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底辺浪人動画投稿者だが銀河旅行抽選に当選した

作者: 久遠

「昨日の動画の再生数は……55か」


 大学受験に失敗し、浪人をしたにもかかわらずまだ大丈夫と高をくくっていたらあっという間に試験日の到来、二度目の受験失敗を味わった。今年こそはと思って机にかじりついた2年目は成績が上がったが足切りを喰らってしまった。


「弟はまだ3年生の春だというのにお前の志望校にすでにB判定が出ているんだぞ!」

「もう浪人するお金も出しません! 大学に行きたければ自分で何とかしなさい!」



 当然だが親はこういう反応だった。でもお金の工面は何とかしなければならない、ただ、時間が拘束されるアルバイトはしたくない。ならばこの状況を生かしつつ、毎日自分を発信することでモチベーションにつなげられるなら一石二鳥なのでは!?という今にして思えばえらく短絡的な発想で動画投稿をし、広告収入を得ようという甘っちょろい考えに至ったのだ。


 ただ、結局のところ両方とも中途半端かそれ以下になってしまった。勉強している最中も再生数が気になって気になって無駄な更新をどんどんしてしまう。そしてとうとう初夏になってしまったのにロクな成果も出ずに広告収入なんて全く期待できない中、ある日無謀にも生放送をすることになった。


 こうなったらリアルタイムで俺の魅力を伝えるしかないという半ば自暴自棄な発想からだった。


「~そうなんですよぉ、俺だってね高2のころは数学で全国偏差値……」


(リアルタイム視聴者は4人か…… 完全に爆タヒって感じだな)


「それで、ははは、あれ? ちょっと待ってください、メールですね」


『仕込み乙』

『つまんね』

『読み上げろ』


 心無い言葉の中に読み上げてメッセージがあったので読み上げてみる。


「えーと、どれどれ

《○○様、この度は××××株識会社が主催する銀河系2白3目の旅行に当選致しました。ひいては……》」


『は?』

『は?』

『漢字おかしくね、迷惑メールでしょ』


 まあ誰がどう見ても怪しいメールだわな。


『「はい」って選択しろ』

『電話凸放送きたーーー!!』

『銀河系の直径知らんのか』

『←どこの銀河系とは言っていない 1kmくらいのがあるかもしれない』


 だが、この迷惑メールを楽しんでいる節もある。視聴者も10人超えた。乗るしかない、このビッグウェーブに。


「では、「はい」を選択してみよーと思いまーす」


『え?』

『何々?』

『CG?』

『は?』


 それらの言葉を追う前に俺は光の中に消えていった。画面に映った自分の姿、その後ろに突如ドアのようなものが出現して俺は中に連れていかれたのを確認した。


『ねえ、○○どうしたの?』

『わかった、これ実は生放送じゃないんだ』

『ちょっと待って、個人情報特定してみる』

『←こっわ』

『録画した人いる~?』



    *



「やあはじめまして、私は~~(聞き取れない発音)だ」


「はじめまして、○○です……ここは……」


「ん? もちろん宇宙船だよ」


「いやいやいやいやいやいや、ありえないでしょ、誘拐ですか?」


「あれーおかしいな。君は旅行に同意したんじゃないのかね?」


「えっ? 同意ってあのメール?」


「そうに決まってるじゃないか、もうキャンセルできないよ」


「は!? それってどういう……」


「外を見てみなさい」


 すると無機質な部屋に思えた場所が急に暗くなる、というよりこれはドキュメンタリーとかで見たような宇宙?


