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知れば知るほど意味が分からない。

 私を攫った犯人――ヴァインについてまとめるとこうなる。

 平民。ガラス職人の息子。私より二歳年上。栗色の髪を持つ何処にでもいるような少年。

 ただし、魔法の腕は我が国の英雄を陵駕し、召喚獣を数えきれないほど従えている。加えて王女である私の事を誘拐している。

 なんだろう、この矛盾したものを二つ抱えているような状況は。

 普通に考えれば平民は王族と顔を合わせる事などできない。そもそも、王宮に侵入しようとでもしたら処刑されるのがオチだろう。ガラス職人として生きているというのに、私の事を攫えるというのも意味が分からない。普通なら攫えない。というか、ヴァインには”普通”という言葉が当てはまらない。

 彼は少しだけ接している私の目から見てみてもおかしい。明らかにおかしい。こんなにおかしい存在が世の中に居るのかと理解がおいつかないぐらいにおかしい。

 本当にどういうことなのだろうか。本当に何故私を攫ったのか。何でそれだけの力を持ち合わせているのか。

 ヴァインは、私を攫った理由をちゃんと教えてくれない。だからこそ、ヴァイン自身の事を知ろうと思った。ヴァインという存在の事を知っていけば何かしら手がかりが見つかるのではないかと期待していたから。だけれども——知っても分からない。

 なんなのだろう。

 どうしてなのだろう。

 疑問ばかりが湧いてくる。

 本当に思考が停止するぐらいに、ヴァインという存在はおかしくて。おかしいので、恐ろしい存在だと思えるほどなのに——それでも怖さを感じない。誘拐犯相手に恐怖を感じないで、寧ろもっと知ってみたいと好奇心を刺激されているだなんて、私も感覚が麻痺していると思う。

 でも、なんだろう、此処でずっと過ごしているわけにはいかない。捕らわれのままで終わるわけにはいかないという気持ちは確かにある。

 だけれども、このまま誘拐されたまま、囚われの小鳥のように一生を終えても楽しいのではないか。そんな恐ろしい矛盾した感情が湧いてくるぐらい、此処は心地が良い。私にとって優しい世界が広がっている。此処には私を害するものは何もない。ただ穏やかな日々が送れる。……まぁ、誰ともかかわることのない日々だけれども。

 ヴァインという強大な力を持っている存在を前に、力づくで外に出るというのはまず無理だ。ヴァインをどうにかして外に出るのは無理なのだから、この生活から抜け出す事を諦めた方がずっと楽だ。悩む事はなくて済む。そういう甘い誘惑が私の頭の中には確かにある。だけど、やはり、このままここでこの生活を享受し続けるのは問題である。私はこのままではいけない。――私は王女なのだ。第三王女とはいえ、この国の王女。私の行動一つで、誰かの人生が左右される。そんな立場だ。

 ……というか、私が攫われた責任で兵士たちがどうなっているかとか考えるとこのままでいいわけがない。

 やはり、ヴァインの事をもっと知って、どうにか外に出なければ。

 そう思った私はヴァインがまたやってきた時に沢山質問をした。

「ヴァインは、召喚獣達とはどうやって出会ったの?」

「普通に呼び出しました」

「……どうやって召喚陣などを学んだのかしら?」

 もし正式にヴァインが召喚獣や魔法の事を国で学んでいたのならば、こんな存在が目立たないはずがない。間違いなく、私の耳にも入ってくる。それが入ってきていないという事は——正式には学んでいない。

なら、どうやって?

 そう疑問を口にした私に、またヴァインは驚くべき事を言う。

「図書館で読みました」

「図書館で読んだ?」

「はい。図書館でそういう資料を読んで、それでこうやってみたら出来たというか」

 ……普通はそんなに簡単に出来るものではない。そもそも召喚獣を呼び出す行為は危険な行為なのだから、そんなもの図書館の本で見よう見まねでやってみたら普通なら失敗か暴走する。それを成功させたと……その時点でなんて規格外なのだろうか。

 そもそも図書館が平民に解放されているとはいえ、平民だと文字を読めないものもそれなりに居るというのに。

 そもそもガラス職人の息子として生まれた目の前の少年は、どうして召喚獣について学ぼうと思ったのだろうか。

「ねぇ、ヴァイン。そもそもなのだけど、貴方はどうして召喚獣を従えたいと思ったの? ガラス職人として生きていく予定ならばそういうものを学ぶ必要はないでしょう?」

 私がそう口にすれば、ヴァインは何を考えたのか急に顔を赤くして、「ひ、秘密です」と一瞬で消えてしまった。

 ……これも駄目な質問なのね。何で召喚獣と契約したか、そして何故私を攫ったか。その二つに関しては逃げると。……もしかして私を攫った事と関係しているのかしら。

 でもやっぱり分からない。

 知れば知るほどヴァインという存在は訳が分からなくて、どうして私が攫われたのか分からない。




 

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