21 レオと公園で
「おはよう、トウコちゃん。」
そう挨拶をしてきたレオに、トウコは笑顔で答えた。
アノカミに人間の生活を続けるように言われたトウコは、レオに対して仕返しをするつもりだ。それだけが彼女の楽しみだから。
本当は、別にもう山に行ってもいいのだけど、アノカミが言うのなら人間の生活を続けようと思ったのだ。どうせ、あと2、3年のことだろう。いや、もっと早いかもしれない。
トウコの仕返しは、レオと深い関係になり、その後一生レオと会わなくなるというもの。単純明快でわかりやすい。レオの前に一生現れなければいい話だ。
アヤカシとの大切な時間を奪った彼にふさわしい仕返しだと、トウコ自身思っている。
だから、トウコはレオとの仲を深めるために努めた。いじめられるのは手っ取り早い方法で、そのいじめが過激であるほどなおいい。
正義感が強く、人に頼られたいレオならば、必ずトウコと接触し、助けるために隣にいることが多くなる。
いじめられたのは偶然、しかもアヤカシとの時間を一時期過ごせなくなる原因でもあったので不本意だが、利用できるものは利用するのがトウコのスタンスだ。
単純なレオはうまくトウコの手の平の上で転がっていた。彼はどうやら、トウコに恋心を持っているらしい。まさに望む状況。トウコが消えたときの絶望は、彼の心を大きくえぐるだろう。しかし、逆に望まないこともある。
手をつないだり、抱き着かれたり抱き着いたり・・・挙句の果てにキスなんて、もう気持ち悪さが半端ない。でも、これを行うことで、トウコが消えたときの傷はなお深まる。
もう、これは使うしかないだろう。まだだいぶ先のことにするが。
何事にも準備というものは必要だ。特に心の準備は。
しかし、レオとて手の平の上に収まっているだけではなかった。
それは、帰り道の出来事。今日はアヤカシと一緒ではない。本当に頭にくることだが、レオが遊びに誘ってきたのだ。目的のためには受けるしかないと判断し、トウコは誘いに乗った。
そして、レオと共に公園に向かうことになった。アヤカシを残して。
「えーと。とりあえずベンチにでも座るか。」
「そうだね。」
2人で並んで公園のベンチへと腰かけた。公園に来てまでなぜ座るのかは謎であったが、特に言うことはしなかった。
「なぁ、あのクラスって、なんでいじめなんて起きたんだ?」
何の前触れもなく、レオはそう聞いてきた。全く自分は関係ないとでも言うように、心底不思議そうに聞いてきたのだ。笑える。自分がその原因だと本当にわからないのか。
「・・・そうね。」
さて、どう誤魔化そうか。本当のことを言っては、レオは離れていくだろう。そうなるとトウコの目的も果たせなくなる。だからといって、いい嘘も思いつかない。
「私にもわからない。・・・突然始まったから。なんで、私がいじめられなきゃいけないのかな。ぐすっ」
最後の部分は涙声で言って誤魔化した。
「わ、悪い。トウコちゃんの気持ちも考えないで、話題に出すことじゃなかったな。」
うまく誤魔化されてくれてほっとするトウコ。そんなトウコの手をレオが握った。何をすると、反射的に手をはたきそうになったが、何とか抑えた。
「レオ君?」
「トウコちゃん、泣くな。俺が、ずっと守ってやるから。だから、泣かないでくれ。」
単純すぎると思いながら、トウコはレオにお礼を言って笑う。
「髪・・・」
レオは、トウコの髪を見て悲しそうな顔をした。
「女の子は、髪の毛って大切なんだろ?その・・・」
「似合わない?」
「え?」
「短い髪も結構いいと思うけど・・・似合わないかな?」
「いいや!すっごく似合う!俺は、こっちの方が好きだ!」
「そっか。なら、丁度良かったのかもね。」
トウコはにっこり笑い、レオもニカッと笑って返した。
「そこの変質者。」
「・・・それは、俺のことか?」
俺は、トウコとあのマセガキが見える茂みに隠れて、その様子をうかがっていたのだが、突然頭上から声をかけられた。声の主は確認しなくてもわかる。アノカミだろう。
「そうだロリコン。」
「お前もだろう。」
「否定はしない。だが、別に僕は天使が幼いから好きというわけではないんだ。天使の容姿はもちろん愛らしくて、好きだけど真に見るのはその心!」
「少し黙ってくれ。そして隠れろ、見つかるから。」
「はぁ。全く君は・・・」
ため息をついて、また話だしそうだったアノカミの足を引っ張って、地面に落とした。どすんと結構大きな音がしたが、アノカミなら平気だろう。
「平気だけどさ、もうちょっと心配してくれない?ってか、丁寧に扱ってよ!僕は神様で、君の所有者なんだから・・・」
「やはり、トウコは人間でいたいのか。」
「はぁ?・・・あのね、また君は見当違いを・・・て、僕の話聞いてる?」
一緒にいたいと言ってくれたトウコの言葉に嘘はない。そう俺は感じたが、一緒にいたいからと、妖でいることを肯定したことにはならない。
トウコは、きっとまだ人間でいたいのだろう。そうだ、妖になんて誰が好き好んでなる?
「全く聞いてないね。」
アノカミの呟きは誰にも届かなかった。
レオとたわいもない会話を終えたトウコは、まっすぐ自分の家へと帰った。そこでは、アヤカシとアノカミがトウコの部屋でくつろぎながら待っていた。いや、くつろいでいるのはアノカミで、アヤカシはどこか緊張している様子だ。
「お帰り~お邪魔してるよ。」
「ただいま。不法侵入。」
「そんなこと言わないで。君と僕の仲でしょ?」
「・・・?」
「なんでわからないの!?君と僕は・・・あれ、なんて言葉で表せばいいのか。悩みどころだね。天使と神じゃそのままだし・・・」
トウコはうなるアノカミを放置して、床に胡坐をかいて座るアヤカシに近寄り隣に座った。
「どうしたの?」
「何でもない。楽しかったか?」
「別に。」
「え?」
「いや、レオと一緒にいて楽しめるわけないよ。見ていてイライラするだけだし。」
驚くアヤカシをトウコが睨みつける。
「アヤカシとの時間を奪うあいつは、本当にむかつくけど・・・それに気づかないアヤカシもむかつく!」
アヤカシは、戸惑ったが、意味が分かると「すまない。」と謝った。若干嬉しそうな顔をしたアヤカシに誠意がないと、トウコは脇腹を殴った。全く効果はなかったが。
「あの、お2人さん?僕のこと忘れてませんか?」
そう言って存在を主張してきたアノカミのことを、2人は同時に見て思った。そして、その思いはもちろんアノカミに伝わる。
「やっぱ、忘れてたの!?流石にひどい!」
心を読めるというのは、知らなくてもいいことを知ってしまうものだと、改めて思うアノカミであった。




