41 弱者はいらない
トウコ・・・いる。
「え?」
トウコは、辺りを見回した。
「トウコ、わかるの?」
抱く力を強めたアノカミに、トウコは頷いて答えた。
「うん。アヤカシがいるよね?」
「・・・もう、帰ろうか。」
寂しげな微笑を浮かべたアノカミは、そう言って歩き出す。
トウコは探した。見慣れた白い髪に赤い瞳。どこにいたって、目立つ容姿なはずの彼は、なぜか見つけられない。
いる。でも、力が弱い。
力が弱い?
そう。もう、トウコより彼は力を持っていない。
「・・・」
トウコは、アヤカシを探すのをやめた。その様子を見たアノカミが首をかしげる。
「いいのかい?」
「・・・力がないのなら、ただ邪魔なだけ。」
「そう。」
ほっと息をついて安心したくせに、アノカミはまた寂しそうな顔をして、何も言わなくなった。
力がないのなら、ただ邪魔なだけ。
トウコの言葉は、しっかりとアヤカシに伝わっていた。
「トウコ・・・」
情けない声でトウコの名を口にするアヤカシを、レオは巾着にしまって家へと帰った。
家に帰ったレオは、部屋に入ると巾着からアヤカシを出して机に置き、カーテンを閉めた後に部屋の電気をつけた。
「レオ。」
「なんだ?」
「もう、やめよう。」
「はぁ?」
レオは石をにらみつけ、机の前の椅子に腰を下ろした。
「やめるって、何をやめる気だ?まさか、トウコちゃんを助けることを・・・なんて言わないよな?」
「そうだ。トウコを助けるなんて、俺たちには無理だ。」
レオはアヤカシの言葉に怒り、机を叩いた。
「今更、怖気ついたのかよ!?相手は神だぞ!ムリなんて・・・最初から承知でやっていたんだろうが!?」
「そうだな。どんなことをしても、無理だとわかっていても、トウコを助けるつもりでいた。でも、今日見て分かったんだ。トウコは強い。」
「トウコちゃんが強いのは昔からだよ。」
「純粋な力の話をしている。精神的な強さなどではない。トウコは、俺なんて到底及ばないほど強くなっていた。いや、俺が弱くなりすぎたのか?」
「それが、何か問題あるのかよ?トウコちゃんが強くなったってことは、より助けやすくなって、助けられる可能性が上がったってことだろ?悪いのかよ?」
「俺たちは邪魔なのではないか?」
「!?」
その言葉に、レオは苦い記憶を思い出す。
いじめられているトウコを助けようとして、逆にいじめを加速させたのが自分だった。原因が自分にあったとトウコに言われた時の衝撃が蘇る。
今回も俺は助けようとして、逆に足を引っ張るのか?
アヤカシの言う通り、レオは邪魔なのかもしれないと、レオは思い唇をかみしめた。そのとき、声が聞こえた。
「もう、これが最後・・・今までありがとう、レオ君。あなたの正義感に、私は気づかないうちに助けられていた。最初は面倒と思っていたけれど・・・」
トウコに言われた最後の言葉が、ついさっき聞いたかのように蘇る。
俺は、確かにいじめの原因で、何もできなかったし逆に悪化させた張本人だろう。でも、そんな俺でも、トウコちゃんの心は守ってあげられた。
俺の正義感は、ただ空回りしているだけじゃない。
「俺は、自分自身の正義感を信じる。だから、俺は諦めない。絶対トウコちゃんを救う。」
「救うと言って、救えるものではない。やめておけ。」
「なぜ諦める?君の思いはその程度だったのか?」
「黙れっ!」
「俺だって、諦めたくない。だが、こんな力のない石ころが何の役に立つんだ?俺は、何の力もない、ただの石ころだぞ?」
「・・・君は、俺にトウコちゃんと神を見せてくれた。何もできないなんてことはない。君ができないことは、俺がやればいい。どこにだって連れて行ってやる。人間の噂話だって聞き出してやる!」
「だが、アノカミは倒せない。」
「倒す必要はない。俺たちの目的は、トウコちゃんを自由にすること。考え方を変えろよ。できないと思っていたことでも、角度を変えて見れば俺たちにできることかもしれないだろ?」
レオの言葉に黙り込むアヤカシ。
ここまで言葉を尽くしてだめなら、一人で動くことにしようと決めたレオは、立ち上がった。
「信仰。」
「?」
アヤカシが呟いて、レオは動きを止めた。
「俺たちの力のもとは、信仰だ。トウコを信じるものを増やせば、トウコの力は強くなる。強くなれば、アノカミからも逃れられる・・・いや、無理か。」
「なんで諦めるんだ!その方法、いいじゃないか。」
「アノカミが何千年生きていると思う?それに、あいつは神だ。信仰なんて桁違いにある。」
「でも、トウコちゃんの力をつけるっていうのは、いいと思う。力をつける手伝いなら、邪魔になんてならないと思うし。やろう、じじぃ。」
「・・・そうだな。何もしないよりは、いいだろう。」
「なんでそんな消極的なんだよ。ま、いいか。」
「俺は、わからないんだ。」
「何が?」
「俺は、トウコが好きだ。」
アヤカシの突然の告白に驚くも、レオは張り合うように赤い顔をして同意した。
「俺もだよ。」
「なぜだ?」
「は?」
「お前は、なぜトウコが好きなんだ?」
改めて聞かれると、照れるし考えこむことになるが、レオの頭にはトウコと一緒にいた思い出が次々と浮かんだ。
毎日挨拶をして、たわいもない話をして笑い合って。髪を切られて泣く後姿。机の落書きを見る冷たい目。消えていくトウコの姿。
ごちゃごちゃに混ざった記憶の断片が浮かんでは消えた。
「一緒にいたいと思った。ずっと一緒に。」
「俺も思っている。」
レオの頭に、子供の泣き声が響いた。
一番古い、トウコとの思い出。レオの罪の思い出。
泣くレオに笑うトウコ。それは、泣き止んだレオに泣くトウコに変わる。
「もう、泣かせたくないと思ったんだ。」
レオは、机の引き出しを開けて、何もない空っぽの引き出しの底を撫でた。
「それに、優しくて強いところも、憧れて・・・アヤカシ、理由とかそんなの関係ないんだよ。好きだって、それが理由なんだよ。」
「そうか。理由なんて、必要ないのか。そうか。」
納得したアヤカシは、トウコを自由にする決意を固めた。




