33 怪奇は続く
「あいつの呪いだ。」
「そうだ、あのおじょー様の・・・」
「どうしよう、怖いよ。」
「あいつが、くれるって言ったから、俺はもらっただけなのに。」
「私だってそうだよ!」
「あの子もそうだった。別に、奪ったわけじゃないのに・・・」
「まだ見つからないって・・・どこに連れていかれたのかな。」
「まさか、もう・・・」
「やめてよっ!」
みんな勝手だ。またあの子・・・トウコちゃんを悪者にする。
レオは、ため息をつくと机にうつぶせになった。そうすることで視界だけでもクラスメイトを入れずに済んで、ほっとする。
もう、いやだ。
クラスメイトと仲良くして欲しい。そうトウコはレオのために言ったが、レオは好きになれないクラスメイトとの関係を維持するのにうんざりしていた。
トウコちゃん、会いたい。また、話したい。
昔のレオなら、トウコの名誉を回復させるために動いた。でも、そうすることはなく、ただトウコともう一度会いたいとレオは願う。今のレオにはそれがすべて。
もう、ここにはいたくない。学校なんて、もう来たくない。こんな息苦しくて、怒りばかりがわく場所にいる意味があるのか。
「怖い。」
「どうしてこんな目にあわなきゃいけないの。」
「次は、俺なのか?」
「お前、結構きつく当たっていたよな~」
「な、何よ!そんなのみんな同じじゃない!」
「次はお前だ。」
「そうだよ、だってトウコの髪の毛切ったのも・・・」
耳に入る雑音にまた怒りがわいたが、レオは何の反応もすることなく、そのまま寝入った。授業が始まっても寝入っていたレオは、先生に怒られたが何も感じなかった。
先生は、トウコちゃんを助けなかった。何の力もない奴が何を偉そう言うのか。
レオの心は暗く、泥の沼に落ちていくように無気力になっていった。部屋の引き出しにしまってある、コメンダーのシールも彼を元気づけることはなく、悲しみだけが深まった。
ひそひそと聞こえる噂話。それはすべて一人の女性に向けられていた。
買い物に来ていた女性、トウコの母は怒りと羞恥に震える手を握りしめ、会計を済ませて店を出た。
「全く、あの子のせいでっ!」
持っていた買い物袋を地面に叩きつきたい衝動にかられたが、それを押し込めそのまま歩き出す。
家では独りぼっち。夜に一応旦那は帰ってくるが、最近は喧嘩ばかりでちっとも楽しくない。外に出れば好奇の視線にさらされ、ひそひそと噂話をされる。
もう、限界だった。
誰も、私のことを知らない場所に行きたいわ。そう、そうよ。旅行に行きましょう。どこかの旅館にでも行って、温泉三昧・・・
そんなことを考えていると、家が見えて・・・こなかった。
いつもならここまでくれば家を見ることができたはずなのに。
「・・・まさかね。」
家がなくなる、そんなことが起こるはずはないと言い聞かせ、トウコの母はいつの間にか立ち止まっていた足を再び動かし始めた。
「もう、あなたにはついていけません。」
そう言って机の上に白い封筒が投げ出された。辞表と書かれた封筒が。
社員、いや元社員が部屋を後にすると、トウコの父はため息をついて、机をものすごい力でたたいた。
「これで5人目だぞっ!?仕事を何だと思っているのだ!」
トウコの父は、辞表と書かれた封筒を掴むと真っ二つに破って、それでも足りずに細切れにして、最後には奇声をあげながら、細切れにしたそれをばらまいた。
「はぁ、はぁ、はぁー・・・私としたことが・・・」
荒い息が整う頃になると、冷静さを取り戻し、椅子に深く腰を掛けた。
「しかし・・・なぜ、呪いだなんだと、こんなにもやめていくのだ。この地域には現実主義者は少ないのか?」
馬鹿馬鹿しいと言いながら、ため息をつく。
「もう、帰るか。」
誰もいなくなった執務室で、男はぽつりとそうつぶやいた。
車を運転して、家の敷地内まで入ると違和感を感じた。しかし、その正体を掴めず、トウコの父はそのままいつものように駐車し、車を降りた。
「は?」
トウコの父が車を降り、発した言葉はそれだけだった。言葉と言えるものではない、ただ空気が口から洩れたような、そんな小さな音。
疲れているのかもしれない。そう思った彼は一度こめかみを親指でマッサージし、目をギュッとつぶって開いた。
「・・・」
やはり、その光景は変わらない。
彼の前には広大な敷地が広がっているだけで、どこにも彼が帰ろうとした家はなかった。




