40 楽しいこと
レオがいつものように教室に入ると、ふわっと風が吹いたので窓を見た。窓はすべてが全開になっており、パタパタとカーテンが風にあおられ音をたてていた。
「なんだ?」
「お、レオか。おはよう。」
「あぁ。」
レオが愛想なく挨拶をすると、声をかけてきた友達は苦笑して話し始めた。
「担任の奴が漏らしたらしいぜ。」
「は?」
「いや。窓全開だろ?その理由は、教室が臭かったからなんだ。臭いから換気をするっていうのは普通だよな。」
「そうだな。でも、漏らしたって・・・嘘だろ?」
「本当だよ。先生たちは秘密にしているらしいけど、朝練に来た陸上部の奴が聞いたらしいぜ。なんでも、あいつの霊が出たって騒いでいて、あいつの霊を見たせいで漏らしたんだと。」
あいつ。それはおそらくトウコのことだろう。どこまで彼女をだしに噂話をすれば気が済むんだ。怒りを覚えたレオは、そのまま自分の席へとついて、教科書を机にしまい始めた。
「おいおい。信じられないって顔だな?」
「・・・」
「信じられないなら、あいつの机を見て来いよ。なんでも担任の奴はずっとあいつの机を拭いていたらしいぜ。それも牛乳臭い雑巾でな。あいつの机ひどい異臭を放っているぞ。」
そう言って、友達は去っていった。
レオは確認するつもりはなく、机にうつぶせになって眠った。
トウコの霊が出た。もしそれが本当だったとしたら?
会える?
学校では、この話題でもちきり。生徒たちだけでなく先生までもが少し青い顔をしていた。それほどまでに、担任の訴えは必死だったのかもしれない。
その後、担任の姿を見た者はいなかった。
噂では、精神を病んでどこか山奥の病院へと入院したとか、山の神にトウコが捧げたとか。
「トウコ。」
「何?」
アノカミの家で、トウコはアノカミの膝の上に座っていた。
「今、何を考えているの?」
「・・・商店街あるよね。」
「うん。商店街がどうしたの?」
「商店街って人通り多いし、あそこの街灯を一気に割ったら、楽しいだろうね。」
にやりと笑うトウコにアノカミは言葉を詰まらせ、意を決して言った。
「トウコ。もうすぐ君は大きな力を手に入れる。だから、そこまで貪欲に力を求めることはないんだよ?確かに、僕はすぐに君に力を得て欲しいけど、物事には順番っていうものがあるからね・・・」
「アノカミ。私は別に力を得るために言っているわけではないの。ねぇ、もう一度聞くよ?楽しいだろうって思わない?」
「・・・どうだろう。やったことがないからわからないよ。」
「なら、やろうよ。」
そう言って笑うトウコを、アノカミは抱きかかえて商店街へと連れて行った。
レオは大きなため息をついて、商店街の入り口を見つめた。
「本当に行くのか?」
巾着に入れた石に小声で話しかける。石は当たり前だと即答した。
「2人は山に住んでるんだよな?ならそっちに行った方がよくないか?」
「山は、特にアノカミの家の周辺は特殊な結界があって、今の俺では通れないだろうし、人間のお前にはたどり着けない。」
「だからって、なぜ商店街なんだ?」
「逆に、なぜそこまで嫌がる?トウコのためだぞ?」
「いるとは思えないし、同級生につかまる可能性が高くて嫌だ。」
「そうか。なら、俺と話すのは必要な時だけにしろ。翌日に一人で話していたという噂が広がることになるぞ。」
レオは、もう一度大きくため息をついて商店街へと入っていった。
目的は、アノカミとトウコを見つけること。とりあえずは、どのような様子か見ておきたい。
「レオの学校で、トウコの目撃情報があったということは、トウコは一応救出されたのだな。」
「おいまて。それは何の話だ?」
「ん?言っていなかったか?トウコは、黒い妖に取り込まれて外に出られない状態だったんだ。だが、たぶんもう外に出ているだろう。」
「トウコちゃんを見たと言っても、噂だろ?本当かどうかわからないぞ?」
「本当だと思う。勘だがな。」
「カンかよ。」
「え?レオ君?」
「わっ!本当だ!レオくーん!」
クラスメイトの女子の声が聞こえて、レオは顔をしかめた。
「レオ、来たぞ!」
「いや、わかるよ。だから嫌だったんだ。」
「違う!アノカミだ!」
「は?」
アヤカシの言葉に周囲を見渡したレオは、甲高い音と共に割れる街灯を見た。
「えっ何?きゃー」
「いや!嫌だ!?」
その場にしゃがみこむクラスメイトなど視界に入れず、レオは探した。青い髪と黒い髪。アノカミとトウコの姿を。
次々と割れる街灯に、恐怖を覚えた通行人たち。あちらこちらから聞こえる悲鳴。
「ふふふっ。」
悲鳴に紛れて、異質な笑い声が聞こえた。しかし、その主を見つけ出すことは叶わない。でも、見つけなければならない。その笑い声は、トウコのものだったから。
「どこにいるんだ!?」
「レオ、お前では姿を見ることは出来ない!俺を袋から出せ!」
「わ、わかった。」
袋から白い石を出すと、両手で持ちながら辺りを見回した。
「どうだ?」
「まだ・・・いたっ!」
アヤカシが叫んだ場所で止まり、レオは目の前を凝視したが青い髪も見慣れた少女もいない。
「視界を共有する。少しめまいがするだろうが我慢しろ。」
そうアヤカシが言うや否や視界がグルンとまわって、体が少しふらついた。体勢を立て直し、正面を見る。
「トウコちゃん・・・」
そこにいたのは、青い髪の男に抱っこされて、不敵に笑うトウコだった。
「あぁ、楽しい。」
そう言って笑うトウコを、ただ見つめることしかできなかった。