「あーちょっと遅かったか、本当は離れていく地球を見せたかったんだけどね、ほらあそこに見えるのが太陽、そして木星だ」


「だまされないぞ! これは映像だろ!?」


「困ったことを言うな~ サービスの一環だ。ちょっとこれを着なさい」


 なにやらコートのようなものを渡された。


「君達の星のファッションに合わせたものだ、ついてきなさい」


 しぶしぶ後に続く。


「あの、仮にこれが宇宙船だとしたらあなたは何者ですか? どう見てもニンゲンですよね?」


「私達の正体か……、まあ本来は電気の塊だがそれを君達にとって分かりやすい形に認識させ直しているだけだ」


「え?」


「この旅行はまあ私達の住む世界の娯楽だ娯楽。こうやって異星人にどっきりを仕掛てその反応をお届けする人気番組なんだ」


 仮にこの人達が超文明を持っているとして愉悦の感性は俺達とは変わらないってことなのか!? いやいやそんなことを考えている場合じゃない。ここから抜け出さないと……


「あー、出口を探しても無駄だよ、どっちみち地球時間で64時間は拘束するって契約だろ?」


「な……!?」


「なんで考えが分かったのかって? 君達の思考というのはちょっと特殊な素粒子と電気信号の塊によって形成されているようだがそれくらいならリアルタイムで回析可能だ。まあさすがに魂までは干渉できないし翻訳も難しめだからコツはいるがね」


「そんな!? プライバシーの侵害だ!」


「私にはそちらの惑星のルールは適用されないよ。それに君が疑問に思ったことをすぐに解説するのにこの方が便利だ。さてと、着いた。ここから一歩足を前に出して」


「……う!!」


「怖がることはない。君の命は私達の最高の技術を以て守るという絶対的なポリシーがある」


 もうどうにでもなれだ! 前に出ると……


(床が無い? いや? 浮いている!?)


「うん、ここからは重力粒子極性発生場は終わりだ。つまり君が今いるのは正真正銘、宇宙空間。本来なら宇宙の電磁波と放射線、太陽方面からの熱と反対側の冷気が襲うが全てそのコートが守ってくれている。もちろん真空対策もばっちり。クエーサー電磁波の直撃を受けても平気だ」


(え? 本当に……!?)


「どうやら信じ始めてくれたようだね、おっと!! 危ない危ない」


 俺の顔面手前でその人が手を広げて何かを掴んだ。


「ははは、空気が満ちていたら凄い音が鳴っていただろうね。これ、君に向かって飛んできたんだ」


 手を広げて見せてくれた。すると何やら鉄くずのようなものが握られていたのが分かった。


「危ないからそろそろ戻ろうか。これは、えーと、測定によると君達の星から23年ほど前に放たれたものだね。ダメだよ、こういうのをあたりかまわず捨てちゃ、今宇宙全体で問題になっているんだから。はい、返すよ、もともと君達のものだ」


 さっきの部屋に戻りながら何やら喋っているが半ば理解できずに耳から耳に通り過ぎてしまう。だってこんなの実感できないじゃないか。


 再び運航が開始された。


「そろそろ太陽系が見えなくなってきたな、今銀河の中心に向かって突っ切っているところだ」


 なんかどんどん明るくなっていく。さっきまでは殺風景だったのに。


「君達が普段見ているミルキーウェイの中だよ、ここは。」


 グゥゥゥゥ~~~~


 緊張感とは裏腹に俺の腹はどうやら正直らしい。


「そうか、君達有機生命体はエネルギー補給をするんだったな。ちょっと待ってくれ。えーと、地球の座標はここか、年代はっと…このデータをセットして、よし!」


 なにやら装置をいじりだした。


「すこし待ってくれ、もう大丈夫だ。行こう!」


 隣の部屋に向かうと信じられない光景が目に浮かぶ。高級和風旅館のような座敷にこれまた食べきれないほどの懐石料理が並んでいた。


「これって?」


「君の故郷の料理だよ。分子レベルで高級・栄養たっぷりとされる食事を用意した」


 この旅行、食事つきだったのか!!


