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考えすぎて頭が痛くなったら、寄ってきた。

 何故、ヴァインが攫ったのが私だったのだろうか。そもそもどうしてこれだけの力をもっておきながら私を攫うという選択を選んだのだろうか。私を攫わなくたって、ヴァインはきっとなんだって出来るのに。それなのに、どうして私だったのか。

 そう考えると考えれば考えるほど、訳が分からない。そして自分の価値のなさをより一層実感してしまう。そんな実感なんて私はしたくはないのに。

 色々な事を考えすぎてしまったのだろう。私は考えすぎて、具合が悪くなってしまった。答えが出ないことをひたすらに考えて具合が悪くなるなんて私は子供か何かだろうかと自分で自分に対して呆れてしまう。

 ベッドの上に横になる私の世話を召喚獣達がせっせとやいている。……人の姿をしたものもいる。それが狐の姿をしていた召喚獣であることを私は目の前で変身する姿を見ていたので知っている。それにしても、召喚獣って力が強いと人の姿に変化する事も出来るのだなと正直驚いて仕方がない。

 なんだか気分がすぐれなくて、そのことを問いかける気力もないけれど。

 人の姿をしているその召喚獣はとても美しい見目をしている。この国では見たことのないような東の方にある国の着物というものに似た服装を身にまとっている。美しい金色の髪を持つ女性は、非常に女性らしい体つきをしている。……私はそこまで胸が成長していないので、少しだけうらやましくなった。

『ナティ様、大丈夫ですか?』

「ええ……少しだけ気分がすぐれないだけだもの。ありがとう」

『ふふふ、お礼はいりませぬわ。ナティ様に何かございましたら、ご主人様にわたくし達が怒られてしまいますもの』

 狐の女性はそんな事を言い放つ。

 私に何かあると、ご主人様――ヴァインに怒られてしまうのだと。

 それはどうしてだろうか。私が何かに利用するのに大切な存在だから? わざわざ攫った人質を死なせたくないから? ――それとも、ヴァイン自身が私に何かあると嫌だから?

 その可能性を考えた時、私は……驚く事に嬉しかった。

 自分が喜んでいる事実がおかしかった。誘拐犯が私に何かあるのが嫌だって、私の事を大切にしているって。それが嬉しいだなんて。

 自分を攫った相手なのに、私はヴァインに嫌悪感や恐怖なんて言う悪感情は一切抱いていなくて。

 ただ、ヴァインという存在に対して私が感じているのは興味と好意なのだ。そのことに気づいて、益々おかしかった。私は自分がここから出るために、ヴァインの情報を知ろうと、そんな風に考えていた。それがヴァインを知ろうとした始まりだったけれど、私は……それを抜きにしてもヴァインに対して知りたいと感じている。そしてヴァインを嫌いなんて感情は心には一切なくて、微かな好意だけを抱いている。なんておかしいんだろうと思って、思わず横になりながら笑ってしまう。

『ナティ様、どうなさいましたか?』

「なんでもないわ。……それにしても本当に貴方達のご主人様は不思議な人ね」

『ご主人様はとても素晴らしくて愉快な方ですわ』

 自信満々に狐の女性が答えて、他の召喚獣達も『主は面白い』などと口にしている。ヴァインは不思議な少年だ。あれだけ不思議な有り方をしているからこそ、召喚獣達がこれだけ集まっているのだろうか。

 そんな風に考えていたら、急にヴァインがこの場に現れた。転移してきたのだろうか。

「ナティ様、具合悪いって? 大丈夫ですか?」

 慌てた様子で私の方にヴァインは寄ってくる。いつも中々近づいてこないのに、私が少し体調を崩すと寄ってくるのだと驚いた。それだけ心配してくれているのだろうか。

「ええ、大丈夫よ。少し頭が痛いだけだから」

「なら、よかった。……お前たち、もっとちゃんとナティ様が体調を崩さないようにしっかり見ろ」

 私に対して優しく笑ったかと思えば、ヴァインは低い声で召喚獣達に言った。こちらから表情は見えないけれど、召喚獣達がびくっとしているのを見るにヴァインは恐ろしい顔をしているのかもしれないと思った。

「ナティ様、ゆっくり休んでください。頭痛に利く薬も買ってきましたから」

 ヴァインが私の方を向いた時には、いつものヴァインだった。声も柔らかい。やはりヴァインは私に何かあるのが嫌なのだろうか。私を心配してくれているのだろうか。

 そんな思いがわいてくる。

 それから薬を飲ませてもらって、私は気づいたら眠りについていた。



 目が覚めた時に、ヴァインはまだ私の部屋の中にいた。ベッドの脇におかれた椅子に座って、眠っていた。ヴァインの寝顔を見たのは初めて、その寝顔を見ると本当にあんな力を持つようには見えない。思わず手を伸ばしたら、ヴァインはびくっとして、目を開ける。そして私の手が近くにあるのを確認すると、また逃げて行ってしまった。





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