少しずつ交流を深めている。
私はヴァインの事を知ることから初めて見ようと決めた。
ヴァインが何を考えているのか現状さっぱり分からない。何を思って私を攫ったのかも。どうしてこれだけの力を持ち合わせているのかも。そういう所が分からなければ、この状況を打破する事は出来ない。というか、本当にどうして召喚獣を従えていて、転移の魔法まで使えるというのにもかかわらずに私を攫うという選択肢を取ったのであろうか。私を攫ったところで、どのようなメリットがヴァインにはあるのだろうか。
私はベッドの上に寝転がって、ただそんなことを考える。
ヴァインは今、傍に居ない。ヴァインは時々、こちらにやってくるけれど普段、どんな風に過ごしているのだろうか。ずっと私の側に居るわけではない。普段、どのように過ごしているかも分からない。
穏やかな監禁生活の中で、私が退屈だと口にすれば様々な退屈をなくすものが放り込まれる。最新の小説だったり、勉強道具だったり。沢山、時間をつぶすための物がここにはある。
……こういうものもどうやって手に入れているのかしら。それに私が好きな食べ物などもどうやって手に入れているのだろうか。簡単に手に入れられるほどのものではないと思うのだけれども……。普段、どういった仕事をしているのだろうか。平民だったとすれば、もう働いている年齢だと思うのだけど……。
そもそも普通に街で暮らしているのだろうか。そもそも私が捕えられているこの場所は、街中なのだろうか。ああ、もう分からない事だらけだ。だからこそ、知っていかなければならない。
ベッドの上で考え続けていたら、疲れてしまった。
なので私はそのまま眠った。こんな風に誘拐されている状況だというのに眠りにつく事が出来る自分に驚きだけど、とても快適な眠りだった。
目を開けた時、また、前のようにヴァインが私を覗いていた。
また、踵を返して去っていこうとするヴァインの手をつかんだ。ヴァインは、何故か顔を赤くした。……なんなのかしら。本当に、ヴァインは不思議だ。
「待ってヴァイン」
「う、腕、離して、ください」
「ああ、ごめんなさい。嫌だったのね」
「え、嫌とかではないですけど!」
やっぱりよくわからない。私が腕から手を離せば、ヴァインはほっとした顔をした。やっぱり私に腕をつかまれるのが嫌だったのではないかしら。本当に、ヴァインは不思議な存在だ。
私はベッドに座る。ヴァインはなぜか、私から少し離れた位置にまでいってこちらを見ている。やっぱり近づくのはなしらしい。
「ねぇ、ヴァイン、貴方の事を教えてくれる?」
それにしても、私がベッドに座っていて、ヴァインが立って離れているってなんだか落ち着かないわ。私よりも圧倒的に強い力を持っていて、それでいて私の命なんて一瞬で奪えるようなそんな力を持っている存在なのにって。
不思議と怖さを感じないのは、ヴァインがこういう態度だからというのもあると思う。どうしてこんなにも強いのに、力を持っているのに私の事を恐る恐る見ているのだろうか。本当にどうして、私みたいな側妃の娘でしかない、王女の中でも一番身分の低い私を攫ったのだろうか。
ヴァインならば攫おうと思えばお姉様たちや、もしかしたら王太子であるお兄様だって攫えたかもしれないのに。
「ヴァイン、貴方は普段、何をしているの?」
「……えっと、ガラスで、色々作ってます」
「はい?」
案外簡単に答えてくれたけれども意味が分からない。ガラスで色々作っている? というか、普段そういうのを仕事にしているということ? これだけ、召喚獣達を従えていて、魔法が使えるのに?
そんな風に私が混乱するのは当然だった。
そもそも、何でそうなるのと思ってしまう。
召喚獣を従え、魔法を使えて——それなのに、どうして、職人? とそんな風に頭が追い付かないのは当然だろう。
「あ、そうだ! ナティ様、ちょっと待ってくださいね!!」
私が固まっている間に、ヴァインはそう言って一旦去って行ってしまった。
私は頭が追い付かないままだ。
意味が分からない。召喚獣と魔法。それだけあれば、英雄にでも何でもなれるのだ。何でも出来るのだ。それだけの力を彼は持っているのだ。
それなのに、何故?
理解が出来なくて、時折頭がフリーズしていれば、気づけばそれなりに時間が経っていたようで、ヴァインが戻ってきた。
手には、ガラス細工の置物を持っていた。
精密に作られた美しいガラス細工。モデルは小鳥だ。
「ナティ様、これをあげます」
「……これは、ヴァインが?」
「はい」
ヴァインはそう言って、魔法でその置物を私の方へ持ってくる。やっぱり近づいてこないらしい。近くで見ると、掌サイズのその置物は細かい細工が多く、とても綺麗だった。
「貴方は、魔法だけじゃなくて、こういうのも凄いのね」
思わず凄いと感嘆の声を漏らして笑えば、何故か、私の笑みを見たヴァインは「そ、そんなにすごくないです!」と言いながら逃げて行ってしまった。
なんでかしら。