表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/61

29 願い



 山に響く、幼い少年の泣き叫ぶ声。

 それを聞いたアノカミは、泥だらけの手で額の汗をぬぐい、地面に腰を下ろした。

「何とか間に合った。さすがに疲れた~」

 レオのいる崖の下。トウコの亡骸の前で、アノカミは昔を懐かしんで目を細めた。


「何年・・・いや、何千年ぶりかな。うん?でも僕ってそんなに生きていたっけ?もしかして数百年程度だったり?もう、長すぎてわからないや。」

 ごろんと背を地面に預けて寝ころべば、いつもと変わらない青空。山も、人間の世界も少しずつ、はたまた大きく変わったが、空だけは変わらない。


 そう思ったアノカミを否定するように、飛行機が遠くできらめいた。

「空までいっちゃう人間って、何だろう。身の程知らず?」

 そんなことを呟いていたアヤカシの耳に、幼い少年の声が届く。


 神様、どうか彼女を生き返らせて。

 彼女ともう一度会いたい。

 神様。何でもするから。お願い、神様。


「あぁ、うるさいなあ。」

 アノカミは立ち上がって、山の奥、自分の家へと歩き始めた。

「全く、耳をふさいだって意味がないから、本当面倒だよね。」

 けだるそうに歩くアノカミ。


 お願いだよ。神様!

 生き返らせて!また会いたいんだ!


「ぐっ・・・」

 突然のめまいに襲われ、アノカミはその場で倒れこんだ。激しいめまい。歩くことはもちろん、立ち上がることですら困難だ。

「ホント、面倒・・・」

 僕を、必要な時だけ求めて・・・身勝手な人間。

 もう、放っておいてくれよ。僕は、この山から出ないから。この与えられた場所で、静かに暮らすことを許してくれよ。

 そこで、ぷつんとアノカミの意識は途切れた。




 レオは、散々泣きはらし、叫んで、何度も神に願った。しかし、その願いが神に届くことはなく、レオは自分のすべきことをした。


 トウコの死が知らされた後、すぐにトウコの母はトウコの部屋に行ったが、そこには肉まんの包み紙と飲みかけのジュースが置いてあるだけで、トウコはいなかった。


 山での捜索は、すぐに終わった。遺体は暗闇でもすぐに見つかったのだ。


 この事件は、変死事件として扱われた。なぜなら、見つかった遺体は死後数か月、それも土に埋められた様子。

 そんな遺体があるのに、死んだはずの彼女を見た多くの証言があり、なぜここまで遺体の腐敗が進んだのか?という話になり話題を呼んだ。

 オカルト話としても話題を呼び、人間として生活をしていたゾンビ少女とトウコは言われた。




「馬鹿馬鹿しい。」

 トウコの記事を読んで、その雑誌を放り投げた。トウコの父は、相変わらず計画を進める。


「馬鹿なのはどっちよ。」

 書斎にこもる父をみて、呟くトウコ。もちろん父にその呟きは聞こえない。

「私が死んだくらいじゃ、だめだったか。」


 父が投げた雑誌の記事を見る。

「神の祟りは実在した!?あの山に手を出してはならぬ。霊能者は語る・・・そういえば、なんか来てたね。」

 トウコは山に来ていた男たちを思い出して、ため息をついた。

「全く、うまくいかないものよね。」

 父を見上げたトウコは、残念そうに言って、部屋の外へと出る。


「どうだ?」

 部屋の扉の横で、壁に背を預けていたアヤカシが声をかけてきた。

「諦めそうにない。・・・アノカミは、どうするつもりだと思う?」

「・・・そろそろ「けり」をつけるだろうな。手加減をしている余裕はなさそうだ。」

「どうして?いや、手加減して欲しいわけではないけど。なぜ、余裕がないの?」

「あいつの力の源は信仰だ。あいつの信仰は、この件でかなり蓄えることになったが、それは負の信仰なんだ。」

「負の信仰?」

「そう。あいつはそれを使いたくないらしく、正の信仰をいつも使っているのだが、それがもうすぐ枯渇するらしい。」

「・・・そう。」

 アノカミの力も無限ではないようだ。そう納得し、トウコは山に向かった。


 山に帰ると、信じられない光景があった。

「木が、切られてる?嘘・・・」

「ありえない。アノカミのやつ、何を考えているんだ。」

 そう言って、アヤカシはトウコを担ぎ、走り出した。


「とにかく、アノカミを探すぞ。」

「でも、木が・・・止めた方がいいと思う。」

「それは・・・俺の決めることじゃない。ここは、アノカミの山だ。」

「・・・!いた!あっちだよ、アヤカシ!」

 トウコの言葉に従い、アヤカシはアノカミのもとへとひとっ飛びでたどり着いた。


「アノカミ!」

「大丈夫?」

 アノカミは倒れこんでいた。意識はあるようで、苦しそうな顔をして2人を見る。

「ご、ごめん・・・家に連れて行って。」

「わかった。」

 アヤカシは了承し、アノカミを担いで、反対にトウコを担いだ。

「でも、アノカミ・・・木が切られてるよ?」

「ぐっ・・・」

「まずは、家に戻るぞ。しっかり捕まっておけ。」

 アヤカシは、木の上まで上がって、木を足場にして飛び、5分とかからないうちにアノカミの家へとたどり着いた。


 家に着いたアノカミは寝転がるとほっと息をついた。

「やっと聞こえなくなった。」

 よくわからないが楽になったようで安心する2人に、アノカミは笑って礼を言った。

「あいつら煩くて・・・もう、頭が痛いよ。」

「あいつらって、人間たち?確かに、木を切る音とかうるさかったけど・・・」

「おそらく、心の声がうるさかったのではないか?どうだ、アノカミ?」

「そうだよ。全く、神様神様って・・・煩くてたまらない。」

 うんざりした様子のアノカミに、トウコは同情した。


「トウコ、僕を癒してよ。」

「癒す?」

「シロの膝の上によく座っているだろう?僕の膝にも座ってよ。」

「ダメだ。」

 トウコがアノカミの膝に座ろうとするのをアヤカシが止めた。

「ケチ。」

「ケチで結構だ。そんなに人恋しいのなら、俺が座ってやろうか?」

「いるかっ!」

 そのやり取りにトウコは笑う。


「ふふ。トウコの笑顔が見られたからいっか。」

「そんなことでいいの?」

「うん。癒される~でも、膝には座って欲しいな。」

「諦めろ、ロリコン。」

「だからそれ、君もだからね?」


 アノカミは一つ咳払いをして、少し真面目な顔をした。

「さて、とりあえずシロ。あいつらを追い返してくれる?」

「追い返すだけでいいのか?」

「とりあえずね。」

「わかった。」

 アヤカシは、頷くとトウコの頭をなでて「行ってくる」と言った。

「行ってらっしゃい」と見送るトウコに、微笑みを返して、アヤカシは作業現場へと急いだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=262231667&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