「さあ、召し上がれ」


 だが、なかなか手につかない。


「安心してくれ、体に害はない。もしも何かあってもすぐに治療できる。言っただろ、この番組では命の保証はしっかりするって」


 恐る恐る食べてみると……


「うまい!!」


 なんだこれは!? 野菜は嫌いなのにうまみも風味もあるし一方でえぐみは感じない。アクセントの柑橘系の香りがスゥーッと鼻を抜ける。この桜エビとのハーモニーが何とも言えない。一口しかないのが惜しいくらいだがまだまだ品数はざっと50はある。


「よかった、気に入ったようだね、じゃあ食事が終わるまで解説するよ」


 生まれて初めて食べるような美味の数々に魅了されながらも宇宙の解説は聞き入ってしまった。


「……の銀河だね、あれは。そしてもうすぐ見えるよ! ほら来た! あたりが渦巻いて細く広がっているように見えるだろ? よく見ると実は君達の太陽系もあそこに見える。と言っても実際にあるわけではない。 空間がねじ曲がってそう見えるだけなんだ。 あそこに本来あるのはブラックホール、この銀河最大質量のものだ。 中心や底、と言ってもいいかわからないがその先は異次元につながっていて発生している熱がそこで……」


 気づけば食べる手を休めて宇宙のトリビアにどっぷりつかっていた。面白くて仕方がない。にわかに信じられない説明も出るが今はそういうものなんだと素直に受け入れたい。映像も地球人に合わせて用意してくれたんだろう。本来はとてつもなく高度と思える数式がスゥーッと頭の中に入ってきて理解できる。


「じゃあもうそろそろ銀河の中心は終わりだね」


「ってことはもう旅行の4分の1は終わったってことですか? それなら案外あっという間だなー」


「何を言っているんだ? この銀河だけを探索するんじゃない。それにまだ全然そんな時間経っていないよ。今は3兆6千周期だから……えーとあの時止まっていた時間を合わせてもまだ君の感覚で言うところの1時間ほどだ、出発してから」


「え?」


「そんなはずは無いって? もう少し先人の偉大な研究を勉強するべきだね」


 何か言いたくてもなぜか言えない。


「いや、待てよそういえばさっきブラックホールの式、じゃなかったその前の時空の話で……」


「ふふふ、じゃあこれからもっとスピードを上げるよ!! 次の銀河まですぐだ」


 その後も今まで全くイメージしたことが無い光景とともに未知の知識とそれを理解するための解説を分かりやすく教えてくれた。時には惑星に不時着なんてことも。まあさすがにブラックホールは危険区域で立ち入り禁止だったが。


「あそこは30万太陽質量の水で満たされているプールのような空間だ、今から少しだけ泳いでみよう」


「ここが最果ての銀河だな。理論上最古の光を君達に届けている」


「あの星を見てごらん、知的生命体がいるだろう? 私達との友好惑星だ」


「ここはかつては揺らぎの中の過疎空間と呼ばれてはいたが実は全長約1.5光年の生物に分類される存在が闊歩かっぽしていることがわかった」


「よーし、折り返し地点。ここから先は宇宙の外に出てしまうがこの宇宙船だと突破は不可能だな。別宇宙用の特務航行宇宙船が必要だが予算不足で申し訳ないね」


「ふー、危なかった。何とか逃げ切れた。どうやらこの星の生態系は変わってしまったようだね。旅行会社に情報更新を促さないと」


「あれがこの宇宙の最大質量のブラックホール。非常に遠くにあるはずだが残念ながらこれ以上近づいたら危険だ」


 帰りは行きと道を変えて進んだ。だから、新しいものばかりだった。そのたびにやはりこちらの興味がそそられるような話を交えてくれる。





「名残惜しいが絶対時間がもう来てしまったね、ありがとう良い反応を撮ることができた」


 かなり長い間、この宇宙船で過ごしたと思ったが今になって自分が2泊3日の旅をしていたことを思い出した。最初は恐怖と混乱が非常に強かったが今は寂しさの方がずっと上だ。


「君の思っていることはよくわかる。みんなそういったことを思うんだ。でもこの別れはきっと君の力になる。力というのは心だ、今回君が心揺さぶられた経験をどうか、どうかわずかでいいんだ、ほんの少しでもどこかで思い出してくれ」


 そして、俺の頭に手を近づけると視界が暗くなった。


「知識は消させてもらうよ。でも完全とまではいかないんだ……魂までは……」


 やがて意識も遠のく。



     *

 


 地球に戻った俺の知識は最強だった。数学? フン、新しい理論構築もできてしまうな!


