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私が関わっているとして考えてもやっぱりわからない。

 私を攫った事。

 召喚獣を従えた事。

 その二つが関わりがあると仮定して考えてみる。

 この驚異的な力を持つ少年の力をつけた理由に私が関わりがあるかもしれないなんて、烏滸がましい勘違いかもしれないけれど。違ったら恥ずかしいような仮定だけれども。それでももしかしたらと思った。

 だってこの二つをヴァインは口ごもるから。

 どうして答えてくれないのかと考えた時に何か関係しているのではないかと思った。でも何なんだろう。私を攫った理由。こんなに力を持っていて、きっとなんだって出来るであろう少年が私を攫った理由……。

 なんだって出来るのに、ガラス職人なんてやっている理由。これだけ強いのに、普通に生きている理由。ああ、もう考えれば考えるほどわからない。

 そもそもの話、ヴァインっておそらくやろうと思えばもっと前から私のことを攫う事が出来たと思う。図書館で本を読んで、召喚獣を従えたといっていたけれど最初からこれだけの数の召喚獣と契約をしていたとは考えにくい。数匹従えた段階で私を攫うことだって十分に可能だったはずだ。

 なのに、どうしてこのタイミングだったのか。

 なぜ、私を攫うなんて真似をしたのか。そして攫ったのがなぜ、第三王女の私だったのか。

 そこに全ての謎が集約している気さえもする。

 聞いてもヴァインは答えてくれないし、召喚獣たちに聞いてもちゃんとは答えてくれない。というか、召喚獣たちはこの状況を楽しんでいるようだし。……自分の主が王族を攫っておいて、その状況を楽しんでいるって相当よね。召喚獣は主に似るものなのかしら。このとんでもない事をしておきながら平然としているところとか。

「私である、理由」

 私はそう呟いて、自身のことを振り返る。

 インダーン王国の第三王女。見た目は、お母様に似たおかげもあって整っているほうだとは自覚している。

 お母様は元々王宮に勤めていて、本来なら側妃になる立場でもなかったのにその美しさから側妃になった。美しいお母様をお父様は気に入っていて、他の側妃の方々はお母様を嫌っていた。そして私も嫌われている。

 私は後ろ盾のない王女。

 目立つ行為をすれば、側妃の方々や異母姉達がどう動くかわからないのもあって目立たないように動く事を心掛けていた。おかげ様で、目立たない王女として私は知られている事だろう。話題に上がる王子王女は二人のお兄様と二人のお姉様だけ。私は国民達の話題にもほとんど上がらないようなそんなひっそりと生きている王女。

 私は王族とはいえ、その中では目立たない分類になる。確かに王族の血は引いているものの、この国の中で最も目立たない王族。話題に上がる事さえもない王族。

 改めて私の事を考えてみると、なぜ、私を攫ったのか益々分からなかった。どうして私だったのか。何故、敢えて私だったのか。

 どうして、私でなければいけなかったのか。

 私を攫った理由。

 それがさっぱり分からない。

 なぜ、私だったのか。そのことは幾ら考えてもわからない。


 そんな思考のまま、その後やってきたヴァインに質問をぶつけた。


「ねぇ、なぜ、私だったの? お兄様やお姉様達を攫ったほうが、ずっとずっと、有益だと思うのに」

「……ナティ様じゃなきゃダメなんです」

 相変わらず少しだけ距離が離れた位置で、ヴァインは私の問いかけにそう答える。私じゃなきゃダメだと、ヴァインははっきりと言った。

 それで、私を狙って敢えて攫った事がよくわかる。でも、どうして。

「どうして?」

 そう問いかければ、やっぱりヴァインは逃げた。即座にその場から消える。残されるのは私と召喚獣たちだけだ。召喚獣たちは相変わらず愉快な物を見るような目を私に向けている。

 本当に、訳が分からない。何で、どうして、私を?

 私の価値。

 それを私自身がよく知っている。

 私は確かに、整った顔立ちをしている。その見目を気に入っている異性が多い事も知っている。そして王族である。でも――後ろ盾も何もない。目立った噂もない。王族の中では明らかに外れの分類の王族。

 ヴァインという魔法をこれだけ使えて、これだけの数の召喚獣を従える存在が攫うほどの価値は私には

 どうしてもそう思ってならない。

 かろうじて王族であるという価値はあるが、それが失われれば本当に私にはほとんど価値がない。私の価値は、お兄様やお姉様達と比べるとずっとずっと低い。

 なのに、なぜ、敢えて私なのか。

 私の何が、ヴァインの琴線に触れたのだろうか。

 その謎が分からない。

 私を嫌っているわけではないのはわかる。嫌いな相手にこれだけよい待遇を与えないだろう。召喚獣たちも、私の意思を尊重している。

 ——でも、なぜ。どうして。

 そのたった一つの疑問が、私にはさっぱりわからないのだ。






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