11 いじめの始まり
サブタイトル通りの内容です。不快になる方は、ご注意ください。
「今日は曇りか。雨が降り出しそうな天気だ。トウコは学校に傘を持って行っただろうか?」
呟いたアヤカシは、それを口実に学校へと向かった。
アヤカシは、学校の中に入った。少し学校の雰囲気を見てみようかと思い、廊下をまったりと歩く。
人間というのは、こんな小さなころから噂好きなようで、誰かが誰を好きだとか、あのいたずらは誰がやったとか、昨日の喧嘩はすごかった、などと話している。
その中でも、ひときわ大きく聞こえた声。3人組の女子の話に耳を傾けた。目立ったのもそうだが、トウコのクラスメイトだというのも聞いた理由だった。
アヤカシの姿が見えない3人組は、すぐ近くに来たアヤカシに気づかずそのまま話を続ける。
「ほんとあの子むかつく!ああいう女っていやよね~私を守って、って感じでさ。」
こんな子供の口から出たとは思えない言葉に驚くが、アヤカシはそのまま立ち聞きした。
「そうそう。冴えない男子を相手にしているときは別に良かったけど、レオ君まで手玉に取るつもりって感じ!?レオ君のやさしさに付け込んで、サイテーよね。」
「あれはないと思う。」
どうやら、誰かの悪口のようだ。人間というのは、本当にこういう話が大好きで、昔から本当に変わらない。
「でも、傑作よね。あの机、どうするつもりかしら。」
「当然の報いよ。あ~でも、優しいレオ君にまたそれですり寄るのかも。きも~い。」
「涙浮かべたりして?」
「それは見たいかも。あの子が泣いてるとこ見たことないし。でも、それでレオ君にすり寄るのはむかつく・・・」
特に面白くない内容に、アヤカシはため息をつく。誰かがレオ君とやらにすり寄ってくること。そのレオ君とやらが優しく、この3人がご執心ということしかわからなかった。
アヤカシは、トウコの教室に行くことにする。
教室の前まで来ると、アヤカシは静かすぎる教室に首を傾げた。今の時間帯は自由時間なので、普段は騒がしい教室から比べれば、かなり静かだ。
話をしているようだが、なぜかみんな声を潜めるように話していて、嫌な感じがした。
扉が閉まっていたので、アヤカシは教室に入る者を待って、一緒に入ろうと思っていたが、異様な雰囲気に扉をすり抜けて入っていく。普段は、人を待ってタイミングよく入ることで遊んでいたが、なんだか胸騒ぎがしたのだ。
「誰がやったんだよ、あれ。」
「間違いなく女子だろ。」
入った瞬間にそんな声が聞こえた。アヤカシは、トウコを探す。
トウコは自分の席の前で立っていた。
「トウコ?」
アヤカシの言葉にわずかに顔を動かしたトウコだが、動きを止めて自分の机を見続けた。
そんなトウコの視線をたどり、アヤカシも机に目を向け、眉をひそめた。
「なんだ?この落書き。死ね、バカ?えぇと、ばいた?おい、なんで言葉を書いているんだ。」
騒ぐアヤカシにトウコは何の反応も示さない。
「これ、泣くんじゃないの?」
「さすがに泣くよな。」
少し離れたところで、男子がささやき合う。
その時、がらっと教室の扉が開き、レオが入ってきた。
挨拶をしようとしていた口が閉じ、辺りをうかがって眉をひそめる。
「何があったんだ?」
レオは、近くにいた男子に事情を聞くと、トウコの方に近づいた。
「トウコちゃん、大丈夫か?」
「・・・レオ君。」
トウコがその名前を読んだとき、アヤカシはここに来るまでに聞いた話を思い出した。レオ君にすり寄る女に当然の報いがあった。それは、トウコのことだったのか?
「とにかく、先生を呼ぼう。」
「うん。」
素直に従うトウコと親しげな様子のレオ・・・まさか?
アヤカシは、なんだかその光景を見ていられなかった。気づいたら、レオが開けっ放しにした扉から、外に駆けだしていた。
トウコはあの男が好きなのか?やはり、人間と一緒にいたいかなどと、ぐるぐる頭に回って、周りが目に入らず、いつの間にか山に帰っていた。
アヤカシの顔に失望が浮かんだのを、トウコは見逃さなかった。
何に失望したのか。私にだろう。私はそこまで弱くないと、大口をたたいたこともあるくせに、今私は害された。そんな私に失望したのか。
走り去ったアヤカシを追いかけられなかった。心情的にも物理的にも。どうせ、本気で走るアヤカシにトウコが追いつくことはできない。
アヤカシは、もうトウコのところに来ないのだろうか?
もう、会えない?話せない?
一緒にパンケーキを作ってくれない?
「トウコちゃん!」
突然、レオに抱きしめられた。そして、頭をよしよしと撫でられる。
「辛かったな。でも、もう大丈夫だ。俺が守ってやるから!」
「・・・」
トウコは、不快に思ったがレオの抱擁を解く気になれなかった。今は、何もしたくない。
面倒。何もかも面倒。
昨日は必死にこいつを回避したのに回避できなかった。それだけならまだしも、面倒ごとに巻き込まれた。
今日は、朝来たら机に落書きをされていて、困った。どう反応すればいいかわからなくて、とりあえず立ち尽くしていた。
そこへ、アヤカシが来て、話したかったけど注目されているのはわかっていたので、何も反応を返せなかった。
最後の機会だったかもしれないのに。何も話せなかった。
無気力だったトウコの目に、憎悪が宿る。
こいつのせいだ。
私は、こいつのせいで、アヤカシとの時間を奪われた。




