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18 トウコという妖



 立ち入り禁止。黄色い看板が、山にたった。

「全く、この山の所有者気取りもいいところだね。」

 氷のように冷たい青い瞳で、アノカミはその看板を眺めていた。



 登校時間。トウコは、いつも家を出る時間まで読書をしていたが、今日は何もせず机に突っ伏していた。

「むかつく。」


 トウコは、昨夜母に散々怒られた後、父にまでお説教をされた。たかが、髪を切られてくらいで大げさだ。

 母には、なんて恥ずかしいと言われ、父には、家の恥さらしだと。どちらも同じことを言って、仲の良いことで。


 トウコにとって、父と母は格上の存在だった。過去形である。今は、妖であるトウコの方が格上だ。たとえ、トウコが妖になったばかりのザコだとしても、人間よりは強い。

 相手の力もはかれず、ぎゃんぎゃんわめく両親の方がよっぽど恥ずかしいと、トウコは思った。


「行こう。」

 ため息をついて、立ち上がったトウコは、もう両親のことなど頭にはなく、レオのことしか考えていなかった。


 アヤカシとは、昨日会えたし、これからも会えると思う。しかし、アヤカシに会えなかった数日間は戻らない。レオの罪は消えない。


「そろそろ、頃合いかな?」

 トウコの頭には、様々な案があったが、とりあえずどの案も今のところ可能で、そろそろどれを使うかを決め、実行すべきと判断する。



「トウコちゃん。」

 家を出ようとするトウコに、固い声の母が声をかけた。面倒に思いながらも返事をしたトウコに母は、山に入るなと言った。

「前にもお父さんが言ったと思うけど、山の石や砂利をとるらしいから、その関係の車両が出入りしていたりして危ないの、行っちゃだめよ?」

「・・・忘れてた。」

「はぁ。トウコちゃん、最近変よ?この前までやっと、まともな子供になったと・・・あら、何でもないわ。それより、絶対山に近づいちゃだめだからね。」

「わかった。」


 レオのことを考えていたトウコだったが、もっと重要なことがあったことを思い出した。すっかり忘れていたが、アヤカシとアノカミが住む山に人の手が入るらしい。そのことを2人は知っているのだろうか?まずは、そのことについて確認をしようと思う。


 それにしても、少し前の自分がまともな子供とは。トウコの目を奪った妖、コトメのことを言っているのだとしたら、本当に馬鹿らしい。

 もし、トウコがまともな子供でないのだとしたら、原因なんて両親であるはずなのに。




 今日は特に問題を起こすことなく、机に落書きをされたり、持ち物がごみ箱の中に入っていただけで特に変わりのない日だった。

 トウコは特にそのことについて考えたりせず、帰り道で合流したアヤカシと歩いていた。夕日を背に歩くものだから、目の前に大きな影と小さな影が伸びている。それは、力の差を示すようで少し寂しく感じるトウコだった。


「山の石や砂利など、何に使うのか。人間とはわからないな。」

 アヤカシに山の話をすると、そういえばアノカミが何か言っていたと言って、トウコの話をアノカミに伝えると言った。

「家の庭に使ったり・・・あとはコンクリートの材料にでもなるのかな?わからないけど。それより、山に人間が入って大丈夫なの?」

「ん?そうだな、アノカミの怒りさえ買わなければ、問題ないぞ。」

「違う。アヤカシたちが、大丈夫なのか聞いているの。」

「俺か?・・・俺のことを心配してくれるのか?」

 その言葉を聞いてトウコは落ち込んだ。トウコのような格下がアヤカシの心配など笑えもしないだろうと。アヤカシは強い。本能でわかる。


「なぜそこで落ち込む?わからないやつだ。」

 そっと、頭に手をのせられる。

 なんだかそれだけで、トウコは落ち込みも不安もどうでもよくなった。何も心配はいらない、そんな気がして。

「アヤカシが、大丈夫ならいい。山がどうなろうと私には関係ないから。」

「そうか、ありがとう。でも、山のことは気にかけて欲しいぞ・・・お前もいずれあそこに住むのかもしれないのだから。」

「私が山に?」

「それはそうだろう。お前は、妖。人間と違い成長しないし、死にもしないのだから。いつまでも人間として生活ができるわけ・・・もしかして、知らなかったのか?」


 トウコは頷いた。特に自分が妖になったことを問題としていなかった。もしかしたら誰かが説明してくれたかもしれないが、全く頭に入っていない。

「そう、私はもう人間の生活ができなくなるんだね。」

「・・・そうだ。いずれ、そうなるだろう。」


 トウコは視線を上にあげ空を見た。赤く染まった空は、きれいだ。人間として生きていたころ見たものと変わらない。

 視線を下げ、自分の体を見て思う。何が違うのか?

 格が違う。力が強いということはわかる。でもそれだけで・・・


「アヤカシ。私は、本当に妖なの?」

「それは間違いない。お前が何の妖かは俺にはわからないが・・・お前は間違いなく妖だ。」

「そう。」

 そっけなく答えるトウコに、アヤカシは不安げに聞いた。

「嫌か?人の生活を離れるのは、嫌か?」

 その質問にトウコは即座に答えた。悩む必要もない。


「別に。嫌でも、好きでもない。アヤカシ、私はね・・・離れがたいほどの未練はないよ。ただあるのは、ちょっとした仕返しがしたい気持ちだけ。」

「仕返し?」

 不思議そうに聞くアヤカシにトウコは微笑んだ。


「でもね、それも別にいいの。もし、アヤカシが私と一緒にいてくれるというのなら・・・トウコという人間のすべてがどうでもいいし、仕返しも、もうどうでもよくなってしまうみたい。」

 言葉が詰まってしまったアヤカシは、何も返事を返せなかった。なので、トウコは続けた。

「だから、アヤカシ。私と一緒にいてくれる?」

「トウコ・・・?」


 それは、アヤカシにとって幸せすぎる言葉で、トウコにとっては今までの自分を捨て、新しい自分に生まれ変わりたいという望みの言葉だった。


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