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31 私のモノ



 急いでアノカミの家を出たトウコだが出た瞬間、何かにぶつかり尻餅をついた。

「うぐっ・・・」

「大丈夫か!?」

 聞きなれた声。

 トウコがぶつかったのはアヤカシで、トウコと違いよろめいた様子もなく立っていたアヤカシは、心配そうにしゃがみ込んでトウコの顔を覗き込んだ。


「どうしたんだ、そんなに急いで。危ないぞ。」

「ご、ごめん。そうだっ!アノカミは!?どこ行ったかわかる?」

「アノカミ?後ろにいるが?」

 言われてトウコは振り返るが、そこには誰もいない。


「違う。俺の後ろだ・・・お前も何か言ったらどうだ?アノカミ。」

 アヤカシが後ろを振り返ったのを見て、トウコは頭をずらしてアヤカシの後ろを見る。そこには、難しい顔をしたアノカミがいる。

「トウコ・・・それはだめだよ。」

「何の話だ?」

「アノカミ、心を読んだの?なら、話が早い。」

「だから、だめだって。いくら何でも、それは許せない。」

 話の内容が分からないアヤカシは若干苛立たし気に何の話かと聞いた。


「父を、殺さないで欲しいって、アノカミに頼んだの。」

「・・・そんな事か。別にいいだろう?それくらい。」

「まだ続きがあるんだよ、シロ。」

「続き?」

 アヤカシが視線で続きを促してきた。トウコは一拍置いて、アノカミに視線を向けて話す。


「その代わり、私が父を殺す。・・・たぶん、父を止めることは出来ないだろうから・・・」

 その言葉に反応したのはアヤカシだった。

「それは、やめておいた方がいいだろう、トウコ。人殺しなんて、お前はしたことがないだろうし、まして親だ。辛いぞ?」

「アヤカシは辛いの?」

 アヤカシは少し考えるそぶりをしてから答えた。

「俺は、親なんて殺したことがないからわからん。しかも親の顔も知らん。だが、お前は親と暮らしていたし、少なくても顔見知りだ。気分は良くないだろう。」

「でも、アノカミに殺させてはダメだから。」

 その言葉にアノカミがなぜかと聞いてきたので、トウコは夢のことを思い出す。


 父のことを自分は憎んでいるのかもしれない。なら、アノカミが殺すことを許すのは、トウコが他者に復讐を頼んだことと同意になるかもしれない。それはだめ。

 私の復讐は私の物。私だけの楽しみだから。


 アノカミは、トウコの心を読んだためか、眉間に深いしわを刻み大きなため息をついた。

「・・・好きにすればいいよ。」

「正気か?アノカミ。」

「シロ、この件に関しては、トウコの好きなようにさせる。お前は絶対手を出すな。」

「なっ!?」

 アヤカシはアノカミの言葉に一瞬呆けるも、次の瞬間にはアノカミの胸倉をつかんだ。

「お前!どういうつもりだ!トウコが傷ついてもいいというのか!」

「・・・黙れ、シロ。」

 胸倉をつかむアヤカシをうっとうしそうに、アノカミは突き飛ばした。突き飛ばされたアヤカシは、すごいスピードで飛ばされ、家の中の壁に衝突して床に転がった。


「くっ・・・ふざけるな。」

 勢い良く立ち上がったアヤカシが、一瞬でアノカミに詰め寄るが、アノカミはそれを見切って、近づいたアヤカシを蹴り上げ、今度は近くの大木の方へ飛ばした。

「アヤカシ!」

 大木に追突して、地面を転がるアヤカシにトウコが駆け寄る。

「離れていろ・・・」

 アヤカシは痛みを我慢して、立ち上がりトウコそう伝えるが、トウコはアヤカシの袖につかまって離れない。そんなトウコを振り払うことは出来ずに、アヤカシは立ち尽くしてしまう。


「・・・なんで、喧嘩してるの?2人が喧嘩する理由なんてない。」

「ある。あいつは、トウコが苦しむのをわかっていて、トウコの好きにさせてやると言っているのだ。何を考えているかわからんが、許せん!」

「いや、好きにさせてよ、アヤカシ。」

「だめだ。」

「・・・」

 説得できそうにないと判断したトウコは、アノカミの方を見る。アノカミもトウコを見ていたので、視線がかち合い、見つめ合うことになった。


 アノカミはトウコと目が合うと辛そうに笑った。そんな顔をさせてしまったのは、恐らくトウコだろうと思うと、胸が苦しくなる。

「でも、僕には任せないんでしょ?」

「うん。これは、私の問題だから。ごめん、すごく勝手なのは理解できてるけど・・・アノカミに任せることを良しと、できないの。」

「・・・はぁ。ま、好きにしなよ。」

 ため息をつくアノカミを見て、トウコはあきられてしまったことを実感し、悲しくなる。それでも、アノカミに任せることは出来ない。

「別に、あきらめているわけじゃないけど・・・ま、いい方に転べばいいかなと思っているよ・・・いい方にだよ?」

 良いも悪いも、結果は変わらないだろう。

「それは、わからないよ?」

 笑ったアノカミの言葉をトウコは信じられなかった。



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