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27 人生を終わらせるために



 山に来たトウコは、きょろきょろと辺りを見回した。しかし、どこも同じような景色で、トウコの目的地がどこかわからなかった。

「アヤカシ・・・に聞いてみようかな。」

「いや、その必要はないよ。こっち。」

 トウコの心を読んだアノカミは、トウコを目的地へと導いた。


 目的地に着いたトウコは、下を向いて探し回り、見つけた。

「掘り返された跡がある、ここね。」

「・・・トウコ、学校に行って。僕が後はやるから。」

「気を使っているの?」

「多少は。でも、時間もないことだしね。コトメとは今日だけの約束だろう?」

「そうだね。なら、お願い。」

 トウコは特に計画を話していないが、心の読めるアノカミには筒抜けだ。何も言わずにトウコは、学校を目指した。

「待って、トウコ。」

 アノカミが呼び止めたので振り返ると、その姿では厄介だよ、と言われ気づいた。


「そっか。」

 トウコの今の姿は、切られた髪は長めになって、子供らしく2つに縛っており、左目は色の抜けきったような白。人の目に入らない妖の姿だ。

「まずい・・・」

「くす。たまに抜けているよね、君って。こっちにおいで。」

 アノカミに呼ばれて行くと、飴を手渡された。


「子ども扱い?」

「その飴を舐めている間は、人間に姿が見える。予備であと2つ渡しておくよ。」

 そう言って、追加で2つトウコの掌の上にのせるアノカミ。

「ありがとう。・・・これが無かったら、今までの苦労が水の泡だったよ。」

「ふふ。ほら、行っておいで。」

「うん。」


 トウコが行った後、アノカミは丁寧に土を掘り返した。そして、目的のものを見つけると、悲しく笑った。

「見たくないなんて、僕も人間みたいだよね。」

 それは、ただの抜け殻。それでも、人はそこに何かを求める。


 トウコは、学校へ向かっていた。そこまで急ぐ必要はないけど、トウコは走った。いつの間にか無意識に走っていたのだ。


 にぎやかな声が、廊下まで聞こえる。トウコのいない教室は、楽しそうだった。いじめはなく、不安にかられることもない教室は、きっと理想の状態。

 トウコは教室を見渡すと、人だかりができているのを見つけた。そこには、レオの席があるはずだ。トウコは迷いなくその人だかりを目指した。


 誰もトウコに気が付かない。それが、どこか不思議な感覚でありながら嬉しかった。もう、自由にしていいのだと、理解させてくれるから。


「かわいそーなレオ君。あの女、何様のつもりって感じよね?偉そうに言うけど、友達もいない、家がお金持ちってだけのさびしー子なのにさ。」

「そうそう、あんな奴のことは忘れようぜ。って、また戻ってくるんだっけか?戻ってこなくていいっつうのに。」

「あいつが来るの嫌だよな。罰が当たりそうでよ。」


 好き勝手に言うクラスメイト。いつもなら騒ぐレオだが、今日は何も言わず黙り込んでいる。落ち込んでいるようだ。

 何も言わないレオに、クラスメイト達の会話はヒートアップするばかりだが、レオにその会話は届いていなかった。


「いっそ、死んでくれればいいのに。」

「だよなー。あいつがいても空気が悪くなるだけだし。てか、なんであいつ学校に来てるわけ?来る意味ないだろ?」

「ほんと。てか、生きてる意味もねーよな。」

「いえてる~」


 醜く笑うクラスメイトにほっとするトウコ。どうやら、トウコがすべての恨みを引き受けることに成功したようだ。あとは、レオが対応を間違えなければ元通りだ。

トウコは、そのままレオが一人になるのを待つことにした。レオ以外にトウコの姿を見られるわけにはいかないから。


 レオは、帰りの会が終わると、クラスメイトの誘いを断って一人教室を出た。その後をトウコはついていく。

 校舎を出て、レオは突然立ち止まった。何事かと、トウコはレオに歩み寄る。

「トウコちゃん。」

 トウコの動きが止まる。まさかと。

 しかし、レオの視線はトウコに向いておらず、トウコはレオの視線をたどった。そこには、あの茂みがあった。黒い妖のいる茂み。

 おそらく、ここでトウコに会ったときのことを思い出しているのだろう。そうだ。まさかトウコが見えるなんてこと、あるはずないのだ。


 歩き始めたレオ。追いかけなければならないのだが、少し寄り道をすることにした。それは、黒い妖にお別れを言うため。おそらくきっと、もうここにトウコは来ないから。


「元気?」

「アレ?ニンゲン、ない?」

「うん。私、本当は妖だったの。今日は、お別れに来たんだ。」

「オワカレ?モウ、アエナイ?」

「たぶん。ここにはもう来ないと思う。」

「・・・カナシイ。」

「そうだね。ここには誰も来ないもんね。わかった、いつかまたここに来るよ。」

「ホント?」

「うん。ただ、いつ来るかはわからないけど・・・あ、そういえば今日は食べ物がないな。しばらく会えないのにごめん。」

「イイ。アエルダケ、ウレシイ。」

 その言葉に心が温かくなる。人間と違い、妖たちはトウコの心を温めてくれる者ばかりだ。何かをあげたくなる。何かないかと考えたトウコに、アノカミからもらった飴が頭をよぎった。


「あなたには、何の意味もないけど・・・これをあげる。」

 飴を地面にそっと置く。

「・・・ツヨイ、チカラ。カンジル。」

「そうなの?この飴は、舐めている間、人間に自分の姿を見せられるんだって。今はこれしかないから。食べるも食べないも、あなたの自由にしていいよ。」

「アリガトウ。スコシ、カンガエル。」

「そう。じゃ、またね。」

「ウン、マタ。バイバイ。」


 トウコは走った。思ったより時間を使ってしまい、レオの姿はもう見えない。

 彼の家をトウコは知らない。そこまで深く知ろうとしなかったから。でも、なんとなく、彼は家に帰っていない気がした。

 少ない時間だった。それでも、共有した時間が、レオの行く先に確信を抱かせる。


 コンクリートの道から一変、学校のグラウンドのような砂地。ここは公園。なんとなく、ここがレオとの思い出の場所であった。レオはたぶん、トウコとの思い出を振り返ってここにきている気がした。


 そしてそれは当たっていた。ベンチに一人、背中を丸めて座るレオ。

「レオ君・・・」


 トウコは、ポケットに手を入れ、飴玉を取り出す。

 もし、これを舐めて、計画通りに事が進めば・・・トウコは、もう人間の生活を歩めない。


 もう、レオと話せない。一緒に帰れない。守ってもらうことももうない。


 ごくりとつばを飲み込んで、トウコは口に飴玉を入れた。

「終わりにしよう。今日で・・・」


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