本人に聞いたら逃亡された。
召喚獣達は私に対して答えを言う気がなかった。
それもあって、私は恥ずかしいけれど本人に向かって質問をする事にした。
―――私の事を、好きなのかと。
そんな恥ずかしい質問、今まで生きてきて一度だってしたことがない。
だからこそ、妙な緊張を孕んでいる。
「こんにちは、ナティ様」
その日も、仕事を終えたであろうヴァインは私の元へやってきた。とはいえ、相変わらず距離を開けている。ヴァインなら私の命を奪う事ぐらい簡単に出来るだろう。私から距離を置く必要なんてない。なのに距離を置くのは……、私の事を好きだからなのだろうか。好きな人に近づくのが恥ずかしいからなんていう理由なのだろうか。
「こんにちはヴァイン」
ヴァインは私を攫うだけ攫って、それ以上の行動を起こそうとはしない。
ヴァインは私をただ、攫いたかっただけ。攫うという行為自体がもしかしたら、目的だったのかもしれない。一国の王女を攫うだけ攫って、あとは何も行動を起こさないなんて……本当にヴァインは不思議な人だ。
「ねぇ、ヴァイン」
「な、なんですか」
ヴァインは私が話しかけると、やはり緊張した様子をその表情に見せている。
少し離れた所から、私の方を見ている。他の物なんて視界に入らないとでもいう風に、ただ私だけをじっと見ている。
「聞きたい事があるの」
「聞きたい事?」
いきなり問いかけるのが恥ずかしくて、中々切り出せない。こんな事を聞くなんて自意識過剰だと思われないだろうか。そんな思考に陥りながらも私は口を開いた。
「――私の事を、ヴァインは好きなの?」
そう問いかけた瞬間、ヴァインは固まった。人間って驚いた時にこんな風に固まる事が出来るのかと驚くぐらいに、硬直していた。
そして顔をみるみる赤くさせていった。
「――ヴァイン」
私が名を呼べば、ヴァインはなぜか、
「ご、ごめんなさい。ナティ様」
と謝罪をして、その場から消えていった。
また、逃げられてしまった。
残された私は、ヴァインが何故逃げたのか。ヴァインが何故謝ったのか。その事を考える。
正確な答えは口にしなかったけれど、ヴァインはやはり私の事を好きなのではないか。そう思うと、顔がぼっと赤くなった。
誰かから好意を向けられるというのは、慣れている。王女の私に嫌悪感を示す人は、……まぁ、側妃様達は向けているけれど、他はいない。でも何だろう、ヴァインが私を好きだと言う事を実感すると何だか嬉しいのだ。
だって、多分、ヴァインは独特の感覚を持ち合わせている。何でも出来てしまうぐらいの力を持ち合わせているのに。そんなヴァインが私を好いているかもしれない。
――私を、好きだから、私を、攫ったのかもしれない。
それを思うと、胸の奥が熱くなってくる。
私は、ヴァインが何故私を攫ったのだろうかって、ずっとずっと疑問だった。全然分からなかった。でも、もっと単純に考えてみれば――私を好きだから攫ったと考えてみれば……婚約が嫌だったから私を攫ったって、そう分かるから。でもヴァインは結局何をしたいのだろうか。
私を好きで攫った。……そこまでは、こう、理解出来ないけれど、納得は出来る。好きな人が誰かのものになりそうだから攫うって物語でもあるもの。……でもそうね、攫った後、無理やり私を物にするとか、そういうのはないのよね。攫って、何をしたいのだろうか。
ヴァインは私が会いたいと叫ぶまで私の前に出てこようとさえしてこなかった。そこから導き出される事はなんだろうか。
ヴァインに常識は通じない。ヴァインに普通の考えを求めてはいけない。
そう思うけれど、ヴァインは普通の感性も持っている。本当になんて難しい人なんだろうか。
王族として様々な人と関わってきた私も分からない。ひっそりと生きてきてもそれなりに色んな人と関わってきた。こんな価値の低い私でも利用しようとする人は少なからずいるから。
……でも、私にもヴァインの考えが分からない。
ヴァインがもっと分かりやすければ、私の事を好きかもしれないという答えを導き出すのにもそんなに時間がかからなかっただろうに。
でもそんなに分かりやすく、もし、強引にこられたらそれはそれで私はここまでヴァインに好感を抱かなかっただろう。
私の事をヴァインが好きだと仮定して、ヴァインは何をしたいのかという事よね。次にヴァインが私のもとへやってきたら、ヴァインに問いかけよう。もっと、何を感じているかを聞こう。何を考えているかを問いかけよう。
と、そんな風に思っていたのだけれども、それからヴァインは幾ら待っても私のもとへ来ない。
……私の前に姿を現す気はないらしい。召喚獣達が『恥ずかしがってる』とか言っていた。たまにこちらを見ているらしいけど、私は何処から見ているかさっぱり分からない。




