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出てこないので、強く訴える。

 ヴァインが私の事を好きかもしれない、という事に気づいた私は次にヴァインが現れたら、もっと問い詰めようと思っていた。

 ヴァインに私の事を好きだって、認めさせたい。というか、本当に好きなのかちゃんと確認したいと思っている。

 そして私を好きなら、どうして攫ったまま放置しようとしていたのか聞きたかった。好きだというのならば、もっと分かりやすい行動は出来なかったのか。そもそも、何をやりたいのだろうか。それをきちんと知りたかった。

 それに私を好きだというのならば――、いつから好きなのかや、どういう所を好きでいてくれているのか、それを知りたかった。

 私はヴァインの事を沢山知りたい。知りたい事がやまほどある。ヴァインの事をもっと知りたい。そして、きちんと向き合いたいと思っている。

 ――向き合う事が出来れば、ここから出る事も出来る。……でもそれは私にとって、建前である。私は外に出たいという思いを抜きに、ヴァインの事を知りたいと思っている。それは紛れもない事実である。

 誘拐犯にこのような思いを抱えるのは一般的に考えておかしい、というのは私も十分に理解している。でも、私はヴァインの好意が嫌ではない。

 だからこそ、知りたい。


 なのに、ヴァインは私の元へ訪れなくなった。


 急に私の傍に来なくなったのは、召喚獣達曰く、『恥ずかしがっている』かららしい。しかし、私を誘拐するなんていう真似までしておいて、恥ずかしがっているとはどういう事だろうか。

 下手したら、もう二度とヴァインに会わないまま閉じ込められたまま――という事になってしまう可能性だってあるだろう。そう考えると、このまま待っているのはどうかと思う。ヴァインはおそらく、私が行動を起こさなければ……、また姿を現すにしてもずっと後だろう。

「ヴァイン……私はあなたに会いたいわ!」

 そう叫んだら、何処かで大きな音はしたが、ヴァインは出てこなかった。

 ……恥ずかしすぎて、出てこれないといった所なのかしら。会いたいわ、と虚空に向かって叫ぶのも中々恥ずかしいけれど、これだとダメなようだわ。もっと、もっと……強く訴えなければならないのか。

 それはそれでとても恥ずかしい。いや、もうヴァインより、私が恥ずかしい状況だと思うわ。でも、この状況の打破のためには……やるしかないわ。

 恥ずかしいとか、そういう事を言っていたら私は閉じ込められたまま。そしてヴァインはきっと出てこないもの。

 会いたい、でダメなら何を言えばいいかしら。何を告げれば、ヴァインは私の前に出てくれるだろうか。

「ヴァイン! 私は貴方の事をもっと知りたいの」

 反応がなくても、私は続ける。

「ヴァインが、私の事を好いていてくれているかもしれないと分かった時、私は全然嫌ではなかったわ。ヴァインが何を考えているのか私には分からないけれど、おそらく私の事が好きなんだろうというのはこの前ので分かったわ」

 自分の事が好きだと分かった。そんな気持ちを叫ばなければならないなんて、本当に恥ずかしい。今まで生きてきた中で一番恥ずかしいかもしれない。——私の顔は、きっと赤く染まってる。

「ねぇ、ヴァイン。私はね、貴方の口からちゃんとその言葉を聞きたい」

 一つ一つ、思っている事を虚空に叫ぶ。……これでヴァインに届いてなかったら恥ずかしいけれど、届いているって信じて一つ一つ、言葉を紡ぐしか私には出来ない。

「ねぇ、ヴァイン。私の事を攫ったのは、私の婚約が決まるかもしれないという話が出たから? 私の事が好きだから……、私の事を攫ったの?」

 誰かが聞いたら、自意識過剰としか言われないかもしれない言葉を私は言う。恐らく、この推測は間違っていないはず……。そう信じて、ヴァインに訴えかける。

「私はちゃんと、貴方の言葉でそれを聞きたい。ヴァインの口から、ヴァインの言葉で、きちんと伝えてほしい。私は、そして――ヴァインの言った言葉を受け止めたい」

 私の心からの言葉は、ヴァインに伝わっているだろうか。この、ヴァインの事を知りたいという気持ちがちゃんと響いているだろうか。

 届いて欲しい。この思いが。

「私には貴方が何を考えているのか、分からないの。言葉にしてもらわないと分からないの」

 色々な人を見てきた王女の私でも、ヴァインの思考は分からない。結局の所、人と人の関係なんて、言葉にしないと本当の意味で通じ合えないのかもしれない。

「だから、来て。ヴァイン。貴方が何を思っているのか、ちゃんと私に聞かせて」

 そこまで言い切っても、何処かで見ているような気配はあるのに出てこない。

「ねぇ……ヴァイン、貴方が出てきてくれないと、私は悲しくて泣いてしまうわ」

 ……最終手段として、目元に手を当てて泣くフリをしたら、ようやく困った顔をしたヴァインが出てきた。




 


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