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出てきた少年が無言だったので、近づいてみる。

「……」

 困ったような顔をして出てきたヴァインは、無言だった。

 私が泣き真似をしていたのに気づいて、少しだけ距離を置いている。そしてそこから、私のことをじっと見つめている。

 窓もない密室の中で、向かい合う私達。

 私は、ヴァインが口を開くのを待っていた。あれだけヴァインに、ヴァインの言葉で伝えて欲しいと告げたのだから、ヴァインの言葉で伝えてくれるだろうと期待したから。だけれど、ヴァインは何も言わない。ただ、何を言ったらいいか分からないといった表情だ。

 私はじっとヴァインの事を見据える。ヴァインは、口を開かない。あまりにも口を開かないので、痺れを切らして私は「ヴァイン」とその名を呼んだ。

「は、はい」

 ヴァインはようやく返事の言葉を口にする。

 ようやくおずおずとでも私に返事をしてくれた、と私はそれだけで嬉しくなる。何だか懐いてくれないペットと格闘しているようなそんな気分になってしまう。

 何を言ったらヴァインは、私の知りたい言葉を言ってくれるだろうか。悶々と考えてしまうけれど、ヴァイン相手だとそんな風に考えないほうがいい気がする。もっと単純に、ただ思っている事を言う事。その方がヴァインの心に響くと思った。

 だから、私はヴァインの目をじっと見て言う。

「ねぇ、ヴァイン。私はヴァインの事を知りたいの。だから言ってもらっていい? 私は言葉にしてもらわないと、分からないの。その……ヴァインが私の事を好いているのは分かったけど……って、ヴァイン、逃げないで! 逃げたら泣くわよ!!」

 恥ずかしいのか、また逃亡しようとしたヴァインに慌てて叫べば、ヴァインが逃亡を断念した。顔は赤い。やはり、恥ずかしがっているようだ。

 こんな状況で思う事ではないかもしれないけれど、顔を赤くして、逃げたいけど逃げられないみたいな状況のヴァインが可愛いなぁと思ってしまった。

「ヴァイン、私は貴方の事が、その、嫌いじゃないわ。誘拐犯に対してそんな事を思うのは間違っていると思うけれど、貴方の事を嫌いじゃないの。寧ろ、ヴァインが私を好いていてくれているの、嬉しいの」

 嬉しいと口にしたら、ヴァインが両手で赤くした顔を隠しながら、指の合間からこっちを見ていた。……とてつもない力を持っているのにそんな態度をするなんて、ギャップがすごいと思った。

「だから、教えて。私の事をどう思っているのか」

 私はそう言いながら、ヴァインに近づく。

 ヴァインは、逃げない。

「何故、私の事を攫ったのか」

 私はまた一歩、近づく。

「私を攫って何をしたかったのか」

 私が距離を詰めても、ヴァインは固まったまま。相変わらず顔を赤くしている。

「ねぇ、ヴァイン」

 手が届く距離まで近づいた。

 ヴァインが逃げなくて、私は安心している。

 手を伸ばす。ヴァインは後ずさるけれど、私は逃がさない。

 何だか、不思議な状況だわ。誘拐犯のヴァインを、攫われた私が自ら手を伸ばすなんて。

 でも何だかこんな状況を私は楽しんでいる。ヴァインの反応が面白くて、ヴァインが何て答えるんだろうって、こんな場面でわくわくしている。

「私ね、ヴァインの事を、ちゃんと知りたいの。ヴァインの口から、きちんと言葉で聞きたいの。ねぇ、ヴァイン。だから、教えて」

 ヴァインの頬に手が触れる。私より少しだけ背が高いヴァインは、私を見下ろして、顔を真っ赤にしたままだ。

「……」

 しばらく、ヴァインは固まったまま無言だった。私はじっと見つめる。

 私の粘り勝ちなのか、じっと見つめていたらようやくヴァインが口を開いた。

「……ナティ様」

 絞り出すような声だった。

 その絞り出すような声に、何だか、胸が締め付けられる気持ちになった。

 私の事を、特別に思っているからこその声なんだってわかるから……何だか、心が温かくなる。

「……俺は、ナティ様の事が好きです」

「……ええ」

 私の事をじっと見て、私を好きだといった。

 あれだけ逃げていた癖に、こういう時はちゃんと私の目を見ている。一切反らす事なく、私だけを、見てる。

 なんだか恥ずかしくなった。

 自分からヴァインの元へと近づいて、自分からヴァインに好きだと言ってほしいって言ったのに。

 それなのに、顔がぼっと赤くなっていくのが分かった。

「ナティ様……、俺の言葉、ナティ様にとって嫌かもしれないけど、聞いて、くれますか」

「……嫌じゃないから、言ってくれる?」

 ヴァインは、私から言ってほしいと言っているのに、不安を感じているようだった。私はそんなヴァインに安心させるかのように笑いかける。

 そうすれば、ヴァインがようやく口を開いた。



 私が知りたかったことが、ヴァインの口から語られる事となった。





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