 ふむふむ、これが俺の志望大学の過去問か。


 なんだこれは…!? 簡単すぎる!! 余裕だ!! これならば……


 そうして迎えたセンター試験は満点、そして二次試験の国語はまあ努力もあって満点、英語と化学はある程度余裕をもって満点、物理と数学はもう最初から答えが見えているようにエレガントな解法連発で余裕過ぎる満点。


 合格発表当日、全体未聞史上最高点全教科満点の入学者が出たとのニュースが流れた。しかも、解き方がフィールズ&ノーベル物理学賞クラスとのこと。


 それがすなわち俺!! 


 これで俺の天才人生の幕開けだ!!!


 冬が過ぎ、桜舞い散る景色の中、俺の光輝く人生が目に浮かんだ。



     *



 ジリリリリリリリリリリリリ


(眩しい、暑い)


 朝から暑い7月上旬、目が覚める。

 

 なんだ……夢か……


 そりゃそうだよな。そんなうまい話あるわけない、でもその前になんかすっごく壮大な夢を見た気がしたがなんだっけ?


「勉強するか、まずは物理」


(あー難しいなーー、ん? 待てよこの3つの球の内、一つに俺が乗っていると考えると物体Aと物体Bの見た目の加速度と位置は……)


 スラスラ問題が解ける。答えを見る。ばっちり正解だった。


(でも何でだ? 前までこんな問題解けないはずだったんだが)


 物理の後は数学だ。


(こんな数式の解が存在する条件なんて知らねーよ、場合分け? でもとんでもなくめんどくさい区分が必要だぞ)


 しばらく考える。でも少ししてなんだか頭の中にもっと難しい式が浮かんでしまう。どういうことだ、でもこれに比べたらこんな式なんて…… いやいやいや、そんなわけ……、あれ、そういえばなんか座標で面白い話があったが何だったかな、うーん、


(あっ、座標!! そうだ!!)


(左式と右式に分けて次元を加える、つまりy座標込みで考えれば……こっちは楕円、こっちは一次関数になる。楕円は三角関数で表したほうがいいな、このままだと計算がややこしくなるから中心の座標移動をして……)


「できたーーーーー!!!」


「あんたうるさい!! もうお昼ご飯よ!!」


「わかった!」


「それでどうなの、勉強の方は?」


「なんだかいける気がする!」


「またそうやって……、まあいいわ、結果を見せて頂戴」


 そうだ、結果を見せなければならない。だから俺も食べ終わったら再び机につこう。もう動画投稿はやめだ。お年玉をぎりぎり切り崩しながら勉強一本に集中する。


 そして、午後も順調に解き終わった。まずは今日だけでもしっかりと頑張ろう。


 今までは苦痛だった勉強が今はなぜかワクワクにつながる。そしてなぜか漠然と知りたい、たどり着きたい場所が思い浮かぶ。




(あれ? これはなんだ?)


 さっきまで気づかなかったが机の上に変な金属の欠片が置いてある。


(何か壊れたのかな? うーん、なんだろう。あれ、でもなんか懐かしいような楽しいような……)


「ま、いっか続き続き」




    *




「なんか広告収入が凄いことになっているんだが……」


 まあこれで受験日まで何とかなるな。アカウントはそのままで休止メッセージと。




    *




〈以上!! ●●●銀河系の辺境の恒星系の知的生命体、ニンゲンの反応でした!! いかがだったでしょうか、ご同行して?〉


〈いやーまあなかなか興味深い生き物でしたよ〉


〈それは種族として?〉


〈それもありますが、彼、あ、オスという分類なんで「彼」ですが本人についてもです。ひょっとしたら今度は向こうから私達に出会いに来てくれるかもしれませんね〉

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