1 人間でなくなった日
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ここは、大きな山。人はめったに入らず、不可思議な現象が起きると人に噂される山だ。
その山のひときわ大きい木に、アヤカシはいた。長い、腰まである白い髪は、遠くからでもきらきらと光り目立つ。しかし、そのアヤカシの姿に驚く人間はいなかった。
彼らは、普通の人間には見えない。それに、この山には人が来ないのだから。
「今日は天気がいいな。昨日はひどい嵐だったからか・・・」
アヤカシは、独り言をぶつぶつと言っていた。これは彼の習慣だ。話相手のいない彼は、こうでもしないと話し方を忘れてしまうような気がして、思ったことを話すようにしているのだ。
「にしても、つまらないな。今日も特に変わったこともないし・・・ん?」
アヤカシの血のように赤い瞳が何かをとらえた。
それは、木々に引っかかった白い布・・・ハンカチだった。
「あれはなんだ?とにかく行ってみるか。」
ふわりと降り立った木から、引っかかっていたハンカチを手に取る。
「ハンカチか?人間の持ち物だな。」
人間の持ち物と分かり、辺りを見回したアヤカシはすぐにそれを見つけた。
ふわりと今度は地上に降り立つ。
降り立ったすぐ目の前に、少女が一人横たわっていた。
「人の子か。こんなところで寝ていては、死んでしまうのではないか?」
アヤカシは、少女の肩を揺さぶった。
「おい。おい。お前・・・」
「ん・・・」
アヤカシの声に反応し、少女はゆっくりと目を開けた。黒髪の間からのぞくのは、黒い瞳と色の抜けたような白い瞳。その目が、アヤカシをとらえる。
「だれ?」
「俺は、アヤカシだ。お前こそ何者だ?」
「私は・・・トウコ。」
笑いも怯えもせずにトウコはそう答えた。
「トウコ・・・これはお前のか?」
アヤカシはハンカチをトウコに差し出した。それを目にしたトウコは、ハンカチを奪い取る。その行動にアヤカシは目を丸くする。
「なんだ?取られるかと思ったのか?俺はそんな布切れに興味はないぞ。」
「・・・」
「しかし、礼くらい言ったらどうだ?そのハンカチを届けてやったこともそうだが、起こしてやったことも感謝するべきことだぞ?」
「・・・」
トウコは少し考えるしぐさをしてから、「ありがとう」と頭を下げた。
アヤカシは満足そうにうなずき、トウコの頭を撫でた。
「素直な奴は嫌いじゃない。そうだ、何かの縁だ、家まで送ってやろう。」
アヤカシは、トウコの返事もまたずトウコを横わきに抱え、木の上へとひとっ飛びでのる。
「お前・・・家はどこだ?」
トウコは特に反抗することもなく、家の場所をアヤカシに教えた。
トウコの案内に従い、一つの民家の屋根に降り立ったアヤカシは、トウコに顔を向けた。
「お前、いい家に住んでいるな。」
「あげないよ。」
「褒めただけだ。俺は家などいらないしな。」
トウコの家は、他の民家に比べ大きく、庭も家の3倍の面積はあった。家は、昔ながらといった感じで、アヤカシにしても居心地がよさそうと感じるものだった。アヤカシにとって、昨今のビルとかコンクリート製の建物は好かない。木製の建物で、なるべく建ててから年月の経ったものを好む。別に家が必要なわけではないので、欲しいとは思わないが。
カラカラと、玄関の引き戸を開ける音がして、アヤカシとトウコはそこに目をやり驚いた。
「トウコ、外食なんて久しぶりよね。何を食べたい?」
「ステーキ。」
出てきたのは、黒髪の少女とその母親と思われる中年の女性。女性は黒髪の少女をトウコと呼んだ。アヤカシは、その少女と自分の隣にいるトウコを見比べる。
隣にいるトウコは、黒髪を肩に当たらない程度に伸ばし、目は右が黒で左が白。女性の隣にいる少女も同じく、黒髪で髪型も同じ。違うのは瞳で、彼女は両方黒い瞳だった。
「あれは・・・」
アヤカシはもっとよく見るために目を細め、少女を観察した。
「誰なの?」
トウコはすっと瞳を細め、同じ顔の少女を憎むように見た。アヤカシの前で、初めてトウコの無表情が崩れた瞬間だった。
そして、トウコは走り出した。
「待て、ここは屋根の上だぞ!?」
アヤカシはすばやくトウコの腕をつかみ、トウコを止めた。
「なら・・・おろして。」
「降りて、どうするつもりだ?」
「まず、ぶん殴る。」
「やめておけ。」
アヤカシはあきれたようで、ため息をついた。
「あれは、コトメ・・・妖だ。」
そう答えたアヤカシは、トウコをじっくりと観察して納得したようだった。
「何?」
「お前、死んでいたんだな。気づかなかった。」
トウコは目を見開いてアヤカシを見て、次に自分の体を眺めた。特に変わりのない体。足もあるし、透けてなどいない。だが、トウコが首を傾げたその時、目の前の光景が変わった。
他にもゲームを小説化した「門番天使と悲劇の少女」を書いています。
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