出た。
「成功かな?」
「これでいいのか?俺の声ではトウコだとは思われないだろう。」
「でも、トウコちゃんの声は用意できないし、仕方がないだろ。あとは、勝手にトウコちゃんのせいにあの子がしてくれるのを祈るしかない。」
「なんとも、頼りないな。」
「俺たちは、できることしかできないから仕方がない。」
レオは自分で言った言葉に苦笑する。
この学校に来た時、俺は何でもできると思っていた。どんなことだって解決できるし、人助けも当たり前のようにできると。
たった、数か月で随分と変わったものだ。今は何もできる気がしない。でも、やらなければならない。やらない自分をレオは許せないから。
自分の罪の証、コメンダーのシールはもうない。トウコちゃんとの唯一の繋がりでもあったシール。
でも、罪も繋がりもそんな事では消えない。目には見えないけど心では感じられる。だから、トウコを自由にする。
例え、クラスメイトを恐怖に陥れて、トラウマを植え付けたとしても。
俺の正義感が無くなったとしても。
もう、コメンダーのようになんてなれない。コメンダーは人を恐怖に陥れたりしない。こんな弱くない。
でも、俺は大切な人を守るために。
たった一人の哀れな女の子だけを救う、コメンダーになる。救うなんて大それたことは出来ないかもしれない。それでも、彼女だけのために動く。
それが、奪われた泣いた彼女への罪滅ぼし。
そして、好きな子を守りたいという俺のわがまま。




