ガラス職人って、なんなんだろう……(困惑)。
美しいガラス細工。
青色の色のついた魚のもの。
二種類の色の重なった小さな入れ物のようなもの。
貝殻を模したようなもの。
そういう沢山のガラス細工が、今、私の目の前にある。
何故、こんなに多くあるのかと言えば、ヴァインが私の元へと持ってきているからだ。
何故だが、ガラス細工を私にあげようという気になったのか、渡してくる。
「……どうして、ガラスの職人をしているの?」
「……実家が、そうだからです」
意味が分からない。
実家がどうのこうとかいう前に、明らかにヴァインの実力はおかしい。ヴァインは私が少しだけ接しただけでも、召喚獣達を多く従えていて、魔法をあれだけ使えて——、それなのに、ガラス職人をしているってどういう事だろうか。
これだけの力を持ち合わせていれば私は、どんな選択肢をするだろうか。私は王女という肩書を持っているだけの娘でしかない。魔法を使える能力などなく、ただ見た目だけは亡き母親から受け継いでいるだけの王女だ。でももし魔法が使えたら——私は今よりももっと未来に対して希望を抱けたのではないかと思う。
魔法が使えたのならば、私の価値は上がる。
もしヴァインのように召喚獣を従えていて、魔法が使えていたら私はもっとこの国の中で重要な位置にたっただろう。そして魔法師として名を高める事を目指したかもしれない。
……というか、そもそもの話だけれど、平民であろうとも魔力を持っていれば大体がきちんと感知される。というのも強い魔力を持っていたら大体が制御できずに暴発するからだ。何かしらの話で暴発を起こして、その結果、その存在が感知される。大きな魔力を持つほど、大きな暴走を起こす。その暴走で魔力もちの子供が居た村が消滅することさえあるほどだ。
ヴァインほどに魔法が使えるのならば、暴走をしたら村が滅ぶどころではなかったかもしれない。ヴァインは国に感知されていないのだと思う。国が把握していれば家がガラス職人だろうとも、ガラス職人をやらせることなどないのだから。そんなものを作る暇があったらその魔法の力を存分に使うようにとなるだろうから。
本当に何で、ガラスの職人をしているのだろうか。
どうしてそれだけの力を持ちながらそんな選択肢を選んだのだろうか。
私は、目の前の存在に対して理解が追い付かない。でも、それと同時に王女として過ごして様々な人間と関わってきた私でも接したことのないような面白い存在であるヴァインに興味と好奇心を抱いた。
「ねぇ、ヴァイン。貴方は普段、どういう風に過ごしているの?」
何故、私を攫ったのか。私を、攫って何をしたいのか。それは聞いても現状答えてくれないのは分かっているので、私は好奇心を満たすために問いかける。
私は何故自分を攫ったのかを知るための手段として、ヴァイン自身の事を知ろうとしていた。けれどヴァインと話しているとヴァイン自身にも興味を抱いてしまった。
こういう状況で、誘拐犯に対して興味を抱いて、誘拐犯を知りたいと思うなんて私も中々おかしいなと思うけれど焦っていても状況は変わらないのだから仕方がない。
「俺は……普段はガラス製品を作って、あとは、店番に立ったりしてます。両親や従業員もいるのでずっと店にいるわけではないけれど……」
話を聞いた所、本当にガラス職人として生きているらしい。朝起きて、工房で作品を作ったり、両親から受け継いだお店で店番をしたり——、何処にでもいる職人の生活をしているんだとか。
ちなみに両親もまだ現役なので、家族三人と従業員でお店は回されているそうだ。……普通、息子がこんなに召喚獣を従えていたり、魔法を使えたりするのを知っていれば親なら絶対に報告するだろう。これだけの力を持ち合わせているのを知った上で、ガラス職人という枠組みの中に留めておこうなんて普通は思わない。
……となると、ヴァインの両親はもしかしたらヴァインがこれだけ召喚獣を従えていたり、魔法を使える事を知らないのではないか。普通に考えれば息子がこれだけの事を出来る事を知らない事はおかしいのだけれども、ヴァインの話を聞いているとどうもそんな気がする。
それにしても普通にガラス職人として生活している一方で、王女である私を攫って閉じ込めているというのは色々とおかしいと思う。ヴァインの両親は私を息子が攫っていることも知らない気がする。
……本当にどういう状況なのかしらね。
しばらく会話を交わした後、ヴァインは仕事があるとかいって去って行った。
ヴァインはどうやら日常を普通に送っているらしい。日常を普通に送りながら、王女である私を攫って閉じ込めている。
……”ガラス職人です”と普通に答えていたところを見るに、ヴァインは召喚獣を従えて、魔法をあれだけ使えてもあくまで自分はガラス職人のつもりしかないらしい。
……ガラス職人って、なんだろう。
そんな風に私は呆然としてしまった。
そしてそんな様子の私の周りに当たり前のように存在するヴァインの召喚獣達は、私の事を面白そうに見ていた。