犯人に会いたいと叫んでみた。
私よりも年下の少年が、私を攫った。
私よりも年下の少年が、召喚獣を従えている。
――平民にしか見えない、普通の少年だった。
なのに、私を攫った。王女を攫うなどといった大きな出来事を起こした者があんな少年。
そもそもあんな少年が召喚獣を従えているなどという情報はこちらには入ってきていない。王女である私も知らないけれど、そんな力を持っている少年。人知れず力を蓄えていたかもしれない少年なんて、あまりにも危険すぎる。
そんな存在がどうして私を攫ったの?
私を攫ったところでどうしたいのだろうか。お父様たちの事を私を攫って何か交渉をしているのだろうか。ああもう分からない。あれだけ平凡そうで、何も起こさなそうな少年がそんなことを起こす? そもそも何のために?
犯人に会う事が出来れば、何を考えているのか、何をしようとしているのかもっと見えてくるものだと思っていたのに。それが見えてこないなんて。寧ろ困惑してしまう。
そもそも、私と目があったら逃げて行ったのってどういうことなの? 誘拐犯だっていうのだったらもっと私に対して何かないのかしら。本当に意味が分からなさすぎる。
「……ねぇ、貴方達の主は何を考えているの?」
『とても単純な話だぞー』
そんな風にいつも傍に居る赤い鳥は言う。単純な話? もうどういう事なのだろうか。というか、姿はもう見られたのだから出てきていいのでは。
そんな風に悶々としてしまう。
でも一先ず、誘拐犯の姿を確認できただけでも前よりは進歩していると考えるべき? そうね、姿が見えない誘拐犯よりも、少年の姿をしていると把握出来ている方がまだ良いけれども。でも何の目的なのかさっぱり分からないのは問題だわ。
正直、拍子抜けしてしまった。どんな存在だろうかと、疑問だったから。
あの少年の事をもっと知る事が出来たら、私はこの捕えられている状況からどうにか抜け出す事が出来るだろうか。
できれば、召喚獣をこれだけ従えているあの少年を敵に回す事なく、この状況からの脱出が望ましい。だって敵対したならどっちにしろ、我が王国は詰んでしまう。
そのため、私はどうにかあの少年から目的を聞きだし、この状況から抜け出すための手がかりをてにしなければならない。
――次にあの少年を見かけたら、今度は呆然となんかしないで、ちゃんと色々聞き出すんだから。
と、決意したのは良いものの——。
「……あの少年、全然来ないわ」
あの少年は、全然姿を現さない。あの少年が姿を現したのならば、私は……幾らでも話しかけようと思ったのに。なのに出てこない。
これだけ私好みのものをそろえている相手なのだから、私に悪感情を抱いているというのはないと思うのだけれども……。
この部屋から出る事は出来ない。自分から会いに行くことは出来ないのだから、あちらから会いに来てもらえないとあの少年に会う事は出来ないわ。それに名前さえも分からないもの。名前ぐらい知らないと呼ぶことも出来ない。そもそも予防としたら来てくれるのかしら。
どうしよう……と思わず悶々としてしまう。
「ねぇ、貴方達の主はどうやったら出てくるのかしら?」
『待っていてもそのうち出てくると思う』
「いえ、そのうちじゃなくて今すぐ会うにはどうすればいいの?」
『ナティ様が会いたいって言いつづければいいんじゃないか?』
「え、何よ、それ」
『主は恥ずかしがり屋だけど、行動的だからなー。この会話も聞いているだろうし』
正直、この召喚獣が何を言っているのだろうかという気分になる。恥ずかしがり屋だけど行動的? というか、それって……私の前に現れないのはそういう性格なためなだけとか言わないわよね? いや、でも単純にと言っていたから、まさか本当にそれが理由で出てこない?
……いっその事、話したいと叫べばいい話なのかな。これ、私が叫んで何も反応がなかったらただの変な人にしかならないけど、まぁ、いいわ。どうせここには召喚獣しかいないのだから、召喚獣達に変な人だと思われるだけだもの……。行動しなければどうにもならないわ。このまま、ずっととらわれの身でいいのならばこれでいいのかもしれないけれど——、私はこのままとらわれの身であることを望んでいない。
あと、あの少年の事をちゃんと知りたいという好奇心もある。だからこそ——私はベッドから身体を起こす。
「私……ちょっと叫ぶから」
『ん? 何を?」
「貴方達の主が出てくるように」
私は恥ずかしいからそんな前置きを召喚獣達に言った後、
「誘拐犯さん! 私は貴方と話したい! だから、姿を現して欲しい!」
私はそんな風に叫ぶのだった。