14 アノカミの制裁
「・・・・・・・・・」
アヤカシは、木の上でただぼーと座っていた。天気のことも呟かない。
そんなアヤカシの前に、いつかと同じ形でアノカミは現れた。宙に浮いた彼に何も言いはしない。
「・・・」
アノカミは、そんなアヤカシに何も言わなかった。その代わり、自分の力を使い、アヤカシの心の中を覗いて、殴った。
「ぐふっ」
真っ逆さまに落ちるアヤカシに、アノカミは追撃を加える。宙に浮いていたアノカミは、急に落下すると、ものすごいスピードでアヤカシの上に乗り、そのまま地面に落ちた。
地面は5メートル半径にクレーターを作り、近くの木にとまっていた鳥たちは、羽ばたきどこかへと飛んで行った。
「お・・・まえ・・」
「残念だよ。君は、学習っていうものをしてくれないんだね。」
アノカミの声は、地の底から聞こえるような恐ろしい声だった。殺気もすごく、アヤカシでなかったら気絶していたかもしれない。
「そんなこと・・・ぐっ。」
アノカミは、アヤカシの首を片手で締め上げた。
「君さ、天使のこと好きでしょ?」
何も言わないアヤカシだったが、心では肯定していた。
「だったらさぁ、もっとよく見なよ。それに、あの状況でよく置いていったよね?ま、天使はそんなことで傷ついたりしないけどさぁー」
アヤカシの頭に浮かんだのは、誹謗中傷の落書きをされた机。どれも子供じみた文章で、特にアヤカシも何も思わなかったが、ただ突っ立っていたトウコを思い出した。
トウコはどう思っていた?
その日を思い出すが、トウコの顔がどんな表情だったか思い出せな・・・
「ぐふつ!?」
「ごめんね。今君の心は僕にオープンだからさ・・・ちょっとイラついちゃった。」
「あのさ。もし、天使が泣いていたら、どうするわけ?」
「!?」
「好いた女が泣いているのを放っておいた、サイテー男。・・・でも、好きなのが天使でよかったね。あの子ならおそらく泣いていない。だけど、取り返しがつかなくなることだってあるんだ。これにこりたら、しっかりあの子の表情を見ておけ。表面上でなく、内面上の表情をな。」
アノカミはそう言って立ち上がり、アヤカシの腹部を思いっきり踏んづけた。
「ぐっ・・・」
意識が遠くなる。
トウコ・・・
ばしゃっと、冷たい水を思いっきりかけられ、意識が戻った。
「寝るな。さっさと行け。」
冷たく見下ろすアノカミを見て、急いでアヤカシは立ち上がり、飛んだ。早くいかなければ。もう何日会っていない?
トウコは、突き飛ばされた。
場所は空き教室。突き飛ばしたのは、以前トウコの席に来て話をしていた子と他2名。
「痛い。」
そう言いながらも、トウコはようやくお出ましかと喜んでいた。
「あんた、生意気なのよ。家が大きくてお金持ちだからって、調子に乗らないでよ!」
「そうよ。レオ君の優しさに付け込んで、キモいのよ!」
「ばいた!」
「私、そんなつもりじゃ・・・だいたい、レオ君に相手にされないのは、あなたたちに魅力がないからでしょ?」
トウコの言葉に、3人は一瞬ぽかんとして、次に怒り狂う。
罵詈雑言・・・というわけではないが、子供が頑張って考えた悪口が次々と出された。トウコはため息をついた、ぬるいと。
トウコは立ち上がり、私はもう行くと言って、扉の方に向かうと、3人のうちリーダーのような女子が待ちなさいよと、肩を掴んできた。
トウコはその手を振り払って、よろめき近くの机にぶつかる。その机から何かが飛び出した。トウコはそれを目で追い、3人もつられて目で追った。
「ハサミ。」
トウコが呟いて、ハサミを拾おうとすると、リーダー女子が先にハサミを拾った。
「2人とも、こいつを捕まえて!」
少し戸惑いながらも2人はトウコを両脇から捕まえた。トウコは若干抵抗するが、あっさり捕まった。
「ちょっと、痛い目見なさいよ。」
「嫌だ。」
数分後、トウコはいつもの茂みに入っていく。そこには、黒い妖がいて、トウコを待っていたようだった。
「オソカッタ。シンパイ。」
「ごめんね、遅れて。」
そう言ってトウコは、ランドセルからいつものようにハンカチに包んだ食べ物を与えた。今日はフィナンシェ。
嬉しそうにフィナンシェを食べる、といっても消えるだけだが、食べた妖はトウコに疑問をぶつけた。
「チガウ。カミ。」
「あぁ、これね。切られた。そうそう、今日は、前言っていたことをやってもらいたい。できる?」
「モチロン。ダレニキラレタ?」
「クラスメイトの女子。気にしなくていいよ。これも作戦のうちだから。」
そう言うと、トウコはそっと茂みに隠れながらグランドの方を見た。グラウンドでは、部活をやっている者もいるが、遊び足りない男子が隅の方でキャッチボールをしていた。
「いたいた。」
こちら側に背を向け、キャッチボールをするレオがそこにはいた。
妖に指示を出して、トウコはランドセルから目薬を出して目に点した。心配そうな妖に大丈夫だから始めてと声をかけた。
レオは、新しくできた友達とキャッチボールをしていた。友達は以前、トウコに宿題のプリントを借りて写していた男子で、そのことでレオを殴り合ったこともある。今では、レオの一番仲のいい男子で、宿題もレオが教えてやることで忘れていない。
そんな友達からレオにボールが投げられ、ボールは不自然に飛び、茂みの中に入って行ってしまった。
「またあそこか。最近なかったのに・・・」
友達が何やら呟いたが、気にせず取ってくると言って、茂みの方へと走った。
「ひっく・・・ぐす・・ぐすん。」
茂みに近づくと、女の子の泣き声が聞こえた。若干恐怖を感じたのは、昨日見た心霊特集の影響だろう。頭を振って、昨日見たことを頭から追い出す。
「誰か、いるのか?」
声をかけると、泣き声が止まった。そして、震える声が聞こえる。
「だれも、いないよ・・・」
「え?トウコちゃん?」
声を聞き、茂みの中に入ると、先ほどと違った様子のトウコがいた。顔は真っ赤で、目からは次々と涙があふれている。でも、それ以上に驚いたのは、ふたつに結んでいた髪が下ろされ、短く不ぞろいに切られていたこと。
「これ・・・は。」
あまりのことに言葉が出なかった。
「どうした、レオ。ボール見つからないのか?」
茂みの向こう側から、友達の声が聞こえた。
「レオ君・・・この姿、見られたくない。」
トウコの言葉にレオは頷いて茂みの外へと出て行く。
「ボールなかった。それと、俺用事を思い出したから、もう帰るわ。」
「は?何だよ急に。」
「悪い。今度埋め合わせするから。」
「いいけどよ。ボールはいいのか?お前のだろ?」
「他にも持っているから大丈夫だ。じゃ、明日な。」
そう言って、レオが立ち去り、友達も立ち去った。




